冷遇された斎王の姉ですが、じつは天界の天妃でした~天妃を取り戻せたが、今まで裏切ってきたせいで愛してるを信じてもらえない。どうすればいい?~

蛮野晩

文字の大きさ
1 / 17

愛してるを信じてもらえない。俺はどうすればいい?

しおりを挟む
「愛している。お前だけだ」

 俺は真剣な顔で告げた。
 最愛の天妃てんひであるうぐいすをまっすぐに見つめ、心からの言葉を。
 今まで何度も告げてきたが、どれだけ告げても足りないのだ。

 そんな俺の言葉に鶯は恥ずかしそうにはにかむ。

ぞんじています。今、黒緋くろあけ様が愛しているのは私だけ。私は幸せな天妃ですね。きっと歴代で一番に」

 そう言って鶯は微笑ほほえんだ。
 言葉に嘘はないと伝わってくるような、ほんとうに幸せそうな微笑みだ。

 だが、鶯は『今』と言ったのだ。

 それは明日を、明後日を、これからを信じていないということ。
 いつか俺の心が移ろっていくと思っているということ。

 ……無理はなかった。

 かつて鶯を天妃に迎えたばかりの頃、俺の後宮には五人の妻室さいしつがいた。それだけじゃない、見目麗みめうるわしい女官たちとも気まぐれに関係をもったこともある。

 やんごとない身分の男が正妻以外にも側室の妻を囲うことは当たり前のことで、もちろん天帝の俺が天妃以外の妻を囲っていたところでなんの問題もなかった。罪悪感など欠片もなかった。
 それというのも天妃は正当な世継ぎをつくるためだけの存在で、かつての俺は鶯を愛していたわけでもないのだ。後宮内でも冷遇れいぐうし、邪険にあつかったことさえある。

 だが今、俺は鶯を愛している。

 地上に落ちた鶯をもう一度天妃として迎えるためにすべての妻室を離縁し、地上に降りてずっと探していた。
 幸運にも鶯を見つけだし、愛していると伝えてふたたび結ばれることができたが……。

「ほんとうに愛しているんだ……」
「はい、私も愛しています」

 鶯はそう言って微笑む。

 でも今、俺はなにも言えなくなる。
 鶯の言葉に嘘はない。鶯は本当に俺を愛してくれている。
 でも愛しているからといって、信じてくれているわけじゃない。

 俺は鶯を心から愛したからこそ気付いてしまった。今までどれだけ鶯を裏切っていたかを……。




「天妃が俺を信じていない。……で、どうすればいいと思う?」
「ええ……。それ俺に聞くのかよ」

 離寛りかんがなんとも迷惑そうに俺を見た。
 離寛は天界の武将であり、俺の古くからの友人だ。俺と鶯の事情を知っている人物なわけだが。

「……正直、俺にわかると思うか? むしろよく妻室さいしつたちを離縁したなって感心してるくらいなのに」
「そうだったな、お前も妻室が六人いたな」
「ああ、正妻はまだだけどな」

 離寛は天界の大貴族の一人だ。正妻は作っていないが六人の妻室を囲っていた。離寛の身分ならそれは当たり前のことともいえた。

「妻室たちは息災か?」
「元気にしてるぜ。元気すぎるくらいだ……」
「なんだ、もめてるのか?」
「……どの妻のところに渡りすぎだとか、あの妻への贈り物が一番高価だったとか、なんとかかんとか言いながら元気にしてるぜ」
「ハハハッ、愛を交わすより苦情処理のほうが大変そうだな」

 思わず笑ってしまった。他人事だからな。

 妻室は妻を名乗るが立場は側室だ。しかも高貴な身分の男に嫁ぐ妻室は、立場は側室であろうと身分はやんごとない家柄の姫であることが多いのだ。

 そうなると妻室同士で競いあうのは夫からの愛情だけではない。実家の権威や身分はもちろん、贈り物や貢ぎ物、夫が夜に渡ってきた回数にいたるまで、愛も権威も自分がいかに特別であるかを競いあうのである。

 俺も妻室を囲っていたから覚えはあるが、とにかく面倒くさい競いあいなのだ。

「そんなに大変なら正妻を迎えればいいだろ。少しは収まるぞ」
「いいのかよ、その収め方で」
「問題でもあるのか?」
「胸に手を当てて考えてみろって」

 離寛に呆れた顔で言われ、俺はむっと眉間に力を入れる。

 胸に手を当てて考えて……。

 …………。
 ………………。
 ……………………最悪の判断だ。

 かつて俺が鶯を天妃として迎えたばかりの頃を思い出した。
 その頃、俺は鶯を愛しているわけではなかった。あげくに天妃になったばかりの鶯を冷遇したせいで、鶯は他の妻室からひどい攻撃とやっかみを受けたのだ。そのせいで鶯は後宮の自室に引きこもってしまったほどだ。
 しかもそんな鶯を守るために俺がなにか特別な配慮をしたことはない。むしろ放置していた。

「…………あの時の俺を殴りたい」
「おいおい、物騒だな」
「本気だ……」

 思い出すだけで自分に怒りを覚える。
 もし時間を戻せるならどれだけいいか。
 鶯を傷つけた自覚はあるのだ。ひどい裏切りにたくさん泣かせたことだろう。

「……さっきの正妻案は忘れてくれ。正妻はそういうことに使うものじゃない」
「説得力が違うな」
「からかうなよ。……で、どうすればいいと思う」
「まだ聞くかよ」
「本気で悩んでいる」
「まさか天帝ともあろう男がそんなことで悩むようになるとは……」
「俺だって我ながら驚いている。だが、どんな難題の政務よりも俺を悩ませている」

 今、鶯はなにをしているだろうか。
 後宮で舞の稽古か、はたまたふみをしたためているのか。それとも二人の息子の世話をしているのか。それとも神域の森で地上の人間たちを見守っているのか……。

 俺は鶯を思い、ままならない思いにまたため息をついたのだった。

■■■■■■




しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】転生したらラスボスの毒継母でした!

白雨 音
恋愛
妹シャルリーヌに裕福な辺境伯から結婚の打診があったと知り、アマンディーヌはシャルリーヌと入れ替わろうと画策する。 辺境伯からは「息子の為の白い結婚、いずれ解消する」と宣言されるが、アマンディーヌにとっても都合が良かった。「辺境伯の財で派手に遊び暮らせるなんて最高!」義理の息子など放置して遊び歩く気満々だったが、義理の息子に会った瞬間、卒倒した。 夢の中、前世で読んだ小説を思い出し、義理の息子は将来世界を破滅させようとするラスボスで、自分はその一因を作った毒継母だと知った。破滅もだが、何より自分の死の回避の為に、義理の息子を真っ当な人間に育てようと誓ったアマンディーヌの奮闘☆  異世界転生、家族愛、恋愛☆ 短めの長編(全二十一話です) 《完結しました》 お読み下さり、お気に入り、エール、いいね、ありがとうございます☆ 

【完結】転生したら悪役継母でした

入魚ひえん@発売中◆巻き戻り冤罪令嬢◆
恋愛
聖女を優先する夫に避けられていたアルージュ。 その夜、夫が初めて寝室にやってきて命じたのは「聖女の隠し子を匿え」という理不尽なものだった。 しかも隠し子は、夫と同じ髪の色。 絶望するアルージュはよろめいて鏡にぶつかり、前世に読んだウェブ小説の悪妻に転生していることを思い出す。 記憶を取り戻すと、七年間も苦しんだ夫への愛は綺麗さっぱり消えた。 夫に奪われていたもの、不正の事実を着々と精算していく。 ◆愛されない悪妻が前世を思い出して転身したら、可愛い継子や最強の旦那様ができて、転生前の知識でスイーツやグルメ、家電を再現していく、異世界転生ファンタジー!◆ *旧題:転生したら悪妻でした

図書館でうたた寝してたらいつの間にか王子と結婚することになりました

鳥花風星
恋愛
限られた人間しか入ることのできない王立図書館中枢部で司書として働く公爵令嬢ベル・シュパルツがお気に入りの場所で昼寝をしていると、目の前に見知らぬ男性がいた。 素性のわからないその男性は、たびたびベルの元を訪れてベルとたわいもない話をしていく。本を貸したりお茶を飲んだり、ありきたりな日々を何度か共に過ごしていたとある日、その男性から期間限定の婚約者になってほしいと懇願される。 とりあえず婚約を受けてはみたものの、その相手は実はこの国の第二王子、アーロンだった。 「俺は欲しいと思ったら何としてでも絶対に手に入れる人間なんだ」

強面夫の裏の顔は妻以外には見せられません!

ましろ
恋愛
「誰がこんなことをしろと言った?」 それは夫のいる騎士団へ差し入れを届けに行った私への彼からの冷たい言葉。 挙げ句の果てに、 「用が済んだなら早く帰れっ!」 と追い返されてしまいました。 そして夜、屋敷に戻って来た夫は─── ✻ゆるふわ設定です。 気を付けていますが、誤字脱字などがある為、あとからこっそり修正することがあります。

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

白い結婚のはずでしたが、幼馴染の夫が離してくれません!

妄夢【ピッコマノベルズ連載中】
恋愛
外観は赤髪で派手で美人なアーシュレイ。 同世代の女の子とはうまく接しられず、幼馴染のディートハルトとばかり遊んでいた。 おかげで男をたぶらかす悪女と言われてきた。しかし中身はただの魔道具オタク。 幼なじみの二人は親が決めた政略結婚。義両親からの圧力もあり、妊活をすることに。 しかしいざ夜に挑めばあの手この手で拒否する夫。そして『もう、女性を愛することは出来ない!』とベットの上で謝られる。 実家の援助をしてもらってる手前、離婚をこちらから申し込めないアーシュレイ。夫も誰かとは結婚してなきゃいけないなら、君がいいと訳の分からないことを言う。 それなら、愛人探しをすることに。そして、出会いの場の夜会にも何故か、毎回追いかけてきてつきまとってくる。いったいどういうつもりですか!?そして、男性のライバル出現!? やっぱり男色になっちゃたの!?

魔法師団長の家政婦辞めたら溺愛されました

iru
恋愛
小説家になろうですでに完結済みの作品です。よければお気に入りブックマークなどお願いします。 両親と旅をしている途中、魔物に襲われているところを、魔法師団に助けられたティナ。 両親は亡くなってしまったが、両親が命をかけて守ってくれた自分の命を無駄にせず強く生きていこうと決めた。 しかし、肉親も家もないティナが途方に暮れていると、魔物から助けてくれ、怪我の入院まで面倒を見てくれた魔法師団の団長レオニスから彼の家政婦として住み込みで働かないと誘われた。 魔物から助けられた時から、ひどく憧れていたレオニスの誘いを、ティナはありがたく受ける事にした。 自分はただの家政婦だと強く言い聞かせて、日に日に膨らむ恋心を抑え込むティナだった。 一方、レオニスもティナにどんどん惹かれていっていた。 初めはなくなった妹のようで放っては置けないと家政婦として雇ったが、その健気な様子に強く惹かれていった。 恋人になりたいが、年上で雇い主。 もしティナも同じ気持ちでないなら仕事まで奪ってしまうのではないか。 そんな思いで一歩踏み出せないレオニスだった。 そんな中ある噂から、ティナはレオニスの家政婦を辞めて家を出る決意をする。 レオニスは思いを伝えてティナを引き止めることができるのか? 両片思いのすれ違いのお話です。

嫌われ皇后は子供が可愛すぎて皇帝陛下に構っている時間なんてありません。

しあ
恋愛
目が覚めるとお腹が痛い! 声が出せないくらいの激痛。 この痛み、覚えがある…! 「ルビア様、赤ちゃんに酸素を送るためにゆっくり呼吸をしてください!もうすぐですよ!」 やっぱり! 忘れてたけど、お産の痛みだ! だけどどうして…? 私はもう子供が産めないからだだったのに…。 そんなことより、赤ちゃんを無事に産まないと! 指示に従ってやっと生まれた赤ちゃんはすごく可愛い。だけど、どう見ても日本人じゃない。 どうやら私は、わがままで嫌われ者の皇后に憑依転生したようです。だけど、赤ちゃんをお世話するのに忙しいので、構ってもらわなくて結構です。 なのに、どうして私を嫌ってる皇帝が部屋に訪れてくるんですか!?しかも毎回イラッとするとこを言ってくるし…。 本当になんなの!?あなたに構っている時間なんてないんですけど! ※視点がちょくちょく変わります。 ガバガバ設定、なんちゃって知識で書いてます。 エールを送って下さりありがとうございました!

処理中です...