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破局
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152: ↓俊也:16/12/05(月)00:59:17 ID:lkw主
松尾山
小早川秀秋の逡巡、そして彼自身にしかわからぬ黒い情念の渦は、ある方向に収斂されつつあった。
153: ↓俊也:16/12/05(月)01:00:42 ID:lkw主
(おれが筑前三十万石から越前十五万石にあやうく減封されそうになったのは、ひとえに治部少の讒言によるものだという・・・
・・・その治部は関白の地位を見返りにおれに味方せよというが・・・
・・かつて関白の座にあったあの秀次兄も、最期は惨めなものであった。それが豊臣という家だ・・・・・
豊臣家の安泰などというが、おれにそれを後生大事に守る義理は・・・・・)
決めた。
154: ↓俊也:16/12/05(月)01:02:10 ID:lkw主
秀秋は使番たちを呼び寄せる。
「こ、これより我らは山を下る。し、仔細あって内府家康公にお味方する!攻めるは石田方大谷刑部の陣じゃ!!」
使番たちに、命令に異を唱えることはゆるされない。
直ちに踵を返し、小早川の各隊へと散っていった。
155: 名無し:16/12/05(月)01:06:18 ID:NYd
結局こうなっちまうんか
156: ↓俊也:16/12/05(月)01:06:48 ID:lkw主
部将のひとり、松野重元はこの命令を是とせず、「秀頼公に弓は引けぬ」と独断で戦線を離脱した。
が、それ以外の諸隊長たちは秀秋の命令を受け取るや、ただちに麾下の兵馬に号令し、砂塵を舞わせつつ、松尾山を駆け下った。
157: ↓俊也:16/12/05(月)01:07:59 ID:lkw主
藤川台
「松尾山に動きが・・・・・小早川がわが陣に!!」
悲鳴にも近い馬廻達の報告に、大谷刑部吉継はしずかにうなづいた。
(われらが雄図は潰えたり・・・・・・・しかし三成だけは護ってやらねばならぬ)
すでに覚悟を決めていた吉継は、矢継ぎ早に指令をくだす。
158: ↓俊也:16/12/05(月)01:09:26 ID:lkw主
麾下の先鋒指揮官 戸田勝成 平塚為広らは、事前に因果を含められていた通り、
温存していた予備軍数百名を反転させ秀秋の軍勢にぶつけた。
それを吉継が、輿の上から大音声で叱咤した。
「おのれ金吾中納言!人面獣心なるものよ!裏切り者を誅せ!!けして生かし置くな!!
雑兵には目もくれず、ただただ小僧一人を地獄の底に突き落とすべし!!」
御意!!
大谷隊の将士達は鬼と化した。
「卑怯者め!!」
「裏切り者が!!」
「それ死ねやああああ!!」
圧倒的優位で襲い掛かったはずの小早川勢が、この死兵と化した大谷勢に圧倒されることとなる。
一段、また一段と陣を崩され、乱戦の中で徳川方からの目付奥平貞治が戦死することとなる。
ついに松尾山の麓まで押し返される小早川勢。
159: ↓俊也:16/12/05(月)01:10:41 ID:lkw主
「何たる無様な!!」
呆れたのは家康であった。
小早川隊の叛逆出撃時、膝を叩いて喜んだのもつかの間。
かれらは大谷勢に数的優位など何もないかのように押し返されているではないか。
これではならじ・・・・・・
家康は一人の使番を走らせた。
10分後、東軍藤堂高虎の陣より、旗指物が振られた。
160: ↓俊也:16/12/05(月)01:12:19 ID:lkw主
それに呼応し、大谷隊の脇を固めていたはずの脇坂安治 小川祐忠、
朽木元綱、赤座直保が槍先を翻して大谷隊の側面に襲い掛かった。
「脇坂、小川らまでもが・・・・・おのれ!!」
それに対応しうる大谷隊の余剰兵力は・・・・・
あった。
ぐわっと轟音が響き、火柱とともに無数の鉄片が、豪雨となって新たな裏切り者たちに浴びせられた。
「三成が一門、わしの陣に回してくれた大筒じゃ。これならば・・・・・・・」
これならば、もうしばし時を稼いでやれる。
馬防柵と土塁の組み合わせで、脇坂らからは見えないように埋伏させていた秘密兵器は、
数十名の鉄砲足軽とともに頑強な防御拠点となった。
161: ↓俊也:16/12/05(月)01:13:12 ID:lkw主
松尾山
周囲に侍るものも少なくなった本陣で、小早川は酒をあおっていた。
「うはははあははははははははははははは!!
殺せ殺せ!敵も味方も、豊臣も徳川も、みな滅んでしまえい!!
ひゃーはははははははははははははは」
162: ↓俊也:16/12/05(月)01:13:59 ID:lkw主
大谷隊の、奇蹟的な勇戦にも終焉の時が近づいていた。
藤堂、京極隊が正面から、側面から脇坂ら4隊と、ようやく態勢を立て直した小早川勢。
これら大軍が数的優位に任せて予備兵力を次々繰り出し、堤に押し寄せる濁流のごとく大谷隊を圧迫し、ついに一重しかない防御線が破断した。
163: ↓俊也:16/12/05(月)01:14:54 ID:lkw主
「とのさま・・・・」
近習の湯浅五助が、盲目の吉継に報告する。
「ここまでであるな・・・・・・・・」
瞑目する吉継。
「お腹を召されるのでありますか!?」
「ならば我らもお供いたします!」
「金吾の首を冥土の手土産に!!」
近習、馬廻り達は最期の突撃を熱望し、吉継の逃げ延びよという命にも耳を貸さない。
1
165: ↓俊也:16/12/05(月)01:17:17 ID:lkw主
「ならば、めいめいが死に花を咲かせるがよい。じゃがわしは盲目故、ぬしらの折角の死に戦が見られぬ。
どうか一人ひとり名乗りを上げてから駆けてくれぬか」
「太田加羅助!!お先に失礼仕る!」
「鳥谷敬之助!!必ずや金吾と刺し違えて見せまする!!」
「新井亮乃新!!ご奉公半ばに逝くことを御許しを!!」
みな熱い涙を流しながら、一礼して敵陣へと斬りこんでいく。
かれらが皆駈け去った後、吉継は輿から降りた。
「わが病み崩れた首を、ゆめゆめ敵に渡すでないぞ」
介錯をつとめる湯浅にそう伝えると、一息に吉継は腹を切った。
172: 俊也:16/12/06(火)00:02:57 ID:wIR主
小早川の裏切り、大谷隊の壊滅の報は瞬く間に西軍諸隊へと伝わった。
当然動揺が広がり、小西行長などは旗を巻いて早々に敗走してしまった。
西南戦線では、このため奮戦してきた宇喜多秀家隊が孤軍となり、数倍の敵に包囲されつつあった。
173: ↓俊也:16/12/06(火)00:04:12 ID:wIR主
秀家は、崩れゆく自軍を叱咤しつつ、怒りの炎に満ちた両眼で松尾山を睨み据えた。
「金吾めえええええ!!かくなる上はおれ自らが槍の錆にしてくれるわ!!」
そう叫んで小早川陣めがけ特攻しようとする秀家を、明石掃部らが必死に制止する。
「御大将の身で、それはあまりにも粗忽!」
「止めるな掃部!!この戦は敗けじゃ!!太閤殿下のご恩に報いる道はもはや玉砕のみ・・・・・!」
「まだ大坂に秀頼公がおられまする!どうかそのお命を秀頼さまのお行く末の御為に・・・・・・!!」
護衛に数十騎をつけ、掃部らは秀家を無理やりに戦線から離脱させた。
174: 名無し:16/12/06(火)00:06:00 ID:Jg3
このまま負けるのか・・・
175: ↓俊也:16/12/06(火)00:06:14 ID:wIR主
そして、笹尾山である。
彡(゚)(゚)(吉川のまさかの暴挙で毛利が戦線離脱、そして小早川が史実通り裏切り・・・
・・・歴史の波には結局勝てないのか・・・・・・・・
いや!!まだ逆転のチャンスはある!!
吉継殿が稼いでくれた時間を最大限に生かすで!!)
松尾山
小早川秀秋の逡巡、そして彼自身にしかわからぬ黒い情念の渦は、ある方向に収斂されつつあった。
153: ↓俊也:16/12/05(月)01:00:42 ID:lkw主
(おれが筑前三十万石から越前十五万石にあやうく減封されそうになったのは、ひとえに治部少の讒言によるものだという・・・
・・・その治部は関白の地位を見返りにおれに味方せよというが・・・
・・かつて関白の座にあったあの秀次兄も、最期は惨めなものであった。それが豊臣という家だ・・・・・
豊臣家の安泰などというが、おれにそれを後生大事に守る義理は・・・・・)
決めた。
154: ↓俊也:16/12/05(月)01:02:10 ID:lkw主
秀秋は使番たちを呼び寄せる。
「こ、これより我らは山を下る。し、仔細あって内府家康公にお味方する!攻めるは石田方大谷刑部の陣じゃ!!」
使番たちに、命令に異を唱えることはゆるされない。
直ちに踵を返し、小早川の各隊へと散っていった。
155: 名無し:16/12/05(月)01:06:18 ID:NYd
結局こうなっちまうんか
156: ↓俊也:16/12/05(月)01:06:48 ID:lkw主
部将のひとり、松野重元はこの命令を是とせず、「秀頼公に弓は引けぬ」と独断で戦線を離脱した。
が、それ以外の諸隊長たちは秀秋の命令を受け取るや、ただちに麾下の兵馬に号令し、砂塵を舞わせつつ、松尾山を駆け下った。
157: ↓俊也:16/12/05(月)01:07:59 ID:lkw主
藤川台
「松尾山に動きが・・・・・小早川がわが陣に!!」
悲鳴にも近い馬廻達の報告に、大谷刑部吉継はしずかにうなづいた。
(われらが雄図は潰えたり・・・・・・・しかし三成だけは護ってやらねばならぬ)
すでに覚悟を決めていた吉継は、矢継ぎ早に指令をくだす。
158: ↓俊也:16/12/05(月)01:09:26 ID:lkw主
麾下の先鋒指揮官 戸田勝成 平塚為広らは、事前に因果を含められていた通り、
温存していた予備軍数百名を反転させ秀秋の軍勢にぶつけた。
それを吉継が、輿の上から大音声で叱咤した。
「おのれ金吾中納言!人面獣心なるものよ!裏切り者を誅せ!!けして生かし置くな!!
雑兵には目もくれず、ただただ小僧一人を地獄の底に突き落とすべし!!」
御意!!
大谷隊の将士達は鬼と化した。
「卑怯者め!!」
「裏切り者が!!」
「それ死ねやああああ!!」
圧倒的優位で襲い掛かったはずの小早川勢が、この死兵と化した大谷勢に圧倒されることとなる。
一段、また一段と陣を崩され、乱戦の中で徳川方からの目付奥平貞治が戦死することとなる。
ついに松尾山の麓まで押し返される小早川勢。
159: ↓俊也:16/12/05(月)01:10:41 ID:lkw主
「何たる無様な!!」
呆れたのは家康であった。
小早川隊の叛逆出撃時、膝を叩いて喜んだのもつかの間。
かれらは大谷勢に数的優位など何もないかのように押し返されているではないか。
これではならじ・・・・・・
家康は一人の使番を走らせた。
10分後、東軍藤堂高虎の陣より、旗指物が振られた。
160: ↓俊也:16/12/05(月)01:12:19 ID:lkw主
それに呼応し、大谷隊の脇を固めていたはずの脇坂安治 小川祐忠、
朽木元綱、赤座直保が槍先を翻して大谷隊の側面に襲い掛かった。
「脇坂、小川らまでもが・・・・・おのれ!!」
それに対応しうる大谷隊の余剰兵力は・・・・・
あった。
ぐわっと轟音が響き、火柱とともに無数の鉄片が、豪雨となって新たな裏切り者たちに浴びせられた。
「三成が一門、わしの陣に回してくれた大筒じゃ。これならば・・・・・・・」
これならば、もうしばし時を稼いでやれる。
馬防柵と土塁の組み合わせで、脇坂らからは見えないように埋伏させていた秘密兵器は、
数十名の鉄砲足軽とともに頑強な防御拠点となった。
161: ↓俊也:16/12/05(月)01:13:12 ID:lkw主
松尾山
周囲に侍るものも少なくなった本陣で、小早川は酒をあおっていた。
「うはははあははははははははははははは!!
殺せ殺せ!敵も味方も、豊臣も徳川も、みな滅んでしまえい!!
ひゃーはははははははははははははは」
162: ↓俊也:16/12/05(月)01:13:59 ID:lkw主
大谷隊の、奇蹟的な勇戦にも終焉の時が近づいていた。
藤堂、京極隊が正面から、側面から脇坂ら4隊と、ようやく態勢を立て直した小早川勢。
これら大軍が数的優位に任せて予備兵力を次々繰り出し、堤に押し寄せる濁流のごとく大谷隊を圧迫し、ついに一重しかない防御線が破断した。
163: ↓俊也:16/12/05(月)01:14:54 ID:lkw主
「とのさま・・・・」
近習の湯浅五助が、盲目の吉継に報告する。
「ここまでであるな・・・・・・・・」
瞑目する吉継。
「お腹を召されるのでありますか!?」
「ならば我らもお供いたします!」
「金吾の首を冥土の手土産に!!」
近習、馬廻り達は最期の突撃を熱望し、吉継の逃げ延びよという命にも耳を貸さない。
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165: ↓俊也:16/12/05(月)01:17:17 ID:lkw主
「ならば、めいめいが死に花を咲かせるがよい。じゃがわしは盲目故、ぬしらの折角の死に戦が見られぬ。
どうか一人ひとり名乗りを上げてから駆けてくれぬか」
「太田加羅助!!お先に失礼仕る!」
「鳥谷敬之助!!必ずや金吾と刺し違えて見せまする!!」
「新井亮乃新!!ご奉公半ばに逝くことを御許しを!!」
みな熱い涙を流しながら、一礼して敵陣へと斬りこんでいく。
かれらが皆駈け去った後、吉継は輿から降りた。
「わが病み崩れた首を、ゆめゆめ敵に渡すでないぞ」
介錯をつとめる湯浅にそう伝えると、一息に吉継は腹を切った。
172: 俊也:16/12/06(火)00:02:57 ID:wIR主
小早川の裏切り、大谷隊の壊滅の報は瞬く間に西軍諸隊へと伝わった。
当然動揺が広がり、小西行長などは旗を巻いて早々に敗走してしまった。
西南戦線では、このため奮戦してきた宇喜多秀家隊が孤軍となり、数倍の敵に包囲されつつあった。
173: ↓俊也:16/12/06(火)00:04:12 ID:wIR主
秀家は、崩れゆく自軍を叱咤しつつ、怒りの炎に満ちた両眼で松尾山を睨み据えた。
「金吾めえええええ!!かくなる上はおれ自らが槍の錆にしてくれるわ!!」
そう叫んで小早川陣めがけ特攻しようとする秀家を、明石掃部らが必死に制止する。
「御大将の身で、それはあまりにも粗忽!」
「止めるな掃部!!この戦は敗けじゃ!!太閤殿下のご恩に報いる道はもはや玉砕のみ・・・・・!」
「まだ大坂に秀頼公がおられまする!どうかそのお命を秀頼さまのお行く末の御為に・・・・・・!!」
護衛に数十騎をつけ、掃部らは秀家を無理やりに戦線から離脱させた。
174: 名無し:16/12/06(火)00:06:00 ID:Jg3
このまま負けるのか・・・
175: ↓俊也:16/12/06(火)00:06:14 ID:wIR主
そして、笹尾山である。
彡(゚)(゚)(吉川のまさかの暴挙で毛利が戦線離脱、そして小早川が史実通り裏切り・・・
・・・歴史の波には結局勝てないのか・・・・・・・・
いや!!まだ逆転のチャンスはある!!
吉継殿が稼いでくれた時間を最大限に生かすで!!)
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