紫の瞳の王女と緑の瞳の男爵令嬢

秋野 林檎 

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アークフリードの驚きに見開いたままの青い瞳をじっと見つめて、もう一度ミーナは言った。


「カトリーヌ王妃は人ではないと申しました。」


「根拠は…」とアークフリードの低い声が聞いた。





ライドはミーナの話があまりにも突飛で、頭の中に入ってこなかった。

むしろ目の前の二人が …、惹かれあっている二人が…、睨み合いながらいることに頭を抱えていた。


ーあのバカ…なにやってんだよ。心配なんだろう、王家を侮辱することがもし漏れれば…ミーナ嬢は下手をしたら死刑だ。なら言ってやれよ。”ミーナ、君が心配なんだ”と。


そんなライドの心の声が聞こえたかのように、コンウォールは苦笑しながら
「ブランドン公爵、それは私がご説明いたします。」と口火を切った。







「あの方の妹君とはいえ彼女に…様などと敬称をつけたくはないのですが…。ここは一応つけさせて頂きます。

 カトリーヌ王妃は、パメラ様とご一緒の時にしか、人前にお出になりませんし、その声を聞いた者もおりません。そしてパメラ様が前のブランドン公爵と結婚され、カトリーヌ王妃の侍女をお辞めになってからは、カトリーヌ王妃から人を遠ざけるようにパメラ様の息がかかった侍女のみにしか、お世話をさせていないのです。」


と言って一旦言葉をきって




「幻惑魔法…」とコンウォールは静かに言った。





「ブランドン公爵様の話から、パメラ様が《王華》の一部しか持っていないと推測できます。つまり魔法がつかえるということ。《王華》の一部でどのくらいのものができるのかわからないですが。カトリーヌ王妃の御姿は形代を使っている思われます。

マールバラ王国の王の伴侶、あるいは女王の伴侶は、魔法を持たない方でしたので、その方を守るために使われていたのが形代を使った魔法。私も見たことがありますが、見た目だけならわからないものです、そう見た目はです。それは形代の欠点は話すことができないからです。だからカトリーヌ王妃から人を遠ざけたのはそのせいかと…。」



 ライドは「紙の人形を人に見せる魔法…?いや…まさか…」と言いながら、何度も頭を横に振っていたが、何かに気が付いたのだろう。

「…ぁ…コンウォール男爵!だがノーフォーク王は何度も王妃と寝室を共にされてあった…それはどういうことだ。」



「魅了魔法」



「…魅了…?」


「はい、気に入った異性がいれば、魔法を使って自分に好意を持たせる。そんな魔法もあるそうですが、愛する人の間にしか 御子ができないマールバラ王には無用の長物だったでしょう。でも、パメラ様にとっては必要不可欠だったのです。ノーフォークの重要人物を虜にするには…。

ですが形代ではさすがに王と夜を共に過ごすことは無理です。そうなると王の寝室にいたのは、カトリーヌ王妃ではなくて…おそらくパメラ様かと思われます。」


コンウォールはそう言って、一瞬痛ましそうにアークフリードを見た。

「……まさか、私の父も…」


「はい、間違いないかと…そして…」


アークフリードは、両肘を足につけ頭を抱え…「父上…」と小さく呟く姿に、コンウォールは言葉につまった。


そんなアークフリードを今まで黙っていたミーナが、
「いつまで、そうしているおつもりですか?アークフリード様。悔しい思いや辛いお気持ちに浸るのは、すべてことが終わってからです。 今は、戦う準備をしなければ、マールバラ王国の二の前になってしまいます。」と厳しい声で言った。


「俺とて、それはわかっている!」

アークフリードの声にわずかとはいえ怒気が混じったが、だがミーナも 一歩も譲らず、

「いいえ、おわかりにはなってません!まだ父の話には続きがあります。なぜパメラ様がアークフリード様にしつこく結婚を勧めるのか、でも結婚話がうまくいかないと今度はアークフリード様を誘惑しようとする…。
パメラ様の正体が分かった今、そこには何かあると思われませんか。」


アークフリードは違和感に気が付き顔をあげた。
「…君の言う通りだ。なぜノーフォークの重要人物ではない若造の俺に…。いや…なぜパメラは俺に魅了魔法をかけなかったのだ。」


アークフリードはコンウォールを見た。コンウォールはミーナを見ながら
「…アークフリード様には効かないのです。」

「俺に魅了魔法が効かない?なぜ…」

「ミーナ、私の代わりにお答えして差し上げなさい。」

「…お父様。」

「私より魔法…いや《王華》を知っているおまえのほうが適任だろう。」

ミーナは困ったように笑みを浮かべだが、諦めたかのようにアークフリードに向かって言った。
「アークフリード様にパメラ様の魅了魔法が効かないのは、マールバラ王の《王華》の一部がアークフリード様の中にもあるからです。」



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