悪辣王の二人の娘 ~真実を知った聖女は悪を討つ~

朱音ゆうひ@11/5受賞作が発売されます

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1、贖罪のスピネル

21、青王と英雄

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 サイラスは青いオウムと密談していた。

「ご無事でなによりです、と申し上げるべきですよね? 青王陛下?」
『死ぬつもりはなかったぞ、心配してくれたのか、英雄?』


 新婚旅行とやらを続けていたら、国が滅びた。

 いくらなんでもお姫様が可哀想なのではないだろうか。
 広場で膨大な魔力を使ったお姫様は、お花がしおれるように弱々しくなって寝込んでしまわれた。

 空国の王兄ハルシオンが魔力回復薬を飲ませたり魔力を注いで、「なおります」と保証していたが、弱っている姿をみていると不憫でならない。そして、俺は何もできなかった……。


 まるで、Xのようだ。Xもこんな風によく寝込んでいて、俺はいつXが死んでしまうかと心配で、怖くて、たまらない。ずっと、ずっと。

 だから、金を稼ぐため、というのを言い訳にして距離を取った。
 近くにいて苦しそうだったり弱っていたりする姿を見るのが、つらいから。
 看取るのがこわいから。

「XXXXXX、次はいつ帰ってくるの」

「お金、いつもありがとう」
「お仕事たいへんなのね」
「活躍してるって、うわさをきいたのよ。すごい。ほこらしい」 
 
「ほんとうはね」
 そばにいてほしいんだろう。

 大切な存在なのに、思い出すと胸が苦しくなる。
 そばにいるのが怖い。命が少しずつ削られていくように死に向かう姿を見ていたくない。

「俺は青国人なので」
 以前、紅国で功績をあげて「故国を捨てて紅国で生きないか」と提案された時、自分はそう言って遠慮した。 
 それを青国の民などは「愛国心があるのだ」「故郷想いだ」と美談としてうたっている。
 けれど、そうではない。

「家族とも一緒に暮らせる。大きな屋敷をあげるから、そこで病気の妹と暮らせばいい」
 病気の妹と一緒に暮らすというのが、怖かったのだ。逃げ場がなくなって、離れる理由がなくなることに恐怖をおぼえたのだ。

 ――おにいちゃん、次はいつ帰ってくるの。

 金を。薬を。医者を。
 あたたかな家を。不自由なく暮らせる世話役を。
 全部を手配して、自分は離れていたい。自分以外の全てを与える代わりに、自分だけは離れていたい。そんな思いが、罪深いと感じる。

『英雄、英雄。姫は死んでない?』
 青王のオウムが縁起でもないことを言うので、苛立ちが胸の奥で跳ねる。

「死にかけていました」
 少しは心配すればいいのに。
 俺は心配した。きっと、この父親より俺のほうが心配した。

『死にかけたという事は、死んでないのだな。セーフだな、よしよし、しめしめ』
 くそったれな父親だ。この王様は、例え姫が死んでも、それほど悲しまない温度感なのだ。「死んじゃったかあ、仕方ないね」程度で済ませて笑いそうなのだ。
(俺は、この王様が嫌いだ)
 胸の底からそんな思いが湧きあがる。

「姫は、陛下を心配なさっておいでですよ」 
 あのお姫様は、ちゃんと優しい心根を持っている。まっとうに誰かを心配することができる。この王様とは違う。
 妹が病弱で外に出れなかったように、姫は父親のせいで箱入り育ちなのだ。
 王様より、妹に近いといえる。
 
『一回倒れたんだよ。毒を飲んでやってさ。そしたら、無能に育てたアーサーが意外とリーダーシップ発揮しちゃってさあ、治癒魔法も使ってさ。あいつ、外を頼る知恵なんかつけちゃって。私を連れて、紅国に逃げ込んで保護を求めたんだ』
 アーサーというのは、青国の王太子だ。あのお姫様の兄だ。助けてもらったのだろうに、ひどい言いぐさだ。
「紅国なら、安全でしょうね」
 あそこは青国や空国より、まともなのだ。
 国土も呪われたりしていないし。

『落ち着いたら、紅国にシュネーを連れて行くのもいいかもしれないね、英雄』
 青王はほんわかと危機感薄く笑っている。

「陛下は、少しはご自分の姫を心配なさったらどうですか」 
 
 怒りをにじませると、青王はとたんに怯えたような、焦ったような声になる。

『ごめんよ! 怒らないでよ、わるかった。心配してるさ。だから、死んでない? って聞いたじゃないか!』
 ――青いオウムが必死な風情で羽をばたばたさせて、さえずるのだ。


 
 
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