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愛してるを信じてもらえない。俺はどうすればいい?
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「愛している。お前だけだ」
俺は真剣な顔で告げた。
最愛の天妃である鶯をまっすぐに見つめ、心からの言葉を。
今まで何度も告げてきたが、どれだけ告げても足りないのだ。
そんな俺の言葉に鶯は恥ずかしそうにはにかむ。
「存じています。今、黒緋様が愛しているのは私だけ。私は幸せな天妃ですね。きっと歴代で一番に」
そう言って鶯は微笑んだ。
言葉に嘘はないと伝わってくるような、ほんとうに幸せそうな微笑みだ。
だが、鶯は『今』と言ったのだ。
それは明日を、明後日を、これからを信じていないということ。
いつか俺の心が移ろっていくと思っているということ。
……無理はなかった。
かつて鶯を天妃に迎えたばかりの頃、俺の後宮には五人の妻室がいた。それだけじゃない、見目麗しい女官たちとも気まぐれに関係をもったこともある。
やんごとない身分の男が正妻以外にも側室の妻を囲うことは当たり前のことで、もちろん天帝の俺が天妃以外の妻を囲っていたところでなんの問題もなかった。罪悪感など欠片もなかった。
それというのも天妃は正当な世継ぎをつくるためだけの存在で、かつての俺は鶯を愛していたわけでもないのだ。後宮内でも冷遇し、邪険にあつかったことさえある。
だが今、俺は鶯を愛している。
地上に落ちた鶯をもう一度天妃として迎えるためにすべての妻室を離縁し、地上に降りてずっと探していた。
幸運にも鶯を見つけだし、愛していると伝えて再び結ばれることができたが……。
「ほんとうに愛しているんだ……」
「はい、私も愛しています」
鶯はそう言って微笑む。
でも今、俺はなにも言えなくなる。
鶯の言葉に嘘はない。鶯は本当に俺を愛してくれている。
でも愛しているからといって、信じてくれているわけじゃない。
俺は鶯を心から愛したからこそ気付いてしまった。今までどれだけ鶯を裏切っていたかを……。
「天妃が俺を信じていない。……で、どうすればいいと思う?」
「ええ……。それ俺に聞くのかよ」
離寛がなんとも迷惑そうに俺を見た。
離寛は天界の武将であり、俺の古くからの友人だ。俺と鶯の事情を知っている人物なわけだが。
「……正直、俺にわかると思うか? むしろよく妻室たちを離縁したなって感心してるくらいなのに」
「そうだったな、お前も妻室が六人いたな」
「ああ、正妻はまだだけどな」
離寛は天界の大貴族の一人だ。正妻は作っていないが六人の妻室を囲っていた。離寛の身分ならそれは当たり前のことともいえた。
「妻室たちは息災か?」
「元気にしてるぜ。元気すぎるくらいだ……」
「なんだ、もめてるのか?」
「……どの妻のところに渡りすぎだとか、あの妻への贈り物が一番高価だったとか、なんとかかんとか言いながら元気にしてるぜ」
「ハハハッ、愛を交わすより苦情処理のほうが大変そうだな」
思わず笑ってしまった。他人事だからな。
妻室は妻を名乗るが立場は側室だ。しかも高貴な身分の男に嫁ぐ妻室は、立場は側室であろうと身分はやんごとない家柄の姫であることが多いのだ。
そうなると妻室同士で競いあうのは夫からの愛情だけではない。実家の権威や身分はもちろん、贈り物や貢ぎ物、夫が夜に渡ってきた回数にいたるまで、愛も権威も自分がいかに特別であるかを競いあうのである。
俺も妻室を囲っていたから覚えはあるが、とにかく面倒くさい競いあいなのだ。
「そんなに大変なら正妻を迎えればいいだろ。少しは収まるぞ」
「いいのかよ、その収め方で」
「問題でもあるのか?」
「胸に手を当てて考えてみろって」
離寛に呆れた顔で言われ、俺はむっと眉間に力を入れる。
胸に手を当てて考えて……。
…………。
………………。
……………………最悪の判断だ。
かつて俺が鶯を天妃として迎えたばかりの頃を思い出した。
その頃、俺は鶯を愛しているわけではなかった。あげくに天妃になったばかりの鶯を冷遇したせいで、鶯は他の妻室からひどい攻撃とやっかみを受けたのだ。そのせいで鶯は後宮の自室に引きこもってしまったほどだ。
しかもそんな鶯を守るために俺がなにか特別な配慮をしたことはない。むしろ放置していた。
「…………あの時の俺を殴りたい」
「おいおい、物騒だな」
「本気だ……」
思い出すだけで自分に怒りを覚える。
もし時間を戻せるならどれだけいいか。
鶯を傷つけた自覚はあるのだ。ひどい裏切りにたくさん泣かせたことだろう。
「……さっきの正妻案は忘れてくれ。正妻はそういうことに使うものじゃない」
「説得力が違うな」
「からかうなよ。……で、どうすればいいと思う」
「まだ聞くかよ」
「本気で悩んでいる」
「まさか天帝ともあろう男がそんなことで悩むようになるとは……」
「俺だって我ながら驚いている。だが、どんな難題の政務よりも俺を悩ませている」
今、鶯はなにをしているだろうか。
後宮で舞の稽古か、はたまた文をしたためているのか。それとも二人の息子の世話をしているのか。それとも神域の森で地上の人間たちを見守っているのか……。
俺は鶯を思い、ままならない思いにまたため息をついたのだった。
■■■■■■
俺は真剣な顔で告げた。
最愛の天妃である鶯をまっすぐに見つめ、心からの言葉を。
今まで何度も告げてきたが、どれだけ告げても足りないのだ。
そんな俺の言葉に鶯は恥ずかしそうにはにかむ。
「存じています。今、黒緋様が愛しているのは私だけ。私は幸せな天妃ですね。きっと歴代で一番に」
そう言って鶯は微笑んだ。
言葉に嘘はないと伝わってくるような、ほんとうに幸せそうな微笑みだ。
だが、鶯は『今』と言ったのだ。
それは明日を、明後日を、これからを信じていないということ。
いつか俺の心が移ろっていくと思っているということ。
……無理はなかった。
かつて鶯を天妃に迎えたばかりの頃、俺の後宮には五人の妻室がいた。それだけじゃない、見目麗しい女官たちとも気まぐれに関係をもったこともある。
やんごとない身分の男が正妻以外にも側室の妻を囲うことは当たり前のことで、もちろん天帝の俺が天妃以外の妻を囲っていたところでなんの問題もなかった。罪悪感など欠片もなかった。
それというのも天妃は正当な世継ぎをつくるためだけの存在で、かつての俺は鶯を愛していたわけでもないのだ。後宮内でも冷遇し、邪険にあつかったことさえある。
だが今、俺は鶯を愛している。
地上に落ちた鶯をもう一度天妃として迎えるためにすべての妻室を離縁し、地上に降りてずっと探していた。
幸運にも鶯を見つけだし、愛していると伝えて再び結ばれることができたが……。
「ほんとうに愛しているんだ……」
「はい、私も愛しています」
鶯はそう言って微笑む。
でも今、俺はなにも言えなくなる。
鶯の言葉に嘘はない。鶯は本当に俺を愛してくれている。
でも愛しているからといって、信じてくれているわけじゃない。
俺は鶯を心から愛したからこそ気付いてしまった。今までどれだけ鶯を裏切っていたかを……。
「天妃が俺を信じていない。……で、どうすればいいと思う?」
「ええ……。それ俺に聞くのかよ」
離寛がなんとも迷惑そうに俺を見た。
離寛は天界の武将であり、俺の古くからの友人だ。俺と鶯の事情を知っている人物なわけだが。
「……正直、俺にわかると思うか? むしろよく妻室たちを離縁したなって感心してるくらいなのに」
「そうだったな、お前も妻室が六人いたな」
「ああ、正妻はまだだけどな」
離寛は天界の大貴族の一人だ。正妻は作っていないが六人の妻室を囲っていた。離寛の身分ならそれは当たり前のことともいえた。
「妻室たちは息災か?」
「元気にしてるぜ。元気すぎるくらいだ……」
「なんだ、もめてるのか?」
「……どの妻のところに渡りすぎだとか、あの妻への贈り物が一番高価だったとか、なんとかかんとか言いながら元気にしてるぜ」
「ハハハッ、愛を交わすより苦情処理のほうが大変そうだな」
思わず笑ってしまった。他人事だからな。
妻室は妻を名乗るが立場は側室だ。しかも高貴な身分の男に嫁ぐ妻室は、立場は側室であろうと身分はやんごとない家柄の姫であることが多いのだ。
そうなると妻室同士で競いあうのは夫からの愛情だけではない。実家の権威や身分はもちろん、贈り物や貢ぎ物、夫が夜に渡ってきた回数にいたるまで、愛も権威も自分がいかに特別であるかを競いあうのである。
俺も妻室を囲っていたから覚えはあるが、とにかく面倒くさい競いあいなのだ。
「そんなに大変なら正妻を迎えればいいだろ。少しは収まるぞ」
「いいのかよ、その収め方で」
「問題でもあるのか?」
「胸に手を当てて考えてみろって」
離寛に呆れた顔で言われ、俺はむっと眉間に力を入れる。
胸に手を当てて考えて……。
…………。
………………。
……………………最悪の判断だ。
かつて俺が鶯を天妃として迎えたばかりの頃を思い出した。
その頃、俺は鶯を愛しているわけではなかった。あげくに天妃になったばかりの鶯を冷遇したせいで、鶯は他の妻室からひどい攻撃とやっかみを受けたのだ。そのせいで鶯は後宮の自室に引きこもってしまったほどだ。
しかもそんな鶯を守るために俺がなにか特別な配慮をしたことはない。むしろ放置していた。
「…………あの時の俺を殴りたい」
「おいおい、物騒だな」
「本気だ……」
思い出すだけで自分に怒りを覚える。
もし時間を戻せるならどれだけいいか。
鶯を傷つけた自覚はあるのだ。ひどい裏切りにたくさん泣かせたことだろう。
「……さっきの正妻案は忘れてくれ。正妻はそういうことに使うものじゃない」
「説得力が違うな」
「からかうなよ。……で、どうすればいいと思う」
「まだ聞くかよ」
「本気で悩んでいる」
「まさか天帝ともあろう男がそんなことで悩むようになるとは……」
「俺だって我ながら驚いている。だが、どんな難題の政務よりも俺を悩ませている」
今、鶯はなにをしているだろうか。
後宮で舞の稽古か、はたまた文をしたためているのか。それとも二人の息子の世話をしているのか。それとも神域の森で地上の人間たちを見守っているのか……。
俺は鶯を思い、ままならない思いにまたため息をついたのだった。
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