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勇者と冥王のママは暁を魔王様と
第三章・王を冠する世界3
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「ゼロス、起きてください。もう終わりましたよ?」
「……うぅ、んー……、……おわったの?」
むにゃむにゃとゼロスが目を擦りながら顔を上げました。
でも自分が眠っていたことに気付くと、「ねてたみたい……」と少し恥ずかしそう。
「こんなに長い時間、偉かったですよ」
「うん! ぼく、がんばった!」
「はい、よく頑張りました。どうぞ」
手を差しだすと、私の手を握ってぴょんっと玉座から飛び降りる。
ゼロスは「えへへ」と少し誇らしげです。
途中から眠っていたとはいえ玉座から下りずによく我慢してくれました。
私はゼロスと手を繋いで玉座がある壇上から下ります。
ハウストとイスラに迎えられるとゼロスが慌てて私の後ろに隠れました。駄々をこねたので怒られると思っているのでしょう。
そんなゼロスをハウストがじろりと見下ろす。
「ゼロス」
「な、なあに?」
返事をしながらもゼロスが私の足にぎゅっと抱きついて、おずおずとハウストを見上げました。
沈黙が落ちてゼロスはびくびくしていましたが、少ししてハウストがふっとため息をつく。
「……まあいい、座っていたことに変わりはないからな」
「ちちうえ~!」
ゼロスの顔がパァッと明るくなって私の後ろから飛び出しました。
満面の笑顔でハウストに抱きついたり、イスラにじゃれついたり。いつもの元気なゼロスに戻りましたね。
「ハウスト、これからどうしますか? 魔界に戻りますか?」
「いや、まだ予定していたより時間がある。少し歩くぞ、自分の世界は自分の目で見て回らせる」
ハウストがゼロスを見て言いました。
それは王として必要なことでハウストも外遊時に魔界を見て回っています。
「賛成です。冥界の地形も前回より変化していますし、動物や植物もなんらかの進化をしているかもしれませんね」
「ああ、いずれゼロスには地政学や生物学の講師も手配する。今はまだ早いが、必要になるはずだ」
「そうですね、お願いします」
四界の王の力と世界は連動しています。
王として学ばなければならないことがたくさんありました。
今の講義だけでもゼロスは大変そうですが、まだまだ足りないのです。イスラも今より幼い頃は専門の講師を用意され、たくさんの講義を受けていました。
「イスラとゼロスのこと、ありがとうございます」
「二人は人間界と冥界の王だが、俺の第一子と第二子だ。息子の教育は当然だろ」
「はい、そうですね」
嬉しくなってそっとハウストに寄り添う。
魔王が勇者と冥王の教育というのは前代未聞のことでしょうが、私にとってこれほど心強いことはありません。
イスラとゼロスを宿命に耐えうる強い王に育てることに決めたけれど実際とても難しくて手探りなのです。
「イスラ、ゼロス、そろそろ行きますよ。まだ時間がありますから冥界を散歩していきましょう」
「おさんぽ?! やった~!」
ゼロスが嬉しそうに走ってきました。
後ろから歩いてきたイスラも表情には出しませんが嬉しそうです。
「みんな、はやく~!」
待ちきれないとばかりにゼロスが駆けだしていく。
その後にイスラが続き、私はハウストとともに玉座の神殿を後にしました。
玉座がある岩山を降りて、青々とした森林に入りました。
原始の森林は見慣れない植物や鳥や動物もいてどれだけ歩いていても飽きません。といっても私が一人で冥界を出歩くことは出来ません。なぜなら。
「ゼロス、私の側にいてください」
「うん!」
私はゼロスと手を繋いで木陰に身を潜める。
陰からそっと覗くと、ドドドドドドドッ! 土煙をあげて巨大な猛獣達が走り回っています。
「イスラ、そっちへ行ったぞ!」
「任せろ!」
息の合った連携でハウストとイスラが猛獣の群れを誘導し、誘いこんだところを一頭ずつ気絶させていく。
そう、私たちは散策中に猛獣の群れに遭遇してしまったのです。
人間界の猪を巨大化させたような猛獣は冥界で独自の進化を遂げた動物でした。丸焼きにするととても美味しいですが、今は食事時ではないのでハウストとイスラが全頭を気絶させてくれています。
創世期の冥界が危険なのは不安定な自然環境もありますが、他にも危険な動物や植物がどこに潜んでいるか分からないからでした。私などが一人で出歩けばあっという間に肉食動物や食虫植物の餌になることでしょう。
木陰からハウストとイスラを見守って、ほうっとため息をつく。戦闘は好きではありませんがハウストやイスラの戦っている姿はとても頼もしいものです。
「ハウストもイスラもかっこいいですね」
「むーっ、ぼくは?」
「あなたも素敵ですよ」
「やった! もうちょっとしたら、ぼくもえいってする!」
「はい、応援しています」
ハウストやイスラの戦闘に憧れはあるようですが、まだ実戦は遠慮したいようですね。
ゼロスは小さな拳を握りしめ、雄叫びをあげて突進する猛獣たちを見ている。猛獣の勇猛な姿に生命の躍動が伝わってくるようでした。
「冥界の動物たちは元気ですね。きっとゼロスが冥界に力を送ってくれたからでしょう」
「そうなの?」
「そうですよ。ゼロスには退屈なことかもしれませんが、あなたが玉座に座ることは冥界の為にとても大切なことなんです。冥界が強くなって大地が豊かになることで動物も植物も元気になります」
「うーん」
やっぱりまだ難しいようですね、ゼロスは考え込んでしまいました。
小さな眉間に皺を刻んでいて私の口元も綻んでしまう。
「冥界が強いと、魔界も人間界も精霊界も安心なんです。空は繋がっていますから」
一つの世界に影が落ちれば、それは波紋のように各世界に波及します。
それを阻止する為にも各世界の王は強くなければなりません。
「おそら?」
「そうですよ。冥界も魔界も人間界も精霊界も同じ空ですから」
「ふーん……」
ゼロスの反応は分かっているような分かっていないような、微妙なところです。でも仕方ありませんね、ゼロスはまだ三歳の子どもなのですから。
こうしてゼロスと待っていると猛獣を全頭気絶させたハウストとイスラが呼んでくれます。
「……うぅ、んー……、……おわったの?」
むにゃむにゃとゼロスが目を擦りながら顔を上げました。
でも自分が眠っていたことに気付くと、「ねてたみたい……」と少し恥ずかしそう。
「こんなに長い時間、偉かったですよ」
「うん! ぼく、がんばった!」
「はい、よく頑張りました。どうぞ」
手を差しだすと、私の手を握ってぴょんっと玉座から飛び降りる。
ゼロスは「えへへ」と少し誇らしげです。
途中から眠っていたとはいえ玉座から下りずによく我慢してくれました。
私はゼロスと手を繋いで玉座がある壇上から下ります。
ハウストとイスラに迎えられるとゼロスが慌てて私の後ろに隠れました。駄々をこねたので怒られると思っているのでしょう。
そんなゼロスをハウストがじろりと見下ろす。
「ゼロス」
「な、なあに?」
返事をしながらもゼロスが私の足にぎゅっと抱きついて、おずおずとハウストを見上げました。
沈黙が落ちてゼロスはびくびくしていましたが、少ししてハウストがふっとため息をつく。
「……まあいい、座っていたことに変わりはないからな」
「ちちうえ~!」
ゼロスの顔がパァッと明るくなって私の後ろから飛び出しました。
満面の笑顔でハウストに抱きついたり、イスラにじゃれついたり。いつもの元気なゼロスに戻りましたね。
「ハウスト、これからどうしますか? 魔界に戻りますか?」
「いや、まだ予定していたより時間がある。少し歩くぞ、自分の世界は自分の目で見て回らせる」
ハウストがゼロスを見て言いました。
それは王として必要なことでハウストも外遊時に魔界を見て回っています。
「賛成です。冥界の地形も前回より変化していますし、動物や植物もなんらかの進化をしているかもしれませんね」
「ああ、いずれゼロスには地政学や生物学の講師も手配する。今はまだ早いが、必要になるはずだ」
「そうですね、お願いします」
四界の王の力と世界は連動しています。
王として学ばなければならないことがたくさんありました。
今の講義だけでもゼロスは大変そうですが、まだまだ足りないのです。イスラも今より幼い頃は専門の講師を用意され、たくさんの講義を受けていました。
「イスラとゼロスのこと、ありがとうございます」
「二人は人間界と冥界の王だが、俺の第一子と第二子だ。息子の教育は当然だろ」
「はい、そうですね」
嬉しくなってそっとハウストに寄り添う。
魔王が勇者と冥王の教育というのは前代未聞のことでしょうが、私にとってこれほど心強いことはありません。
イスラとゼロスを宿命に耐えうる強い王に育てることに決めたけれど実際とても難しくて手探りなのです。
「イスラ、ゼロス、そろそろ行きますよ。まだ時間がありますから冥界を散歩していきましょう」
「おさんぽ?! やった~!」
ゼロスが嬉しそうに走ってきました。
後ろから歩いてきたイスラも表情には出しませんが嬉しそうです。
「みんな、はやく~!」
待ちきれないとばかりにゼロスが駆けだしていく。
その後にイスラが続き、私はハウストとともに玉座の神殿を後にしました。
玉座がある岩山を降りて、青々とした森林に入りました。
原始の森林は見慣れない植物や鳥や動物もいてどれだけ歩いていても飽きません。といっても私が一人で冥界を出歩くことは出来ません。なぜなら。
「ゼロス、私の側にいてください」
「うん!」
私はゼロスと手を繋いで木陰に身を潜める。
陰からそっと覗くと、ドドドドドドドッ! 土煙をあげて巨大な猛獣達が走り回っています。
「イスラ、そっちへ行ったぞ!」
「任せろ!」
息の合った連携でハウストとイスラが猛獣の群れを誘導し、誘いこんだところを一頭ずつ気絶させていく。
そう、私たちは散策中に猛獣の群れに遭遇してしまったのです。
人間界の猪を巨大化させたような猛獣は冥界で独自の進化を遂げた動物でした。丸焼きにするととても美味しいですが、今は食事時ではないのでハウストとイスラが全頭を気絶させてくれています。
創世期の冥界が危険なのは不安定な自然環境もありますが、他にも危険な動物や植物がどこに潜んでいるか分からないからでした。私などが一人で出歩けばあっという間に肉食動物や食虫植物の餌になることでしょう。
木陰からハウストとイスラを見守って、ほうっとため息をつく。戦闘は好きではありませんがハウストやイスラの戦っている姿はとても頼もしいものです。
「ハウストもイスラもかっこいいですね」
「むーっ、ぼくは?」
「あなたも素敵ですよ」
「やった! もうちょっとしたら、ぼくもえいってする!」
「はい、応援しています」
ハウストやイスラの戦闘に憧れはあるようですが、まだ実戦は遠慮したいようですね。
ゼロスは小さな拳を握りしめ、雄叫びをあげて突進する猛獣たちを見ている。猛獣の勇猛な姿に生命の躍動が伝わってくるようでした。
「冥界の動物たちは元気ですね。きっとゼロスが冥界に力を送ってくれたからでしょう」
「そうなの?」
「そうですよ。ゼロスには退屈なことかもしれませんが、あなたが玉座に座ることは冥界の為にとても大切なことなんです。冥界が強くなって大地が豊かになることで動物も植物も元気になります」
「うーん」
やっぱりまだ難しいようですね、ゼロスは考え込んでしまいました。
小さな眉間に皺を刻んでいて私の口元も綻んでしまう。
「冥界が強いと、魔界も人間界も精霊界も安心なんです。空は繋がっていますから」
一つの世界に影が落ちれば、それは波紋のように各世界に波及します。
それを阻止する為にも各世界の王は強くなければなりません。
「おそら?」
「そうですよ。冥界も魔界も人間界も精霊界も同じ空ですから」
「ふーん……」
ゼロスの反応は分かっているような分かっていないような、微妙なところです。でも仕方ありませんね、ゼロスはまだ三歳の子どもなのですから。
こうしてゼロスと待っていると猛獣を全頭気絶させたハウストとイスラが呼んでくれます。
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