ヤマネ姫の幸福論

ふくろう

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第四章 怪奇!化け猫談義

怪猫、彷徨い続ける

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 梅雨の晴れ間。

 主人の、本当の心を知ったぽん太の嗚咽は止まない。
 三毛猫の楓は、優しく、この大柄な雄猫をいたわり続けている。

 合氣道教室の指導までには、まだ時間はある、遅れることはないだろう。
 ぽん太を、このままにして行くのは、忍びない。

 念の為、大学の後輩でもある一年生、鈴村千尋に、僕はLINEで、今日の稽古は出席するか?と聞いてみる。
 すぐに「はい、行きます」という武術家らしい簡潔な返信。

 四月に入門してからこの二ヶ月、彼女はまだ、一度も休んでいない。
 だが、入ったばかりとはいえ、黒帯の二段、立派な上級者だ。
 ここは、千尋に頼むことにする。

「今日は、もしかすると遅れるかもしれない、自分が時間に間に合わなかったら、準備体操の指揮を執って、稽古を始めていて欲しい。」
 という内容の連絡と、さらに僕が到着するまで、やっておいて欲しい稽古内容を千尋に伝える。

 またすぐに、「了解しました」という返信。
 冷静沈着なこの子は、頼りになる、しっかり者だ。

 暫くして、ぽん太は自分から口を開く。

(それからのオレは、地獄の日々だった。)

「誰も飼ってくれる人は、見つからなかったんだな?」

(その通りさ。
 オレは何しろ、このツラだからな。
 
 人間はオレを見ると、口々に罵り、ガキ共には石を投げられた。
 ガラスの破片の入った餌を食わせようとしたジジイもいたな。

 一度、人間に飼われていた猫は、野良猫達も友達になっちゃくれねえ。

 保健所に「気持ち悪い猫がいる」と通報されて、役人がオレを捕まえに来たのも、一度や二度じゃねえよ。

 だが、こちとら猫又だ。普通の猫とは違うからな、捕まるようなヘマはしなかったぜ。

 しかしよ、保健所でもし、毒ガスで窒息させられんじゃなく、苦痛無しで、一思いに殺してくれるんならよ。
 いっそのこと、連れてって楽にして欲しいくらいだったさ。

 身体に残ったマシンガンの弾丸は、オレにすげえ痛みを与え続けた。

 おまけに、野ネズミや蛙を喰うしかねえから、そっから口に入ってくる寄生虫が、頭痛と吐き気を引き起こすんだ。

 牙は何とか付いちゃいたが、長い年月の間に歯ぐきも痛みだす。

 冬に凍傷にかかろうが、どれだけケガをしようが、治る訳じゃねえ。

 何で、オレだけが、こんな目に遭う?オレが一体、何をした?
 天を恨み、自分を呪ったよ。

 走ってる列車や車に飛び込んで、何度、楽になりたいと思ったか分からねえ。

 けどよ、動物おれたちは本能で自殺はできねえようになってんだ。

 そして60年近く、オレは独りで彷徨い続け、もう何も感じられねえ、何の感情もねえ、魂の抜け殻みたいになっていったんだよ。)

 ぽん太......、そんな激痛と孤独に何十年も耐えて来たのか........、辛かったろうな.......。




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