紫の瞳の王女と緑の瞳の男爵令嬢

秋野 林檎 

文字の大きさ
12 / 78

11

しおりを挟む
―…えっと…想像していたコンウォール男爵とは…ずいぶん違うんだけど…。

緊張でコンウォール男爵の前で固まってしまうんじゃないかと思っていたライドだったが、違う意味で今ライドは、コンウォール男爵を前にして固まっていた。


―商工会の大物、切れ者といろいろ言われていたから、俺の中では鋭い目つきの大柄な男で、口から出てくる言葉は低音…そうテノール。その姿と声に思わずひれ伏したくなるってのが、俺の中でのコンウォール男爵だったんだけど…。
だけど…通された部屋で待っていたら…現れたのは、小柄でちょっと太めの体系、くるりとした大きな黒目がちの男で、人のよさそうな田舎のおじさんという感じで、とても切れ者とは見えなかったどころか、貴族にも見えない…。かろうじてピンと跳ね上がった大きな口ひげをたくわえているところが、貴族のような雰囲気だけど…。


そう思いながら、横に立つアークフリードに目をやれば、やはり茫然としている。

―…だよなぁ。アークフリードだってそう思ってんだろうなぁ、だってとても切れ者、表と裏の顔を持つなんて…無縁って感じ人のよさそうな穏やかな人物って感じだもんな。あぁこれなら話はスムーズにいきそうだ。

などと勝手に思っていたライドの心中を見透かすように、黒目がちの大きな目がライドを見、そしてゆっくりとその視線をアークフリードへと移ると、コンウォールは穏やかな笑みを見せながら頭を下げてきた。



「ブランドン公爵様、アーガイル伯爵様、本日は娘のことでわざわざおいで頂きありがとうございます。」


その途端、アークフリードは慌ててソファから立ち上がり
「コンウォール男爵殿、こんなことにご息女を巻き込み申し訳ない」と深く頭を下げた。


「ブ、ブランド公爵様、どうかそのような真似は…」

若くとも筆頭公爵のアークフリードにここまでされたことに、さすがに驚いたのだろう。日頃のコンウォールらしからぬ落ち着きのなさで顔を青くした。


「いや、ご息女を国のため、公爵家のためといって、女性としての人生に傷をつけることを…どうか、どうか許してほしい。」

なかなか頭をあげないアークフリードに、コンウォールは口元に笑みを浮かべると

「…上位の貴族なのですから、ひとこと、国のためだと命じれば済むことを…」

そう言うと、懐かしむように眼を潤ませ「アークフリード様は…」と口にしたが、その先は笑みを深くして続けず、思わぬことを口にした。



「公爵様は…マールバラ王に似ていらっしゃる。誰にでも誠実で、お優しかったあの方に…。」



コンウォールの言葉に、茫然とした顔でアークフリードは頭をあげ、ライドは眉を顰めた。



コンウォールは2人の顔を見て、それは楽しそうに



「ふっふふふ……以外でございましょうね。男爵風情がそれも他国の王と知りあいだなんて、実はマールバラ王は、私が商売を最初に始めた店【銀の匙】の常連だったんですよ。」


「「…えっ?!」」とライドとアークフリードは同時に叫んだ!

本来ならあり得ない話しだ、だがなぜだか嘘だとは思えなかった。
でも、一国の王がそれも隣国の王がなぜ?コンウォールには失礼だが、俗に下町といわれる所になぜ?という疑問が大きく膨らんだ、それがコンウォールには見えたのか、ちょっと意地悪な顔で

「あんな場末の小汚い店に?と仰りたいのでしょう…」

「…ぁ」と小さな声を上げたアークフリードは真っ赤になり「申し訳ない!」とまた頭を下げれば、コンウォールのクスリと笑う声がして、アークフリードはそっと顔をあげた。



その様子にコンウォールは懐かしむように目を細め

「マールバラ王に、最初にお会いしたのは…25年近く前でしょうか。」



そう言ってアークフリードの後ろにある窓に目をやった。そして立ったままのアークフリードに、気が付いたコンウォールは。


「ブランドン公爵様、話が長くなるかも知れません、どうかソファにお座りくださいませ。」



「は、はい、かたじけない。」



アークフリードの慌ててソファに座る様子を微笑みながら、「やはり、似ておいでだ。」とまた口にした。



だが、穏やかな口調のコンウォールを、何故かライドもアークフリードもコンウォールを見て驚愕した。


何故なら、彼は泣いていたのだ…。


声の調子は変わらないのに、彼の目から涙が次々に溢れていたからだ。


コンウォールは、ポケットからハンカチを出し、



「年をとると、涙腺が緩くていけません。」



涙を拭いて、ハンカチから顔を上げると…その顔は思いつめた中年の男の顔だった。



「娘は、国や公爵様の現状から、お救いしたいという気持ちでやっております、もちろん、私もですが、もうひとつ私には理由があります。」


コンウォールはアークフリードとライドの誠実な顔を見つめた。息を吐くと目を瞑った。




覚悟を決めたように目を開いたコンウォールはゆっくりと自分も椅子へと腰を下ろすと

「今から、お話することは、どうかここだけの話で…。」そう言って、顔の前で手を組んだ。



鋭い目つきではなかった。低いテノールの声ではなかった。

だが、ライドもアークフリードもコンウォールの威圧感に息が止まりそうだった。





しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】番(つがい)でした ~美しき竜人の王様の元を去った番の私が、再び彼に囚われるまでのお話~

tea
恋愛
かつて私を妻として番として乞い願ってくれたのは、宝石の様に美しい青い目をし冒険者に扮した、美しき竜人の王様でした。 番に選ばれたものの、一度は辛くて彼の元を去ったレーアが、番であるエーヴェルトラーシュと再び結ばれるまでのお話です。 ヒーローは普段穏やかですが、スイッチ入るとややドS。 そして安定のヤンデレさん☆ ちょっぴり切ない、でもちょっとした剣と魔法の冒険ありの(私とヒロイン的には)ハッピーエンド(執着心むき出しのヒーローに囚われてしまったので、見ようによってはメリバ?)のお話です。 別サイトに公開済の小説を編集し直して掲載しています。

どうぞ、おかまいなく

こだま。
恋愛
婚約者が他の女性と付き合っていたのを目撃してしまった。 婚約者が好きだった主人公の話。

王子を身籠りました

青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。 王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。 再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。

届かぬ温もり

HARUKA
恋愛
夫には忘れられない人がいた。それを知りながら、私は彼のそばにいたかった。愛することで自分を捨て、夫の隣にいることを選んだ私。だけど、その恋に答えはなかった。すべてを失いかけた私が選んだのは、彼から離れ、自分自身の人生を取り戻す道だった····· ◆◇◆◇◆◇◆ 読んでくださり感謝いたします。 すべてフィクションです。不快に思われた方は読むのを止めて下さい。 ゆっくり更新していきます。 誤字脱字も見つけ次第直していきます。 よろしくお願いします。

【完結済】ラーレの初恋

こゆき
恋愛
元気なアラサーだった私は、大好きな中世ヨーロッパ風乙女ゲームの世界に転生していた! 死因のせいで顔に大きな火傷跡のような痣があるけど、推しが愛してくれるから問題なし! けれど、待ちに待った誕生日のその日、なんだかみんなの様子がおかしくて──? 転生した少女、ラーレの初恋をめぐるストーリー。 他サイトにも掲載しております。

行き場を失った恋の終わらせ方

当麻月菜
恋愛
「君との婚約を白紙に戻してほしい」  自分の全てだったアイザックから別れを切り出されたエステルは、どうしてもこの恋を終わらすことができなかった。  避け続ける彼を求めて、復縁を願って、あの日聞けなかった答えを得るために、エステルは王城の夜会に出席する。    しかしやっと再会できた、そこには見たくない現実が待っていて……  恋の終わりを見届ける貴族青年と、行き場を失った恋の中をさ迷う令嬢の終わりと始まりの物語。 ※他のサイトにも重複投稿しています。

【書籍化】番の身代わり婚約者を辞めることにしたら、冷酷な龍神王太子の様子がおかしくなりました

降魔 鬼灯
恋愛
 コミカライズ化決定しました。 ユリアンナは王太子ルードヴィッヒの婚約者。  幼い頃は仲良しの2人だったのに、最近では全く会話がない。  月一度の砂時計で時間を計られた義務の様なお茶会もルードヴィッヒはこちらを睨みつけるだけで、なんの会話もない。    お茶会が終わったあとに義務的に届く手紙や花束。義務的に届くドレスやアクセサリー。    しまいには「ずっと番と一緒にいたい」なんて言葉も聞いてしまって。 よし分かった、もう無理、婚約破棄しよう! 誤解から婚約破棄を申し出て自制していた番を怒らせ、執着溺愛のブーメランを食らうユリアンナの運命は? 全十話。一日2回更新 完結済  コミカライズ化に伴いタイトルを『憂鬱なお茶会〜殿下、お茶会を止めて番探しをされては?え?義務?彼女は自分が殿下の番であることを知らない。溺愛まであと半年〜』から『番の身代わり婚約者を辞めることにしたら、冷酷な龍神王太子の様子がおかしくなりました』に変更しています。

悪役令嬢は死んで生き返ってついでに中身も入れ替えました

蒼黒せい
恋愛
侯爵令嬢ミリアはその性格の悪さと家の権威散らし、散財から学園内では大層嫌われていた。しかし、突如不治の病にかかった彼女は5年という長い年月苦しみ続け、そして治療の甲斐もなく亡くなってしまう。しかし、直後に彼女は息を吹き返す。病を克服して。 だが、その中身は全くの別人であった。かつて『日本人』として生きていた女性は、異世界という新たな世界で二度目の生を謳歌する… ※同名アカウントでなろう・カクヨムにも投稿しています

処理中です...