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紫鶴

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16歳の俺

第4王子16歳 11

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断りもなく王宮を出ようとしたら、早々に捕まった。部屋に一気に戻され、そこには椅子に座っているユアン兄さまが。いや、違うんだ。遊びに行こうとしたわけではなくてね?ユアン兄さま本当ですから怒らないで!!

じろっと睨まれて嘘も言えずに孤児院の皆が学院に通っていると話した。だから様子を見に行こうとしてただけで、悪さしようとか思ってないから!

ユアン兄さまは、ふうん?っとそう言って俺を見た後に銀と金の刺繍が施された紺色のローブを羽織ってフードを被る。同じく、紺色の同じような刺繍がされているローブを俺に放り投げた。それを受け止めてえ?っとユアン兄さまを見る。


「着な」
「え、なんで?」
「お前だけ行かせると何しでかすか分からないからね」
「え、ええ~……」


そんなに俺ってば信用ないの?ひどくない?
そう思いながらもローブを羽織り、フードを被る。すると、よくできましたとでもいうようにフードの上から頭を撫でられた。いや、俺はそんなことで喜ばないからね?


「それじゃあ行くよ」
「はーい」


ユアン兄さまにそう言われ、もう一度ルチアーノに眠りの魔術をかけてから部屋を出る。


「どちらに行かれるのです、殿下」


扉を開けると、そこにはアルトがいた。じろっと俺とユアン兄さまを見る。ユアン兄さまは俺の前に立つと腕を組んでフードを取った。
すると、アルトはすぐに頭を下げる。


「失礼致しました。第一王子殿下」
「別にいいよ。で、何?」
「いいえ、第一王子殿下ではなく第四王子殿下に用があります。後ろの方は第四王子殿下でよろしいですか?」
「? 俺がどうかしたの?」


アルトが俺に用があるというのでユアン兄さまの後ろからひょいっと顔を出す。


「どちらに行かれるのです」
「学院」
「何しに行くのですか」
「見学」
「どうしてそこに行くのですか」
「行きたいから」


アルトが黙った。もういいのか?
そう思って首を傾げるとじいいっと見つめられる。


「……私も行きます」
「え?来なくていいよ」
「行ったら何か不都合でも?」
「うん、目立つもん」
「行きます」
「ええ~」


ちらっとユアン兄さまに見るとユアン兄さまは何も言わずに良いだろうと頷いていた。目立つじゃん。こんなローブ二人に顔良い貴族が来れば目立つじゃん。

完全に不満たらたらでいるが、そのまま二人が向かうので俺もついていくしかない。当初の予定では一人だけで行こうと思ってたのに。

そうして、俺たち三人は俺の魔術で学院まで来た。アルトが手続きをしている間、こそっとユアン兄さまに耳打ちする。


「ユアン兄さま。アルトが一緒でよかったの?」
「いいんじゃないの?」
「何その適当な返事!」


アルトがいると警戒されて孤児院の子たちに話しかけられないじゃんか。
そう思っているとアルトがこちらに来た。


「どうぞご自由に見学なさってくださいとのことです」
「そう、弟。行きたいところある?」
「え?あー、ユアン兄さまのおすすめの場所に案内して」
「分かったついてきて」
「うん。あ、アルト、ありがとう」


ユアン兄さまがそう言うので俺はそう答えてから話をつけてくれたアルトにそう言った。アルトはきょとんとしていたが何か言おうとして口を閉じた。何だか分からないがとりあえず良しとする。

ユアン兄さまに連れられたのはどこかの個室だ。ノックもそこそこに扉を開け中に入ると、何やら機械や魔術陣の書かれた紙が散らばっている。


「遠隔、音波……通信機器か何かでも開発してんのここ」
「へえ、そうなの?」
「俺は世界の裏側にいても通信ができるけどほとんどの人は出来ないんでしょ?凡庸化されて手紙なんてもんじゃなくてリアルタイムで情報伝達が出来るのは素晴らしいことじゃない?」
「そのとーり!!」


奥の紙の山から何かが出てきた。
うわ、その状況めっちゃ既視感ある!俺もよくやるよ、それ!
出てきたのはぼさぼさ頭によれよれのシャツを着た紫色の髪の男だ。
その男はずかずかと歩いてきて俺の手を掴む。


「君は分かっている!この機械を使うだけで魔術の使えないものもいつでもどこでも誰とでも会話ができるようにしたいんだ!」
「頑張ってください」
「ああ、ありがとう!」


それ、結構前に俺が発明したけど自己完結してたから発展しなかった奴だ。誰も手を付けないからどうでもいいと思ってた。だって近くに通信専用の水晶とかおいて魔術師が伝達系魔術を使えば済むからだ。情報戦命の軍事とかには欠かせないが、一般となると別に必要もないだろう。戦争に行ったとかそういう緊急事態でなければ。

大体にしてそれが出来たとしても金がかかる。金がふんだくれそうな貴族のほとんどはお抱えの魔術師や、魔術を扱えるものが多いので買う人はあまりいないだろう。

市場で出回る代物とは思えないが、価値観は人それぞれなのでこればっかりは分からない。とりあえず頑張って。俺がポンっと完成形持ち出したらすごいことになるから応援しかできないけども。


「カトレア、キースは?」
「キース?キースならいつもの場所だよ、ユアン」
「そう、行くよ弟」
「え、ああ、うん。お邪魔しました」


手を振って彼は俺たちを見送る。ユアン兄さまについて行く。アルトも同じようについてきて螺旋階段のある塔に来た。そこを真っすぐユアン兄さまが上っていくので後についていく。

てっぺんにつくと見晴らしのいい空間があり、そこで何やら魔方陣が床に描かれている。その周りには蝋燭が置いてあり何やら平伏してぶつぶつ言っている。


「キー……」
「話しかけるなぁ!今、今悪魔様を呼んでいるのだ!!」


何かやばい人いるんだけど。

頭に骨の飾り付けてるし、何か頭蓋骨持ってるし、どうしたのこの人。怖いんだけど。


「……いつになったら終わるの?」
「いつ?悪魔様に時間の概念はない!その一瞬が大事なのだ!!いいから邪魔するな!!」


気合入ってるなぁ。これは俺が出し方教えた方がいいのかな。魔方陣という魔力で作ったそれを餌にして「遊ぼー?」って言えばすぐに出てくるって。まあ中には俺強いんだぜ!頼れよ人間!と思って出てくる奴もいるけども。


「ユアン兄さま、あの人どうすればいいの?」
「とりあえずこれを終わらせてくれない?」
「分かった」


俺は片手間に魔力で作った花を作りぽいっと魔方陣の中に放り投げる。男が悲鳴を上げていたが、「あーそーぼ」っと俺が一言いうとぐわっと魔方陣から複数の手が伸びた。長い指に爪のそれが一つの花を奪い合い、勝ち残った一人が手、腕、肩を出しながら出てくる。徐々にそれらが露になると人型の美少年が現れた。肩口で切りそろえられた黒髪に大きな赤い瞳がこちらを見てにっこりと笑った。


「あそぶー!」


その特殊な魔方陣の中にいるから本来の形を保っているが、ここから出てしまえばあの丸い球体になるだろう。契約すれば話は別だが。


「けーやく、けーやく!あそぶ!!」
「俺じゃなくてあっちとね。もう一本あげるから」
「そーなの!おにーちゃん、あそんで!」


もう一本同じものを渡すときゃーっと嬉しそうにそう言って男の方を向く。俺も同じように男の方を見たが、男は固まっていた。彼が「おにーちゃん?」っと言うと男は倒れた。


「だ、大丈夫ですかー!?」


慌てて駆け寄るが気絶しているだけだった。ユアン兄さまを見る。ユアン兄さまはそんな彼に近寄って頬をはたいた。ひえ!


「ちょっと起きて。お前に聞きたいことあんだけど」
「やめてあげて!?」


しかも一度だけじゃ起きないので何度も往復びんたをしていた。痛そう。

一先ず、彼と契約をしたことにより彼はそのままの姿で魔方陣から出られた。名前は、キルト。名前持ち悪魔だから結構位が高い。彼は呑気に俺の背中に張り付いてんーんーっと左右に揺れながら鼻歌を歌っている。

何度か頬をはたかれたことにより、彼は目を覚ました。目を覚ました彼に興味津々のキルトは「だいじょーぶー?」っと声を出す。覗き込まれた彼はもう一度気絶しそうになってユアン兄さまの鉄拳が顔面に入った。悲鳴を上げる俺。顔をそむけるアルト。


「起きろ」
「痛いじゃないか!!いくら第一王子殿下といえどこんな暴行……ってなんかすんげー顔痛いんだだがっ!?」
「お前が失神するから悪いんでしょう?しっかり現実を見ろ」
「現実、現実……」


そして漸く彼とキルトの目が合った。彼はキルトから離れるように転がりながら壁にぶつかった。はーはーっと呼吸が乱れ、目が血走っている。


「あ、悪魔……様……?」
「ん?うん!ぼくキルト!」
「ネーム持ち!生涯でそんな悪魔と出会えるとは!!この日に感謝!!」
「そーなの?」


キルトは小首を傾げた。そんなキルトを見て手をすり合わせて頭を床につけている男。
なんて光景だ。


「ねえ、聞きたいことがあるんだけど」
「ちょっと黙って。今悪魔様とおしゃべりするから」


ユアン兄さまがそう聞くが、男はそう言って床に額をつけている。ユアン兄さまはちっと舌打ちをした。


「弟!」
「ひいっ!あ、あの、お言葉ですが俺と契約したのでいつでもお話が可能です」


そう言うとは?っという顔をしてぐわっと男が俺に近づいてきた。


「嘘をつけ!悪魔と契約し、常にこの世界に繋ぎとめるにはどれだけの魔力が必要だと思っている!そんなもの一人で賄えるわけが……」


そこでケルトが魔方陣から出ても本来の姿を保っていることに気が付いたようで上から下までじいっと見て、きえええええっとよく分からない叫び声をあげ、それから俺の手をしっかりと握る。


「貴方が神か!!!!」
「ごめんなさい、俺は人です」
「悪魔を契約する時どんなことしたの?呼ぶときに何投げたの?」


ふるふると首を振ってそう答えた。俺の返答は華麗にスルーされて興奮気味に質問をされる。。それをユアン兄さまがもう一度彼の頭を殴ることによって止めさせられていた。大丈夫か、彼。
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