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その心の行方
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ゴトゴトと荷馬車に揺られる。
野営地までは一時間ほど。
荷馬車の中は、荷物が高く積まれていて、申し訳程度に三人ぐらいで座れる長椅子が一つだけ。
ラウルとアイオライトが並んで座っている。
今日のラウルはラフな格好で、白ポロシャツに黒のスキニーパンツ。ポロシャツの襟部分の一部が黒く、シンプルな出で立ちだ。スタイルの良さが際立つ。
いつも騎士団の制服か、それに準ずるような恰好をしていたのでアイオライトは私服を見るのは初めて。
「ん? 大丈夫? ちょっと顔が赤いよ」
かなり凝視してしまっていたのか、ラウルが自分を見て首をかしげている。
《ラウルの首を傾げる可愛いしぐさの攻撃》
《クリティカルヒット!!》
《アイオライトは顔が熱くなるのを抑えられない》
「そ、う、ですね。幌の中がちょっと暑くて。風魔法で換気しますね」
ラウルのゲームスチルのようなキラキラの流れ弾に当たったアイオライトは、危ない危ないと、火照る顔も風魔法で冷やして違うことを考える。
ポコポコと聞こえる馬の足音が、耳に心地いい。
昼から積み込みの準備などをしていて疲れたのか、その音につられたのか少しだけ眠たい。
でも、先ほどのマークの過保護さ加減を思い出して、声を出して眠気を追いやる。
「今日はどれぐらいの人数がいらっしゃるんでしょうか」
「う~ん、父と母だけで良かったんだけれど、アイオライトはいっぱい食材準備してくれたんだよね」
「そりゃそうですよ。バーベキューはみんなでワイワイするのが醍醐味ですからね」
「たぶん十人ぐらいかなと思うんだけれど……」
総勢何人なのか予想がつかないと困るなと思っていが、十人ぐらいなら食材は十分足りる。
寧ろ余ってしまうかもしれないが、気に入ってもらえたらクーラーボックスごと持って帰ってもらえばいい。
バーベキューのことを考えていたアイオライトとは裏腹に、ラウルは打ち明けるタイミングをずっと計っていた。そして、他愛もない会話中の今がチャンスかもしれないと口を開いた。
「あのさ、アイオライト。俺話しておかなくちゃいけないことがあるんだ」
「なんでしょうか?」
「俺、実は……いや、えっと」
少し間をおいてラウルは意を決したように話し出す。
「俺の名前はラウル・ドゥ・アルタジアです。この国の第三王子で、騎士団所属。イシスに来てから約半年、最近君と友達になりました。これからも友達でいてくれますか?」
凄いパワーワード来た!という気持ちとともに、
ギャー!ラウル本物の王子様だった!
これは推せる要素が増えてしまった。
高貴な人だと知ったけれども、友達なのだから。
真摯にその告白を受けたならば、受けて立つ!
と、湧き立つ心をなんとか押し込め、アイオライトはしっかりと言葉を返すことに集中する。
「自己紹介ありがとうございます。自分はアイオライト・キジュ・ユレルです。金の林檎亭の店主です。どうぞこれからも良いお友達でいてください」
座っているが深々と頭を下げてる。
「いいの?」
「え? ダメなんですか?」
顔を上げると泣きそうな顔のラウルがアイオライトを見ている。
「ダメじゃない。ダメじゃないよ」
「おぉ、良かったです。でも、本当に王子様なんですか?」
「驚いてるというより疑っている?」
ちょっと笑ってくれていることに安心する。
マークもそうだったが、変わらないテンションが心地いい。
「疑っているわけじゃないです! ただ、元々ラウルさんは自分の理想の王子様なので驚きはあまりないというか……」
大きく馬車が弾んで、ガタリと車輪が鳴る。アイオライトの王子様のくだりはラウルには聞こえなかった。
「あの……、ラウルさんが王子だったらお父さんとお母さんは王様と王妃様ですよね?」
「そうだね」
「王様と王妃様だと、会う時にちょっと緊張しちゃいますね」
「怖い人たちじゃないから、大丈夫だよ」
「着替えてきてよかったですかね」
「古い青い服から一番新しい青い服に着替えただけだけどね。良いと思うよ」
ラウルは笑いだしたいのを我慢して、返事をすると、こくんと神妙な面持ちでアイオライトが頷く。
「ならよかったです!」
ふんふん、うなずいているアイオライトに尋ねた。
「ねぇ、本当に……」
「ラウルさんは心配性ですね。時と場合はわきまえますが、ラウルさんが望まなければ変わったりはしませんよ。友達ですから。約束です」
そういって、アイオライトは指切りの為に小指を差し出す。
ラウルは、差し出された手を一旦両手で包み込んでから、自分の小指を一瞬だけ絡めて、すぐ離れた。
「ラウルさん?」
「うん……」
「あれ? まだ幌の中暑いですか?」
「うん……」
ぺたりとアイオライトの小さな手が、ラウルの頬にそっと触れる。
「凄い熱いですね。熱中症になるといけないですし、風魔法使いましょうか?」
自分でもわかるほど頬に熱が集まっている。
アイオライトの顔を、今は見れない。
幸せだと思う気持ちの他に何かがありそうなのに、熱が邪魔して考えがまとまらない。
みっともないところなんて見せたくないのに、と少し泣きたい気持ちになる。
「到着ですよ~。」
丁度いいタイミングで御車が到着を告げた。
「外に出れば平気だよ。ありがとう。アイオライト」
アイオライトはエスコートされる前に荷馬車から一人で外に出て、ラウルの手を取ろうと待っている。
「熱中症を甘く見てはいけませんからね。念のためお手をどうぞ」
「ありがとう」
ラウルはその小さな手を取った。
「どういたしまして」
「あはは、アイオライトが王子様みたいだね」
少しだけ余裕が出てきたのか、軽口が口をついた。
どちらともなく笑いがこみあげてきてついつい大きな声で笑ってしまう。
「お前はお姫様みたいだけどな」
荷馬車を降りたところで待っていたリチャードが、呆れた顔でラウルに声をかけた。
表情が柔らかいことから、ちゃんと話せたのではないかと予想する。
「ようこそ、アイオライト。今日はよろしくお願いします」
「はい! しっかり務めさせていただきますね」
「ラウルのご両親の移動式住居にご案内しますね。荷物は幌の中の分で全部ですか?」
リチャードが指示を出して、手際よくどんどん荷物が運ばれていく。
よくよく周りを見ると、とても大きな移動式住居が一つと普通ぐらい大きさのものが十、小さいものが数えきれないほどある。野営と言うよりもなんか小さな村のような規模だ。
「えっと、ラウルさん、ここ十人以上いませんか?」
「そうだね」
「これじゃ全然材料も足りないです……」
「いや、全員の食事の面倒見なくてもいいんだよ。父上と母上のところだけで」
思っていたのと違うけど、なるようにしかならないかな。
とアイオライトは楽観的に考えることにする。
「さて、では行こうか」
促されて一番大きな移動式住居の前に来ると、ギルベルクが待っていた。
「あなたがアイオライト嬢ですね。アルタジア王の側近のギルベルクです。ラウル様から少しだけお話をお伺いいたしましたが、本日は何卒宜しくお願い致します」
「こ、こちらこそよろしくお願いします」
丁寧な挨拶の後、さらに移動式住居の中に招き入れられる。
「父上、母上、アイオライトをお連れいたしました」
ラウルの口調が急に畏まったものになって、アイオライトはこれから国王と王妃と会うのだと実感がわいてきた。
「畏まらなくてもよい。そなたがアイオライトであるな」
ラウルに似た面差しの二人が目の前にいる。国王と王妃だろう。
「はい。アイオライト・キジュ・ユレルと申します。本日は自分の友達であるラウルさんのご両親に、お食事を作りに参りました。是非お楽しみください」
国王と王妃に食事を作りに来たのではないと、あくまでラウルの両親に、とアイオライトは強調する。
そっと横から見守っていたラウルは何故かとても満足そうな顔をしていた。
「ユレル……。そなたはヴィンスとジョゼットの血縁であるか?」
「父と母です」
「そうか、うむ。そなたが二人の愛娘か」
「エグバード様、そろそろ用意をしてもらいましょう。アイオライト嬢、どうぞこちらへ」
アルタジア王も王妃もアイオライトとまだ何かを話したそうにしていたが、ギルベルクが準備に移るようにと声をかけてそのまま一旦下がるように促される。
「父上、母上、私もアイオライトと一緒に準備します故一旦下がらせていただきます。後ほどまた」
一緒にアイオライトとラウルも移動式住居から外にでて準備に取り掛かる。
「やっぱり、緊張しますね」
「そうかい? 意外と普通だったよ? さすがアイオライトだ」
「王様と王妃様と言うよりは、ラウルさんのご両親にご飯を作りに来ましたので……時と場合、わきまえられましたかね」
「うん。ありがとう」
「質問があるんですけれどいいですか?」
外に出て少し歩いたところで、アイオライトがラウルに小声で話しかけてきた。
別に大きな声でも大丈夫なのにそんなに聞かれたくないことなのかと、少しかがむ。
「ん?」
「あのですね、今日は本当に一体何人分作ればいいのでしょうか?」
かがんだことで耳打ちしてくる。
こそこそと話すアイオライトの甘い声が急に耳にかかって、内容が入ってこない。
ぼーっとしているともう一度アイオライトが話しかけてきた。
「ラウルさん、あの、何人分作りましょうか?」
「あ、ごめん、えっと、初めに話していた通り十人分にしよう」
「了解です。頑張りますね!」
アイオライトはコソコソ話は終了とばかり、先を歩いていく。
ラウルは近かった距離が急に開いていくのを残念に思いながら、その背中を見ていた。
「俺、どうしちゃったのかな」
二人は気が付いていないが、移動式住居を出てからリチャードは後ろをついて歩いている。
ちゃんとこの国の第三王子だと言えたのだろうと、幌馬車から出てきたときの表情から分かったが、耳打ちされた側の耳を押さえながら、どうしちゃったのかな、じゃないだろ。完全に落ちちゃってるけど。とそのつぶやきを聞いたリチャードは声に出さずにそっと見守っている。
さて、先ほどの荷物の中にカレーの匂いがするクーラーボックスがあった。
リチャードはこの主の心の行方も気になりながら、カレーがあるなら、何とか理由を付けてバーベキュー会場である王と王妃の移動式住居に行かねばならないと、強く決心するのであった。
野営地までは一時間ほど。
荷馬車の中は、荷物が高く積まれていて、申し訳程度に三人ぐらいで座れる長椅子が一つだけ。
ラウルとアイオライトが並んで座っている。
今日のラウルはラフな格好で、白ポロシャツに黒のスキニーパンツ。ポロシャツの襟部分の一部が黒く、シンプルな出で立ちだ。スタイルの良さが際立つ。
いつも騎士団の制服か、それに準ずるような恰好をしていたのでアイオライトは私服を見るのは初めて。
「ん? 大丈夫? ちょっと顔が赤いよ」
かなり凝視してしまっていたのか、ラウルが自分を見て首をかしげている。
《ラウルの首を傾げる可愛いしぐさの攻撃》
《クリティカルヒット!!》
《アイオライトは顔が熱くなるのを抑えられない》
「そ、う、ですね。幌の中がちょっと暑くて。風魔法で換気しますね」
ラウルのゲームスチルのようなキラキラの流れ弾に当たったアイオライトは、危ない危ないと、火照る顔も風魔法で冷やして違うことを考える。
ポコポコと聞こえる馬の足音が、耳に心地いい。
昼から積み込みの準備などをしていて疲れたのか、その音につられたのか少しだけ眠たい。
でも、先ほどのマークの過保護さ加減を思い出して、声を出して眠気を追いやる。
「今日はどれぐらいの人数がいらっしゃるんでしょうか」
「う~ん、父と母だけで良かったんだけれど、アイオライトはいっぱい食材準備してくれたんだよね」
「そりゃそうですよ。バーベキューはみんなでワイワイするのが醍醐味ですからね」
「たぶん十人ぐらいかなと思うんだけれど……」
総勢何人なのか予想がつかないと困るなと思っていが、十人ぐらいなら食材は十分足りる。
寧ろ余ってしまうかもしれないが、気に入ってもらえたらクーラーボックスごと持って帰ってもらえばいい。
バーベキューのことを考えていたアイオライトとは裏腹に、ラウルは打ち明けるタイミングをずっと計っていた。そして、他愛もない会話中の今がチャンスかもしれないと口を開いた。
「あのさ、アイオライト。俺話しておかなくちゃいけないことがあるんだ」
「なんでしょうか?」
「俺、実は……いや、えっと」
少し間をおいてラウルは意を決したように話し出す。
「俺の名前はラウル・ドゥ・アルタジアです。この国の第三王子で、騎士団所属。イシスに来てから約半年、最近君と友達になりました。これからも友達でいてくれますか?」
凄いパワーワード来た!という気持ちとともに、
ギャー!ラウル本物の王子様だった!
これは推せる要素が増えてしまった。
高貴な人だと知ったけれども、友達なのだから。
真摯にその告白を受けたならば、受けて立つ!
と、湧き立つ心をなんとか押し込め、アイオライトはしっかりと言葉を返すことに集中する。
「自己紹介ありがとうございます。自分はアイオライト・キジュ・ユレルです。金の林檎亭の店主です。どうぞこれからも良いお友達でいてください」
座っているが深々と頭を下げてる。
「いいの?」
「え? ダメなんですか?」
顔を上げると泣きそうな顔のラウルがアイオライトを見ている。
「ダメじゃない。ダメじゃないよ」
「おぉ、良かったです。でも、本当に王子様なんですか?」
「驚いてるというより疑っている?」
ちょっと笑ってくれていることに安心する。
マークもそうだったが、変わらないテンションが心地いい。
「疑っているわけじゃないです! ただ、元々ラウルさんは自分の理想の王子様なので驚きはあまりないというか……」
大きく馬車が弾んで、ガタリと車輪が鳴る。アイオライトの王子様のくだりはラウルには聞こえなかった。
「あの……、ラウルさんが王子だったらお父さんとお母さんは王様と王妃様ですよね?」
「そうだね」
「王様と王妃様だと、会う時にちょっと緊張しちゃいますね」
「怖い人たちじゃないから、大丈夫だよ」
「着替えてきてよかったですかね」
「古い青い服から一番新しい青い服に着替えただけだけどね。良いと思うよ」
ラウルは笑いだしたいのを我慢して、返事をすると、こくんと神妙な面持ちでアイオライトが頷く。
「ならよかったです!」
ふんふん、うなずいているアイオライトに尋ねた。
「ねぇ、本当に……」
「ラウルさんは心配性ですね。時と場合はわきまえますが、ラウルさんが望まなければ変わったりはしませんよ。友達ですから。約束です」
そういって、アイオライトは指切りの為に小指を差し出す。
ラウルは、差し出された手を一旦両手で包み込んでから、自分の小指を一瞬だけ絡めて、すぐ離れた。
「ラウルさん?」
「うん……」
「あれ? まだ幌の中暑いですか?」
「うん……」
ぺたりとアイオライトの小さな手が、ラウルの頬にそっと触れる。
「凄い熱いですね。熱中症になるといけないですし、風魔法使いましょうか?」
自分でもわかるほど頬に熱が集まっている。
アイオライトの顔を、今は見れない。
幸せだと思う気持ちの他に何かがありそうなのに、熱が邪魔して考えがまとまらない。
みっともないところなんて見せたくないのに、と少し泣きたい気持ちになる。
「到着ですよ~。」
丁度いいタイミングで御車が到着を告げた。
「外に出れば平気だよ。ありがとう。アイオライト」
アイオライトはエスコートされる前に荷馬車から一人で外に出て、ラウルの手を取ろうと待っている。
「熱中症を甘く見てはいけませんからね。念のためお手をどうぞ」
「ありがとう」
ラウルはその小さな手を取った。
「どういたしまして」
「あはは、アイオライトが王子様みたいだね」
少しだけ余裕が出てきたのか、軽口が口をついた。
どちらともなく笑いがこみあげてきてついつい大きな声で笑ってしまう。
「お前はお姫様みたいだけどな」
荷馬車を降りたところで待っていたリチャードが、呆れた顔でラウルに声をかけた。
表情が柔らかいことから、ちゃんと話せたのではないかと予想する。
「ようこそ、アイオライト。今日はよろしくお願いします」
「はい! しっかり務めさせていただきますね」
「ラウルのご両親の移動式住居にご案内しますね。荷物は幌の中の分で全部ですか?」
リチャードが指示を出して、手際よくどんどん荷物が運ばれていく。
よくよく周りを見ると、とても大きな移動式住居が一つと普通ぐらい大きさのものが十、小さいものが数えきれないほどある。野営と言うよりもなんか小さな村のような規模だ。
「えっと、ラウルさん、ここ十人以上いませんか?」
「そうだね」
「これじゃ全然材料も足りないです……」
「いや、全員の食事の面倒見なくてもいいんだよ。父上と母上のところだけで」
思っていたのと違うけど、なるようにしかならないかな。
とアイオライトは楽観的に考えることにする。
「さて、では行こうか」
促されて一番大きな移動式住居の前に来ると、ギルベルクが待っていた。
「あなたがアイオライト嬢ですね。アルタジア王の側近のギルベルクです。ラウル様から少しだけお話をお伺いいたしましたが、本日は何卒宜しくお願い致します」
「こ、こちらこそよろしくお願いします」
丁寧な挨拶の後、さらに移動式住居の中に招き入れられる。
「父上、母上、アイオライトをお連れいたしました」
ラウルの口調が急に畏まったものになって、アイオライトはこれから国王と王妃と会うのだと実感がわいてきた。
「畏まらなくてもよい。そなたがアイオライトであるな」
ラウルに似た面差しの二人が目の前にいる。国王と王妃だろう。
「はい。アイオライト・キジュ・ユレルと申します。本日は自分の友達であるラウルさんのご両親に、お食事を作りに参りました。是非お楽しみください」
国王と王妃に食事を作りに来たのではないと、あくまでラウルの両親に、とアイオライトは強調する。
そっと横から見守っていたラウルは何故かとても満足そうな顔をしていた。
「ユレル……。そなたはヴィンスとジョゼットの血縁であるか?」
「父と母です」
「そうか、うむ。そなたが二人の愛娘か」
「エグバード様、そろそろ用意をしてもらいましょう。アイオライト嬢、どうぞこちらへ」
アルタジア王も王妃もアイオライトとまだ何かを話したそうにしていたが、ギルベルクが準備に移るようにと声をかけてそのまま一旦下がるように促される。
「父上、母上、私もアイオライトと一緒に準備します故一旦下がらせていただきます。後ほどまた」
一緒にアイオライトとラウルも移動式住居から外にでて準備に取り掛かる。
「やっぱり、緊張しますね」
「そうかい? 意外と普通だったよ? さすがアイオライトだ」
「王様と王妃様と言うよりは、ラウルさんのご両親にご飯を作りに来ましたので……時と場合、わきまえられましたかね」
「うん。ありがとう」
「質問があるんですけれどいいですか?」
外に出て少し歩いたところで、アイオライトがラウルに小声で話しかけてきた。
別に大きな声でも大丈夫なのにそんなに聞かれたくないことなのかと、少しかがむ。
「ん?」
「あのですね、今日は本当に一体何人分作ればいいのでしょうか?」
かがんだことで耳打ちしてくる。
こそこそと話すアイオライトの甘い声が急に耳にかかって、内容が入ってこない。
ぼーっとしているともう一度アイオライトが話しかけてきた。
「ラウルさん、あの、何人分作りましょうか?」
「あ、ごめん、えっと、初めに話していた通り十人分にしよう」
「了解です。頑張りますね!」
アイオライトはコソコソ話は終了とばかり、先を歩いていく。
ラウルは近かった距離が急に開いていくのを残念に思いながら、その背中を見ていた。
「俺、どうしちゃったのかな」
二人は気が付いていないが、移動式住居を出てからリチャードは後ろをついて歩いている。
ちゃんとこの国の第三王子だと言えたのだろうと、幌馬車から出てきたときの表情から分かったが、耳打ちされた側の耳を押さえながら、どうしちゃったのかな、じゃないだろ。完全に落ちちゃってるけど。とそのつぶやきを聞いたリチャードは声に出さずにそっと見守っている。
さて、先ほどの荷物の中にカレーの匂いがするクーラーボックスがあった。
リチャードはこの主の心の行方も気になりながら、カレーがあるなら、何とか理由を付けてバーベキュー会場である王と王妃の移動式住居に行かねばならないと、強く決心するのであった。
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