聖女候補生ロロット・カーデリアは地獄の盟主を飼い慣らす

蛮野晩

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第一章・強欲の王ギルタレス

聖女たるもの清く正しく美しく

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 地位、名声、名誉、そして莫大な富。
 聖女になればすべてを手に入れられる。
 しかし聖女候補生として素質を見出される子どもは百人中五人。厳しい訓練で候補生全体の半分が脱落し、聖女になったとしても聖女三年生存率は三十パーセント。そう、三年以内に十人のうち七人は死んでいるか発狂して辞職している。
 だからこそ数多くの悪魔討伐を成功させた聖女は賛美され、栄華を極めることができるのだ。
 だが、栄華を極めるまでは地道な作業も多い。面倒くさい報告書作業もその一つだ。

「山羊の悪魔か、色欲の王の眷属けんぞくのはずだけど……」

 先ほどの討伐を思い出しながら報告書を書く。
 悪魔の階級は複雑だが、基本的に人間の外見に近ければ上級とされ、下級悪魔は人外や動物の姿で出現する。そしてすべての悪魔は七つの眷属に分けられており、今回の山羊は色欲の王の眷属に属する悪魔なのである。実際、取り込まれた聖女候補生は裸体になって卑猥な動きを見せていたのだから。
 それを報告書に描いて教団本部に提出するだけなのだが……。

「…………引っかかる」

 悪魔出現地点にあった蜘蛛の死骸のことだ。
 妙な違和感を覚えた。
 もし、もしあの蜘蛛が今回の悪魔出現に関わっていたとするなら、それは色欲の王の眷属ではなく強欲の王の眷属。
 だとしたら、まだ教会には……。

「…………ロロットさん?」

 ふと背後のベッドから声を掛けられた。
 振り向くと気絶していた聖女候補生の少女だ。
 どうやら目覚めたようで、申し訳なさそうに私を見ている。

「あの、助けてくれたんだよね。ここまで運んでくれてありがとう」
「……どういたしまして。目が覚めたなら、もう自分の部屋に戻ってね」
「う、うん」

 少女は頷いたものの、……視線を感じる。
 報告書作成に戻ったけれど背中をじーっと見られている。
 私はため息をついてまた振り返った。

「なに?」
「ご、ごめんなさいっ。まさかこんなふうにロロットさんとお話しできるとは思わなくてっ」

 少女が慌てて謝ってきた。
 そんな少女に眉をしかめてしまう。
 少女のことは同級生だということは知っているが名前は知らない。興味ないから。
 黙って見ていると少女は苦笑して自己紹介する。

「その、私はナタリーって言います。同じクラスなんだけど知ってた?」
「ごめん。クラスメイトの名前、全員覚えてるわけじゃないの」
「そ、そっかっ、そうだよね、突然ごめんねっ。私、クラスでも地味だし気にしないで。それじゃあ……同級生なのは知ってる?」
「それは知ってる」
「良かった、知っててくれて嬉しい。ロロットさんは候補生の中でも有名だから」

 ナタリーがほっとしたように言った。
 ……有名。
 それは私が聖女候補生の中でも特待生として扱われているからだ。
 物心ついた頃から悪魔討伐をしている私にとって今更候補生として学ぶことなど何もない。でもあえて候補生になったのは家を出ることが出来るから。
 聖女候補生は学生寮に入らなければならないから、これ以上の口実はなかった。
 しかしナタリーは瞳を輝かせて「ずっと話してみたかったのっ」と感激している。
 私の座学の成績がどうとか体術がどうとか魔力がどうとか、特に魔力の強さについて熱心に語りだす。嫉妬ではなく羨望、彼女はそんな瞳だ。
 ナタリーは興奮した口調で私を褒めたあと、少し落ち込んだ口調で自分のことを語りだす。

「……ロロットさんはすごいね。さっき悪魔と戦った時もぜんぜん平気そうで、聖女様にだって負けないし。私なんかすぐに取り込まれちゃって……。私、聖女になるの諦めた方がいいのかな」

 勝手に語りだした内容は卑屈なものだった。
 羨望からの卑屈。鬱々としたそれにため息が漏れそう。
 バカみたいだ。優しく引き止めてもらえると思ってるの?

「もう切り上げてもらってもいい? 報告書の続きを書きたいの」
「あっ、ご、ごめんっ。邪魔しちゃったね……っ」

 ナタリーが申し訳なさそうに黙り込んだ。
 ようやく静かになって報告書の続きに取りかかるも、今度は部屋の扉がノックされる。

「失礼します。お世話になった教会の司祭をしている者です」

 そう言って老齢の司祭が部屋に入ってきた。
 両手に抱えていた箱を私とナタリーの前に置く。
 中には古い装飾品や儀式の道具らしき物が入っていた。まさにカビ臭い劣化アンティークだ。はっきり言ってガラクタである。
 しかし純朴そうな司祭は深々と頭を下げた。

「この度は教会を救ってくださり、本当にありがとうございました。これは教会からのお礼の品です。お恥ずかしながら古い物ばかりですが、少しでも価値のある物を教会の倉庫から掻き集めました。どうしてもお礼がしたかったので」
「こういうのは聖女に渡しといてほしいんですけど」

 押し付けるわけじゃない、そういう決まりがあるのは本当のこと。
 しかし。

「先に聖女様のところに持っていったのですが、全部候補生様のところに持っていくように言われて……」
「……そう」

 こっちに押し付けられたということだ。
 無視することもできず箱の中身を確認する。
 それにしても古い。古さだけを見れば数百年前なんてレベルではない。
 それはナタリーも感じたようで司祭に質問する。

「これかなり古いですよね。司祭様の教会の所有物なんですか?」
「教会は三百年前に移築したものです。それ以前のことは文献にも残っていないので詳しく分からないのですが、どうやら古代の遺跡だったとか……。こちらの装飾や道具も遺跡から発掘されたもので、教会の倉庫に保管していたものです」

 やはりガラクタはガラクタということだ。
 古代の遺跡から発見されたというが、なんの遺跡か分からなければ意味がないのである。
 どうしたものかとガラクタを眺めていると、今度は部屋に修道女が駆けこんできた。
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