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番外編章
【番外編】薬の神ショウリクは悩んでいた 後編
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ほうれん草はしっかりとアク抜きされており、エグみもなく食べやすい。
ベーコンもかなり質の良いものだ。しかしこれは高級品を使ったわけではなく、村に住む農家の仕事が素晴らしいからだとコムギは説明した。
そしてトマトパスタの主役とも言えるトマトは甘いものが使われており、それに加えてバターも少し入っているようだった。
それでいて完全に酸味が消えているわけではない。
唾液の湧いてくるその味に、いつの間にかわたしはパスタを口に運ぶのに夢中になっていた。……あんなに緊張していたというのに、だ。
食事の神をちらりと見ると、彼は山盛りだったはずのパスタをすでに完食していた。わたしの目が狂っていなければ傍らに空の皿が五枚重なっており、つい先ほど食べ終えた皿を重ねたことで六枚になる。
その向こうでは旧食事の神も似たような食べ方をしていた。
「シロさん、コゲちゃん、スープも持ってきました!」
「おっ、この匂いは……オクラのレモンスープか?」
正解です、とにこにこ笑いながらコムギは食事の神の前に鍋ごとオクラのレモンスープを置いた。日常茶飯事なのか手慣れていたが、ふらついたのを見て食事の神が「コゲの分は俺が持ってくよ」と席を立ち厨房へと向かう。
コムギは少し申し訳なさそうにしていたが、素直に好意に甘えられるほどには彼との間に絆があるようだった。
「あっ、ショウリク様も食べ終わったらスープを持ってきますね! もしレモンやオクラが苦手ならリクエストを聞くこともできますよ」
「い、いや、同じもので是非。……元気そうに見えたが、どこか不調なところでもあるのか?」
食事の後にしようと考えていたが、あんな様子を見せられては気が気でない。
するとコムギは「いえいえ! ちょっとした夏バテですよ!」と首を横に振った。
食事の神の言っていた通り大ごとにしたくないようだ。しかしそうやって小さな不調を見逃してのちのち大病をするという例も多い。
「……夏バテでも緩和させられる薬を調薬できるかもしれない。あとは体に負担なく体力を付けたり、栄養素を賄う薬などがある。あとで詳しく話を聞いてもいいか?」
「わ、そんな便利なものがあるんですか!? その……じゃあショウリク様の負担にならなければ是非!」
そうにっこりと笑ったコムギに頷き、わたしは残りのトマトパスタを啜った。
***
爽やかな旨みのレモンスープを飲み終え、さあ話を聞こうかと考えたところで食事処デリシアに予想外の客が現れた。
管理の神バージルだ。
管理の神とはあの一件の後に正式に謝罪されたが、わたしはただ彼に唆された被害者というわけではない。よって謝罪は受け入れ、こちらからも止めるべきところを止めなかったと謝った。
それ以降は天界であまり接点がなく、ほとんど会うことがなかった。
顔を見ても大人数が集まった場所でだ。
管理の神はわたしの存在に驚いていたが、恐らくわたしも同じ表情をしていただろうと思う。
お互い気まずくなることはわかっていたので、改めて謝り合うことはしなかったが、見なかったことにしてスルーし合う距離でもない。
そのため軽い挨拶を交わし、管理の神は食事の神に声をかけた。
「ほら、先日言ってたオレンジの神が天界で育てているオレンジだよ。今日来たのはボクだけだから少量だけどね」
「いや、これだけあれば十分だ。俺じゃなくってコムギにあげたくてさ、こないだ食べたそうにしてたんだ」
ありがとうな、と食事の神は嬉しげに麻袋を受け取りながら笑う。
――随分と親しげだ。
わたしがモタモタとしている間に管理の神は何度もここに訪れていたらしい。
(そんな姿は昔なら思い浮かびもしなかったが……)
神も変わるものなのだな、と感心した。
それと同時に羨ましくなる。わたしも管理の神のように変わっていけるだろうか。
……いや、変わりたい。もう天界で悶々としているだけは嫌だ。
その第一歩としてコムギの役に立ちたくて、向かいの席に座ってもらい質問を始める。医学の神ほどではないがわたしにも心得はあるのだ。
「どんな些細な不調でもいい。最近困っていることを教えてくれ」
「えっと……そうですね……すぐふらついちゃうんですが、多分あまりご飯を食べれてないからだと思うんです」
夏バテにありがちな症状だな。
しかし決めつけは厳禁。更に詳しく訊いていく。
「なのに柑橘類は食べやすくて。さっきのレモンスープもじつは自分が食べたくて作ったんですよ。えへへ、職権乱用です」
「ふむ……? それ以外だと単に喉が通らないのか?」
「ウッてなります。べつに脂っこいというわけでもないんですけど、匂いだけでもダメな時があって。……あっ、今日は比較的大丈夫な食材をチョイスしたので心配ご無用ですよ」
「……」
話を聞いている間に無言になってしまった。
食事の神を見ると彼は特に変わったところはなく、普通に心配している様子だ。
一方管理の神は――ああ、あの表情はわたしと同じ考えなのだろう。さすが多種多様な情報を管理しているだけある。専門外でもある程度の知識はあるらしい。
わたしは咳払いをしてから告げる。
「医学の神アイスレームのもとへ行こう」
「!? コ、コムギはそんなに悪いのか!?」
「詳しく検査したほうがいいだろう。稀有な例である可能性がある」
食事の神の狼狽えっぷりはなかなかのものだった。
慌ててこちらへ向かったせいでイスに思いきり足をぶつけて転びかけている。
神の肉体には傷ひとつ付かないが、なぜか人間のように痛がる仕草をしながら足を進めて我々のテーブルに手をつく。
「そっ、それなら俺もついていったほうがいいよな、でも店が、ええと」
「我、切り盛りできる。料理はミール。問題ない」
いつの間にか席を立った旧食事の神が食事の神を宥めている。
そんな彼女も心配げにしていたが、食事の神ほどではない。
その時、管理の神がやれやれといった表情でわたしに言った。
「もっとハッキリ言わないと通じないよ。食事に関しては凄まじいが、それ以外は色んな意味で人並みだからね」
「ちょ、バージル、それどういう意味だ?」
「……なるほど、管理の神の言う通りみたいだ。ではまだ予想の段階だという前提で聞いてほしいんだが……」
もったいぶっても食事の神が狼狽えるだけだ。
ここは一息で伝えてしまおう。
「コムギは妊娠している可能性がある」
――食事の神は大仰に驚いてあたふたとしたかと思えば、なにもないところで躓いて大きく尻餅をつく。
それは先ほど想像した様子の倍は狼狽えていた。
***
医学の神は気難しげな顔をした老女の姿をしている。
しかし腕は確かであり、患者として訪れた者に嫌味を言ったりすることもない。
ただひたすら淡々と作業をこなすのが常だが――今日ばかりは目を見開いて「わたくしの代で見たのは初めてです」と驚いていた。
コムギが妊娠しているかもしれないという予想は見事に当たり、医学の神はふたりを祝福する。その言葉でようやく事態を呑み込めたふたりは大いに喜んでいた。
食事の神など泣いていたくらいだ。
……人間と神の婚姻は皆に祝福されていたが、それでも悩むことも多かったんだろう。わたしでさえそう察せた。
「はぁー……でも俺が先に気づくべきだったよな……ごめん、コムギ。悪阻があるのに仕事してしんどかったろ?」
「いえ! 私こそてっきり夏バテだと思い込んでて……自分のことなのに……」
「ほらほら、ふたりとも。ここは喜ぶだけにしたらどうだい? 普通は神と人間の間に子が宿ることは稀だからね、前例はあるが直に見た神がほとんどいないくらい前だ」
そう管理の神がふたりを宥める。
なんでも昔の文献として管理する情報にそういったものが含まれていたらしい。
かつて下界に存在した半神半人は国を興して英雄になったそうだ。そして寿命や丈夫さも普通の人間より優れていた。
ただしそれ以降の出現は聞かないそうだ。
「とても丈夫で病気知らず、そして加護は受けているが司るものがないから堕ちる心配もない。これからきみたちがやるべきことは、無事に生まれてくるよう準備したり育成について悩むことだよ」
「そうだな……ありがとう、バージル。まずはコムギに休んでもらって、みんなにも知らせて色々と準備しよう」
頷いた食事の神に管理の神も「それがいい」と頷き返し、そして一枚のメモを手渡した。
なにやらびっしりと色々なことが書いてある。
「妊婦の体にいいものや禁忌事項を纏めてある。これはお礼だ、受け取れ」
「お、お礼?」
「神と人間の間の子供、そんな稀有な存在の情報をこれからリアルタイムで記して管理できるんだからね。管理の神冥利に尽きるよ」
……管理の神は今まで自分の管理するものにそういう感情を向けたことがないはず。これは恐らく遠回しな普通のお祝いだ。
食事の神にもそれは伝わったようで「回りくどいぞ」と笑いながらメモを受け取って礼を言っていた。
雨降って地固まるというか、良い関係なんじゃないだろうか。
そう思っているとわたしの裾をコムギが引いた。
「ショウリク様、今回はありがとうございました。おかげで慌てずにしっかりと準備できそうです!」
「はは、食事の神のほうは先行して慌てていたようだが。……その、気づけてよかった。改めておめでとう、コムギ。よき子を産んでくれ」
「はい! ふふ、私からもお礼をしなきゃですね。なにか欲しいものやしてほしいことはありますか?」
妊婦になにか頼むというのは気が引ける。
だというのに、わたしの中にはひとつの『お願いごと』が自然と湧いていた。
少し前の自分なら口にすることはできなかっただろうが――視線をやった先にいる食事の神と管理の神。彼らを羨むだけでは前に進めない。
わたしは大きな一歩としてコムギに伝えた。
「ならば……これからは様付けをやめ、更に身近な友として接してもらえるだろうか。それ以外ならコムギの呼びやすいもので構わない」
「! いいんですか? 私もそうしたかったんです、じゃあ……これからはショウリクさんって呼ばせてもらいますね!」
聞けば王都の友のこともさん付けで呼んでいるのだという。
呼び捨てやあだ名でなくとも彼女が親しみを込めて呼んでいるという証拠だ。そう思うと嬉しかった。
わたしの踏み出した一歩は大きくはない。
しかしコムギと並び立つには十分だったらしい。
これなら――また食事処デリシアへ向かう時は、前よりも胸を張って扉をくぐれそうだ。
友のもとへ遊びに行くのに、二の足を踏むことはきっともうない。
ベーコンもかなり質の良いものだ。しかしこれは高級品を使ったわけではなく、村に住む農家の仕事が素晴らしいからだとコムギは説明した。
そしてトマトパスタの主役とも言えるトマトは甘いものが使われており、それに加えてバターも少し入っているようだった。
それでいて完全に酸味が消えているわけではない。
唾液の湧いてくるその味に、いつの間にかわたしはパスタを口に運ぶのに夢中になっていた。……あんなに緊張していたというのに、だ。
食事の神をちらりと見ると、彼は山盛りだったはずのパスタをすでに完食していた。わたしの目が狂っていなければ傍らに空の皿が五枚重なっており、つい先ほど食べ終えた皿を重ねたことで六枚になる。
その向こうでは旧食事の神も似たような食べ方をしていた。
「シロさん、コゲちゃん、スープも持ってきました!」
「おっ、この匂いは……オクラのレモンスープか?」
正解です、とにこにこ笑いながらコムギは食事の神の前に鍋ごとオクラのレモンスープを置いた。日常茶飯事なのか手慣れていたが、ふらついたのを見て食事の神が「コゲの分は俺が持ってくよ」と席を立ち厨房へと向かう。
コムギは少し申し訳なさそうにしていたが、素直に好意に甘えられるほどには彼との間に絆があるようだった。
「あっ、ショウリク様も食べ終わったらスープを持ってきますね! もしレモンやオクラが苦手ならリクエストを聞くこともできますよ」
「い、いや、同じもので是非。……元気そうに見えたが、どこか不調なところでもあるのか?」
食事の後にしようと考えていたが、あんな様子を見せられては気が気でない。
するとコムギは「いえいえ! ちょっとした夏バテですよ!」と首を横に振った。
食事の神の言っていた通り大ごとにしたくないようだ。しかしそうやって小さな不調を見逃してのちのち大病をするという例も多い。
「……夏バテでも緩和させられる薬を調薬できるかもしれない。あとは体に負担なく体力を付けたり、栄養素を賄う薬などがある。あとで詳しく話を聞いてもいいか?」
「わ、そんな便利なものがあるんですか!? その……じゃあショウリク様の負担にならなければ是非!」
そうにっこりと笑ったコムギに頷き、わたしは残りのトマトパスタを啜った。
***
爽やかな旨みのレモンスープを飲み終え、さあ話を聞こうかと考えたところで食事処デリシアに予想外の客が現れた。
管理の神バージルだ。
管理の神とはあの一件の後に正式に謝罪されたが、わたしはただ彼に唆された被害者というわけではない。よって謝罪は受け入れ、こちらからも止めるべきところを止めなかったと謝った。
それ以降は天界であまり接点がなく、ほとんど会うことがなかった。
顔を見ても大人数が集まった場所でだ。
管理の神はわたしの存在に驚いていたが、恐らくわたしも同じ表情をしていただろうと思う。
お互い気まずくなることはわかっていたので、改めて謝り合うことはしなかったが、見なかったことにしてスルーし合う距離でもない。
そのため軽い挨拶を交わし、管理の神は食事の神に声をかけた。
「ほら、先日言ってたオレンジの神が天界で育てているオレンジだよ。今日来たのはボクだけだから少量だけどね」
「いや、これだけあれば十分だ。俺じゃなくってコムギにあげたくてさ、こないだ食べたそうにしてたんだ」
ありがとうな、と食事の神は嬉しげに麻袋を受け取りながら笑う。
――随分と親しげだ。
わたしがモタモタとしている間に管理の神は何度もここに訪れていたらしい。
(そんな姿は昔なら思い浮かびもしなかったが……)
神も変わるものなのだな、と感心した。
それと同時に羨ましくなる。わたしも管理の神のように変わっていけるだろうか。
……いや、変わりたい。もう天界で悶々としているだけは嫌だ。
その第一歩としてコムギの役に立ちたくて、向かいの席に座ってもらい質問を始める。医学の神ほどではないがわたしにも心得はあるのだ。
「どんな些細な不調でもいい。最近困っていることを教えてくれ」
「えっと……そうですね……すぐふらついちゃうんですが、多分あまりご飯を食べれてないからだと思うんです」
夏バテにありがちな症状だな。
しかし決めつけは厳禁。更に詳しく訊いていく。
「なのに柑橘類は食べやすくて。さっきのレモンスープもじつは自分が食べたくて作ったんですよ。えへへ、職権乱用です」
「ふむ……? それ以外だと単に喉が通らないのか?」
「ウッてなります。べつに脂っこいというわけでもないんですけど、匂いだけでもダメな時があって。……あっ、今日は比較的大丈夫な食材をチョイスしたので心配ご無用ですよ」
「……」
話を聞いている間に無言になってしまった。
食事の神を見ると彼は特に変わったところはなく、普通に心配している様子だ。
一方管理の神は――ああ、あの表情はわたしと同じ考えなのだろう。さすが多種多様な情報を管理しているだけある。専門外でもある程度の知識はあるらしい。
わたしは咳払いをしてから告げる。
「医学の神アイスレームのもとへ行こう」
「!? コ、コムギはそんなに悪いのか!?」
「詳しく検査したほうがいいだろう。稀有な例である可能性がある」
食事の神の狼狽えっぷりはなかなかのものだった。
慌ててこちらへ向かったせいでイスに思いきり足をぶつけて転びかけている。
神の肉体には傷ひとつ付かないが、なぜか人間のように痛がる仕草をしながら足を進めて我々のテーブルに手をつく。
「そっ、それなら俺もついていったほうがいいよな、でも店が、ええと」
「我、切り盛りできる。料理はミール。問題ない」
いつの間にか席を立った旧食事の神が食事の神を宥めている。
そんな彼女も心配げにしていたが、食事の神ほどではない。
その時、管理の神がやれやれといった表情でわたしに言った。
「もっとハッキリ言わないと通じないよ。食事に関しては凄まじいが、それ以外は色んな意味で人並みだからね」
「ちょ、バージル、それどういう意味だ?」
「……なるほど、管理の神の言う通りみたいだ。ではまだ予想の段階だという前提で聞いてほしいんだが……」
もったいぶっても食事の神が狼狽えるだけだ。
ここは一息で伝えてしまおう。
「コムギは妊娠している可能性がある」
――食事の神は大仰に驚いてあたふたとしたかと思えば、なにもないところで躓いて大きく尻餅をつく。
それは先ほど想像した様子の倍は狼狽えていた。
***
医学の神は気難しげな顔をした老女の姿をしている。
しかし腕は確かであり、患者として訪れた者に嫌味を言ったりすることもない。
ただひたすら淡々と作業をこなすのが常だが――今日ばかりは目を見開いて「わたくしの代で見たのは初めてです」と驚いていた。
コムギが妊娠しているかもしれないという予想は見事に当たり、医学の神はふたりを祝福する。その言葉でようやく事態を呑み込めたふたりは大いに喜んでいた。
食事の神など泣いていたくらいだ。
……人間と神の婚姻は皆に祝福されていたが、それでも悩むことも多かったんだろう。わたしでさえそう察せた。
「はぁー……でも俺が先に気づくべきだったよな……ごめん、コムギ。悪阻があるのに仕事してしんどかったろ?」
「いえ! 私こそてっきり夏バテだと思い込んでて……自分のことなのに……」
「ほらほら、ふたりとも。ここは喜ぶだけにしたらどうだい? 普通は神と人間の間に子が宿ることは稀だからね、前例はあるが直に見た神がほとんどいないくらい前だ」
そう管理の神がふたりを宥める。
なんでも昔の文献として管理する情報にそういったものが含まれていたらしい。
かつて下界に存在した半神半人は国を興して英雄になったそうだ。そして寿命や丈夫さも普通の人間より優れていた。
ただしそれ以降の出現は聞かないそうだ。
「とても丈夫で病気知らず、そして加護は受けているが司るものがないから堕ちる心配もない。これからきみたちがやるべきことは、無事に生まれてくるよう準備したり育成について悩むことだよ」
「そうだな……ありがとう、バージル。まずはコムギに休んでもらって、みんなにも知らせて色々と準備しよう」
頷いた食事の神に管理の神も「それがいい」と頷き返し、そして一枚のメモを手渡した。
なにやらびっしりと色々なことが書いてある。
「妊婦の体にいいものや禁忌事項を纏めてある。これはお礼だ、受け取れ」
「お、お礼?」
「神と人間の間の子供、そんな稀有な存在の情報をこれからリアルタイムで記して管理できるんだからね。管理の神冥利に尽きるよ」
……管理の神は今まで自分の管理するものにそういう感情を向けたことがないはず。これは恐らく遠回しな普通のお祝いだ。
食事の神にもそれは伝わったようで「回りくどいぞ」と笑いながらメモを受け取って礼を言っていた。
雨降って地固まるというか、良い関係なんじゃないだろうか。
そう思っているとわたしの裾をコムギが引いた。
「ショウリク様、今回はありがとうございました。おかげで慌てずにしっかりと準備できそうです!」
「はは、食事の神のほうは先行して慌てていたようだが。……その、気づけてよかった。改めておめでとう、コムギ。よき子を産んでくれ」
「はい! ふふ、私からもお礼をしなきゃですね。なにか欲しいものやしてほしいことはありますか?」
妊婦になにか頼むというのは気が引ける。
だというのに、わたしの中にはひとつの『お願いごと』が自然と湧いていた。
少し前の自分なら口にすることはできなかっただろうが――視線をやった先にいる食事の神と管理の神。彼らを羨むだけでは前に進めない。
わたしは大きな一歩としてコムギに伝えた。
「ならば……これからは様付けをやめ、更に身近な友として接してもらえるだろうか。それ以外ならコムギの呼びやすいもので構わない」
「! いいんですか? 私もそうしたかったんです、じゃあ……これからはショウリクさんって呼ばせてもらいますね!」
聞けば王都の友のこともさん付けで呼んでいるのだという。
呼び捨てやあだ名でなくとも彼女が親しみを込めて呼んでいるという証拠だ。そう思うと嬉しかった。
わたしの踏み出した一歩は大きくはない。
しかしコムギと並び立つには十分だったらしい。
これなら――また食事処デリシアへ向かう時は、前よりも胸を張って扉をくぐれそうだ。
友のもとへ遊びに行くのに、二の足を踏むことはきっともうない。
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☆見切り発車のため、後日変更・追記する場合があります。体調が不安定のため、かける時に書くスタイルです。不定期更新。
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