聖女候補生ロロット・カーデリアは地獄の盟主を飼い慣らす

蛮野晩

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第一章・強欲の王ギルタレス

聖女と悪魔3

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「聖女様、ありがとうございます! おおっ、あの恐ろしい悪魔がこんな粉々にっ。ああ、さすが聖女様っ! ありがとうございます! 本当にありがとうございます!」

 村長が散らばった悪魔の肉片におびえながらも感激している。
 教会に悪魔が巣食ってからというもの近隣の村々に犠牲者が多発していたのだ。そこで村長が聖ヴェリタリアス教団に討伐依頼を出し、悪魔討伐部隊の聖女が派遣されたのである。
 依頼主が現われて、腰を抜かしていたモーリスは慌てて立ち上がった。しかも今まで怯えていたのが嘘のように高飛車たかびしゃに振る舞う。

「当然よ。私は教団所属の聖女よ? 悪魔討伐部隊を舐めないでほしいわね」
「おおっ、聖女様がお一人で?」
「候補生なんて役に立たないものよ。そこの候補生なんて取り込まれちゃって情けない。やっぱりまだまだ学生ね」
「なんとお礼を申し上げればいいかっ! これで村人も安心して暮らせます! どうぞ、こちらが寄付金です。受け取ってください」
「お心遣いありがとうございます。神もこの崇高すうこうな行為を見ていることでしょう。この村に神の御加護がありますように」

 寄付金という名の高額報酬が支払われた。
 私はその光景を淡々たんたんと見つめる。
 討伐前にも寄付金という名の前渡金まえわたしきんを受け取り、討伐後も寄付金という名の成功報酬を受け取る。寄付金とは善意だが、この善意がなければこの村には二度と聖女が派遣されることはない。

「村人たちが聖女様に感謝の席を設けたいと申しております。今夜はぜひとも村でお過ごしください。村を挙げて歓迎いたします」
「あらそう? 本当はすぐに王都の教団に帰りたいんだけど、そこまで言うなら仕方ないわ。ともに神に祈りを捧げましょう」
「ありがとうございます! では村へお越しください。お待ちしています」

 そう言って村長が立ち去って行った。
 モーリスはそれを見送ると私を振り返る。

「あなたは悪魔の残骸処理ざんがいしょりと、そこで寝転がってる候補生の世話をよろしく。明日、村を出るまでにしとくのよ」

 モーリスは高飛車たかびしゃに命令すると立ち去ろうとした。今から村で感謝のうたげが行なわれるのだろう。
 でもその前に待ってほしい。私はモーリスと大事な約束をした。

「それはいいですけど、約束の報酬を払ってください。報酬から八割、忘れていませんよね?」
「ッ、たかが候補生の癖に……!」
「約束は約束です。聖女サマとあろう方が約束を破るなんてことしないでください」

 淡々と言うと、モーリスは舌打ちして袋から硬貨と紙幣を鷲掴む。そして私に向かって叩きつけてきた。
 バシッ!
 痛い。小さな硬貨と紙幣でも叩きつけられると痛いものだ。
 スゥッと目が据わる。……情緒不安定なことしてるんじゃないっての。

「ほら拾いなさいよ! 報酬欲しいんでしょ?」
「はい、報酬は正統な対価ですから」

 私は床に膝をつき、硬貨や紙幣を淡々と拾う。
 動揺すら見せない私にモーリスは忌々いまいましげに舌打ちすると、「さっさと処理しときなさいよね!」と吐き捨てて教会を出て行った。
 ようやく静かになった。
 私は気絶している聖女候補生に声を掛ける。

「大丈夫? もう終わったよ?」
「ぅ……」

 小さく呻くが返事はない。
 目覚めるにはもう少し時間がかかりそうだけど、悪魔討伐は完了したのでもう大丈夫だ。
 私は床に散らばる悪魔の肉片を見回した。
 臭い。血の臭いにうんざりする。
 広範囲に散らばったそれにため息をつくと、手を翳して魔力を発動する。
 すると散らばった肉片が白い炎に焼かれて跡形もなくなった。
 白い炎は浄化の炎。浄化の炎で焼かなければ悪魔は何度も復活するのだ。
 こうして肉片の処理を終えると私も教会を出ようとしたけれど。

「……蜘蛛?」

 悪魔がいた場所に蜘蛛の死骸が転がっていた。
 どこにでも蜘蛛の一匹や二匹いるものだ。死骸が転がっていたところでなんらおかしなことはない。でも……。
 私は周囲を見回した。
 悪魔討伐が完了し、教会の礼拝堂はシンッと静まり返っている。
 不審を覚える点はないけど、なにかが引っ掛かった。

「…………。……私には関係ないか」

 少し考えて、考えるのをやめた。
 正式な依頼ならまだしも、報酬もないのに自分から悪魔に関わることもない。
 私は気絶した候補生を横抱きで抱き上げた。
 同年齢の少女だがこれくらい問題なく抱きあげられる。聖女候補生は体力体術剣術などなど武術の心得も必要なのだ。
 こうして教会に巣食っていた悪魔を討伐し、私は気絶した候補生を連れて村に戻った。





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