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38、ある神様の話

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その神様は生まれて間もなく名前がなかった。
いや、あるのだが知る者はいない。知らなければそれは名前が無いに等しいのだ神にとって。では、知られていないのは何故か。それは名前を明かさなかったから。ただそれだけである。
そして彼は器用貧乏でこれと言った特質がなかった。
全知全能は神にとって当たり前であり、その中でも何かが秀でているあるいは何かが好きであるそのようなことがあれば○○の神として崇められる。しかし彼には何もなかった。
神にとって知名度がないのは壊滅的である。信仰心がない神はすぐに弱って消滅してしまう。
彼はそれに対象であった。
特に何も未練はなく、だろうなと思うくらいであった。
最初は。
たびたび、創造神と会い、話をするたびにそれは恐怖となった。
嫌だ、消えたくない。まだ一緒にいたい。
何時からそう思っていたのか分からないが、多分最初に会った時から焦がれてた。

「何してんお前」

陸地、空、地平線の見える海。
その世界はそれしかなかった。ぼんやりと海に浮かんでいる創造神を見て彼はその言葉が出た。声をかけられた創造神は驚いて一瞬沈み、そして顔をあげた。ぽかんとして彼を見つめて混乱している顔をしながら陸地に上がる。

「う、そ……。ああ、そうか、力が溜まったのか。そうか、そうか……」

だらだらに伸び切った髪が水を含んでぼたぼたと雫が滴る。それを見た彼がすぐに彼の髪服を乾かした。あっと声をあげた彼は次にはんんっと咳払いをする。

「初めまして!俺は創造神ラディオス!全ての頂点に立つ神様です。君は二番目の神様として俺の役に立ってもらいたい!」
「……は?」

彼はそう言ってこいつバカなんだなっと思った。

「いやあ、世界を作ったのは良いんだけど。大地と空と海を作ったら力尽きちゃったんだよね~。思いの他世界は広い!俺びっくりだよ~」

そんな事を軽く言うので改めてバカだこいつっと彼はそう思いながらも創造神と過ごした。
彼は創造神と共に世界を作った。
それだけでもかなりの功績だがしかし、ここで致命的なミスを彼はしたのだ。
名前を明かさなかった。
創造神も聞かなかった。彼は今まで一人だったために名前の重要性が分からなかったのだ。
それにより、彼の名前は知られずに神としての存在が徐々に薄くなっていく。

それに創造神が気づいたのはだいぶ小さくなってからだ。
そう言えばめっちゃ小さくなったけどなんで?っと創造神が聞いて知名度ないからっと彼はバッサリ答えた。
え?っと困惑して、知名度がないってことは消えるのでは?っとそこで創造神は顔を青くする。
そういえば、一緒に世界を作ったのに何で俺の名前だけ聖書に乗ってるんだろうと思ってたんだよ!
そんな事を言う創造神にやっぱりこいつバカだなっと彼はそう思いながら鼻で笑う。

「別に、どうでもいい」
「何言ってんの!俺が良くないよ!ええどうしよう!?」

神様同士の関係性は基本的に薄いが、衝突することは多々ある。我が強いものばかりなのだ。
しかし、この創造神だけは別だ。他の神も同じように話しかけ、何かあればすぐに飛んでいきお互いの言い分を聞いて説教をし、時には殴って制圧、いや解決している。
他の神も創造神だけには頭が上がらずに、いう事を聞く。
話してみれば楽観的で何も考えていないというのが分かるのに彼らは創造神を慕っている。
かくいう、彼もその一人ではあるが彼の中では認めていない。

「あ!分かった分かった!君にあげるよ!」
「は?何?」
「俺の全てあげる!まあたぶん中身違くなったって気づく子もいるかもしれないけど、君が素晴らしい采配をして悪を制圧すれば評価爆上げでしょ!」
「……はあああ?」

何を言ってるんだこいつはっと彼はおかしいものを見るような目で見る。そんな視線に気づいているのかいないのか上機嫌にそうだ!そうしよう!っと言っている。

「君は俺の大事な子だからね!」
「よ、よくそんな恥ずかしいこと言えるね」
「え?どこが?」
「……もういい」

どうせ他の奴にも同じこと言ってんだろうなっと彼はそう思いつつ、創造神の冗談だと思った。
それが数日、意識を失っていたと思ったら創造神の部屋にいて見れば彼になっていたとは思わない。なんだこれはどういうことだ。何が起こっている。

困惑気味に情報を得るとなんと彼の体を使って人の地に降り、魔王となって人々を脅かしているという。

眩暈がする。頭が痛い。何をしているんだあれは!

そして、その魔王の対策に万が一いなくなっても構わない者を勇者として送ることになった。
ただ、そういう選定なので神と等しい力を持つには不安しかないので必ず事が済めば送りかえるようにしていた。
しかし、選定が甘いので力を持っても魔王に敵う者はいなかった。

愚か!人というのは力を持つと堕落するとは聞くがこれ程とは……。

ならば最善の選定をしなければならない。
そこで白羽の矢が立ったのはアシュレイだ。
彼は生まれ持った力が強すぎた。
何も生まれ変わりでも何でもない。努力で全てを手に入れる規格外の化け物であった。逆に管理しなければならない立ち位置のそのものを勇者にしようと彼は言いだした。

他の神は反対した。
自分たちに危害が加わったらどうする!それに第二の魔王とならないとは限らない!そんな話だったが一番の言い分はこうだ。

あの神様を本当に殺したらどうするんだ!

他の神もいる手前正直にそういうやつはいないが彼には分かる。
そうだった、こいつらも一種の信者であった。
神の力は今や信仰心がつきものだ。自分を含む同じ神様に慕われていればそれは強いに決まっている。
既に彼が彼であることは分かっている。あの神でなければこんな規格外なことはできない。
だから、彼は他にもこう提案をしたのだ。

成長するまでにその勇者には死んでもらう。その他にも足枷となる者を与えよう。
異世界から来たものはそれが極端に希薄だったのだ。所謂ゲーム感覚であり、この世界の住人をただのものとしてみるのでそれ以上の感情はなく、また帰還しなければならないということがキーとなって馴染むことは無かった。その為一般的な脅しがきかない。

その点でいえば、アシュレイはドはまりであった。

力はあるし、その才能故に家族しか理解者がおらず深く家族を愛している。その上彼の運命の相手とも引き合わせてしまえば結果は目に見えているだろう。
良いように扱っているとは思う。しかし、それこそ神であり世界を統べる者としてのプライドがある。
世界の人々の為によりよい世界を作るのが使命だ。

とはいえ、私情が若干いや3割、7割入っているのは認めよう。

つまるところ、勝手に暴走した頂点の影響によって下々が尻拭いをしているというよくある構図でその解決方法は至って簡単に終わるのだ。
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