めーぷる詰め合わせ<SS&短編集>

楓乃めーぷる

文字の大きさ
12 / 35

恋人だった記憶がないって本当?

しおりを挟む
 彼が事故にあったと聞いて、俺は慌てて病室に駆け付けた。
 最後に彼と連絡を取っていたのが俺だったらしい。
 
 無事で良かったと彼を抱きしめたら、居心地悪そうに身体を動かされる。
 痛かったのかと身体を離すと、彼はごめんと謝ってからここ一年の記憶がないと教えてくれた。
 俺との関係も覚えてないと言われてしまって、二人の間に気まずい空気が流れる。
 彼が助かったことを喜ぶべきなのに、俺はどうしても確かめずにいられなかった。
 
「恋人だった記憶がないって本当?」
「悪い、全く覚えてなくて。今の俺にとっては初めましてなんだけど……」
「そっか……いきなり抱きしめたりして悪かったな。じゃあ、改めて自己紹介してもいいかな」

 俺は少しでも思い出してほしくて、簡単な自己紹介をしてから彼との出会いから今までのことを話した。
 彼は一生懸命話を聞いてくれていたけど、やっぱり思い出せないと申し訳なさそうに言ってきた。

「いや、急に言われても困るよな。俺の方こそごめん」
「俺は覚えてないけど、君が良いヤツなことは分かるよ。だから……また話を聞かせて欲しい」

 俺は辛い気持ちを隠すように、笑いながら頷いた。

 +++

 彼は少し頭を打ってしまったけど、検査をして異常がなければ早めに退院できるらしい。
 俺は彼が退院するまで毎日通って、俺たちの話をし続けた。
 最初は辛いだけだったけど、一から彼との関係を築くのも悪くない。
 だけど……。

「……そっか。もうすぐ退院できるのか。良かった」
「ありがとう。けど、何だか嬉しそうじゃないな」
「そんなことないよ」

 俺は笑ってごまかしたけど、これ以上彼の顔を見ているのが辛くなって適当な言い訳をしてから背を向ける。
 
「どうしたんだよ、具合悪い?」

 彼に腕を掴まれてしまい、逃げられないと腹を括ってゆっくりと振り返った。
 最初は楽しかったけど、今では後悔している。
 こんなことするべきじゃなかったんだって。

「どうしたんだよ」
「……謝るのは俺の方なんだ。だって俺は……」

 俺は……嘘をついた。
 彼と付き合っていたのは俺じゃない。
 俺の片想いで、彼には付き合っていた別の彼氏がいた。
 だけど、最近二人の仲がうまくいっていないと相談を受けていたから記憶がないと聞いて自分が彼氏のフリをしてしまった。
 俺は、最低なヤツだ。

「知ってたよ」
「え……?」
「思い出したんだ、君のこと。だけど、君と一緒に過ごして分かったんだ。俺も君に甘えてたなってさ」

 彼は恥ずかしそうに笑ってから、ありがとうと笑ってくれた。
 俺が泣き始めると、今度は彼が慰めるように俺を強く抱きしめてくれる。

「改めて、よろしく。俺の恋人さん」

 彼の優しい声に甘えるように、俺は小さく頷いた。
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

【完】君に届かない声

未希かずは(Miki)
BL
 内気で友達の少ない高校生・花森眞琴は、優しくて完璧な幼なじみの長谷川匠海に密かな恋心を抱いていた。  ある日、匠海が誰かを「そばで守りたい」と話すのを耳にした眞琴。匠海の幸せのために身を引こうと、クラスの人気者・和馬に偽の恋人役を頼むが…。 すれ違う高校生二人の不器用な恋のお話です。 執着囲い込み☓健気。ハピエンです。

【完結】愛されたかった僕の人生

Kanade
BL
✯オメガバース 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。 今日も《夫》は帰らない。 《夫》には僕以外の『番』がいる。 ねぇ、どうしてなの? 一目惚れだって言ったじゃない。 愛してるって言ってくれたじゃないか。 ねぇ、僕はもう要らないの…? 独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。

熱中症

こじらせた処女
BL
会社で熱中症になってしまった木野瀬 遼(きのせ りょう)(26)は、同居人で恋人でもある八瀬希一(やせ きいち)(29)に迎えに来てもらおうと電話するが…?

死ぬほど嫌いな上司と付き合いました

三宅スズ
BL
社会人3年目の皆川涼介(みながわりょうすけ)25歳。 皆川涼介の上司、瀧本樹(たきもといつき)28歳。 涼介はとにかく樹のことが苦手だし、嫌いだし、話すのも嫌だし、絶対に自分とは釣り合わないと思っていたが‥‥ 上司×部下BL

邪神の祭壇へ無垢な筋肉を生贄として捧ぐ

BL
鍛えられた肉体、高潔な魂―― それは選ばれし“供物”の条件。 山奥の男子校「平坂学園」で、新任教師・高尾雄一は静かに歪み始める。 見えない視線、執着する生徒、触れられる肉体。 誇り高き男は、何に屈し、何に縋るのか。 心と肉体が削がれていく“儀式”が、いま始まる。

君に不幸あれ。

ぽぽ
BL
家族にも見捨てられ、学校で孤独を感じていた静。 毎日が辛くて生きる意味を失いかけた彼の前に現れたのは、眩しい太陽のような青年天輝玲。 玲の存在は、静の壊れかけていた心の唯一の救いだった。 しかしある日、玲の口から聞いたある言葉で、信頼から憎悪へと変わった。 それから十年。 玲と再会を果たした静は復讐を果たそうとする。

十七歳の心模様

須藤慎弥
BL
好きだからこそ、恋人の邪魔はしたくない… ほんわか読者モデル×影の薄い平凡くん 柊一とは不釣り合いだと自覚しながらも、 葵は初めての恋に溺れていた。 付き合って一年が経ったある日、柊一が告白されている現場を目撃してしまう。 告白を断られてしまった女の子は泣き崩れ、 その瞬間…葵の胸に卑屈な思いが広がった。 ※fujossy様にて行われた「梅雨のBLコンテスト」出品作です。

同居人の距離感がなんかおかしい

さくら優
BL
ひょんなことから会社の同期の家に居候することになった昂輝。でも待って!こいつなんか、距離感がおかしい!

処理中です...