月下と陽光の魔法使い

楓乃めーぷる

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番外編

番外編 ミューンとシルヴァ2

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 挨拶代わりの闘気に怖気ずく程度の輩なら大したことはなさそうだ。
 問題はお嬢さんが惚れたという盗賊の頭だが……地下に潜んでいるのだろうか?
 お嬢さんも一緒にいてくれたら手間が省ける。

「お前、何者だ!」
「さっき言っていただろう? 冒険者だ。依頼を受けてきた」
「依頼だってぇー? 俺らの駆除でもしようってのか?」

 ゴロツキたちが殺気立つ。店の片隅に転がっていたらしい斧や剣を構えるものも現れた。
 ミューンは店の外で気配を消しているから、俺一人で乗り込んできたのだと思っているだろう。
 
「だったらどうする? お前らには用はないんだがな」
「うるせぇ! やっちまえ!」

 武器を構えた奴らが俺へ襲い掛かってくる。
 動きの鈍いヤツらだ。一歩、二歩と軽く地を跳ねる程度で躱すことができる。
 奴らの目では俺の姿を追いきれないだろう。

 俺の足さばきは闘気を乗せる独特の歩法を使っている。
 歩法は独自に開発したものだが、闘気さえ使えればそこまで難しくはない。
 闘気を下半身に集め、纏うような感覚だ。ただ、速さについては自信がある。
 速さを出すには纏う闘気の量の調整が必要になってくるため、模倣されにくいだろう。
 だとしても、伝説級の強さを持つ者には俺も到底敵わない。

「ちょこまかと動きやがって!」
「ぐわっ!」

 軽く飛ぶように室内を動き回り、剣で盗賊を一人ずつ昏倒させていく。
 縄で縛っておけば、この街の自警団でも捕まえることができるはずだ。
 これで依頼の一つをこなしたことになる。

「大人数じゃなくて助かったな。さて、後は地下だが……」

 粗方片づけてカウンターの奥を調べていると、壁に妙な出っ張りを発見する。
 グッと押し込むと、酒の棚が音を立てて横へズレていく。
 外の警戒はミューンに任せて、俺は薄暗い地下へと進んでいく。

 階段を下りた先に、灯りの漏れている部屋が見えてきた。
 上の物音に気付いたのか、扉から同じような姿の盗賊たちが姿を現す。
 暗闇に紛れて距離を縮め、まずは一人昏倒させた。

「な、おい!」

 混乱する盗賊を尻目に、一人また一人と制圧していく。
 しかし、ここにいるのも大したことのない奴らばかりで頭は見当たらない。
 もっと大勢盗賊がいると思っていたが、上にいた奴らと合わせても十数人といったところだろう。

『シルヴァ、裏口から男と女が出てきたぞ。例のお嬢さんと頭のようだ』

 三日月の形の耳飾りからミューンの声が聞こえてくる。魔法で声を伝えることできる魔道具だ。
 俺には魔力がないから声を伝えることはできないが、聞くだけはできる。
 辺りを見回すと更に奥の部屋があり、そこから外へ出られる抜け道があるようだ。

「ここにいたのなら、捕まえられそうだな」

 俺は地下の階段を駆け上り、外で逃亡者を見張っているミューンの元へ急いだ。

「さすが疾風。二人は森へ逃げようとしているみたいだが、逃げられないように進路は塞いでおいたぞ」

 ミューンが持つ杖の先を見ると、見えない壁らしきものに阻まれている二人が慌てている姿が見える。
 この場所からそう遠くない位置だ。
 
「お前が追って捕まえてくれても構わないんだがな」
「言っただろう? シルヴァの見た目にかけようと。お嬢さんにシルヴァの方が盗賊の頭より男らしくて魅力的だと分からせればいい。それに一人は姿を見せない方が格段に成功率があがるというものだ」
「また俺を矢面に立たせるつもりか。仕方ない、援護頼む」
「勿論だ。行こう、シルヴァ」

 ミューンの策とやらはいつも通りならばうまくいくだろう。
 俺は言われた通りに、見えない壁の前で困惑している男女の側へ駆けた。
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