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38、利害一致

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背後の扉が閉じた。アシュレイはちらりとだけ視線をよこしつつ、背負っている剣を引き抜き、鞘を投げた。
それを見た魔神はひゅうっと口笛を吹く。

「やる気だねぇ~。いいよいいよ。もう俺に後はないからね」

よっこいしょっとそこから立ち上がった魔神は手のひらを下に向ける。すると、そこから真っ白い剣が現れた。どちらかというと、清らかなイメージのそれを手にして魔神はあっと声をあげる。

「間違えた。フォルムチェーンジ!」

緊張感のないそんな声と共にその剣を禍々しい紫色の何かが囲み白い剣は紫色になっていく。

「よーし!これでそれっぽいでしょ?お先にどうぞ?」

その剣振るってその切っ先をアシュレイ達に向ける。アシュレイははあっとため息をついてレイチェルの前に出る。

「レイチェル。補助系の魔法かけられる?」
「う、うん」
「あと、援護射撃とかは要らないからバフ消えそうになった時にかけてくれるといいな」
「え?攻撃もするよ!?」
「俺に当たると思うし、それより治癒をかけてくれる?」
「あ、う……」

アシュレイにそう言われてレイチェルは口を閉ざす。アシュレイの言う通り、乱戦になれば当てられないだろう。無駄打ちして魔力を消費するよりも治癒などに回った方が効率がいいだろう。しかし、今のアシュレイは子供だ。まだ未発達の体で勝てるのだろうか。そういう心配がある。
レイチェルはそう思ってアシュレイを心配そうに見るが、アシュレイはにこっと笑顔を見せた。

「大丈夫。これでも元勇者だし、あれ二回も殺してるし」
「で、でも、でも……」
「それに、レイチェルの魔法はすごいからちょっとやそっとじゃ傷つかないでしょ?レイチェルの事信じてるから!」
「うん!」

アシュレイにそう言われてレイチェルは力強くうなずいた。アシュレイにそう言われてしまえばレイチェルは張り切って魔法をかけずにはいられない。
防御特化、飛躍、脚力上昇などなどバフをかけていく。アシュレイはこんなのあったんだと、元は自分の力なのにそんな事を思いながら次々にかけられていくそれに自分が一時的に能力向上していくのを感じる。そして、それが終わるとアシュレイはぎゅっとレイチェルを抱きしめた。

「ありがとうレイチェル」

それから頬にキスするとレイチェルの顔が赤くなり頬を手で押さえる。
アシュレイはすっと魔神を見て、剣を構える。

「準備は整った?」
「ああ、それじゃあ」

アシュレイは地を蹴った。一気に魔神に近寄り青白く光る剣を振るう。青い斬撃が横一文字に現れ彼を襲うが、彼はひらりとそれを躱した。それによりアシュレイの目の前の壁に深い傷がつく。躱した魔神は空中で体を捻り、切っ先をアシュレイに向けて素早く貫く。しかし、レイチェルの魔術で一撃は防げた。防がれたと確認した魔神はすぐに体を宙返りさせ長い脚をアシュレイの腹につま先が食い込みごきっと骨を折る音を立ててアシュレイの小さい体は簡単に吹っ飛んだ。どうにか踏ん張り、壁にぶつかることは無かったがアシュレイのあばら骨の何本かはやられたのだろう。ごふっとアシュレイは景気よく血を吐いた。

治癒ヒール!」

レイチェルは素早く、アシュレイの傷を治す。傷が治ったアシュレイはすぐに魔神に反撃をする。大振りになる攻撃は避け、突き攻撃に切り替える。素早く剣を振るい、避けていた魔神だが一瞬ふらっと体がふらついて右肩を貫き、そのまま下におろす。

「っ!」

魔神の顔が一瞬歪み、距離を取ろうとするがアシュレイの方が早く魔神の右肩を切り離す。吹っ飛んだそれには剣も一緒についており、アシュレイは次に足を飛ばす。簡単だなっと思った矢先に、「うっ!」っとレイチェルのうめき声が聞こえアシュレイはそちらを注視した。
吹っ飛んだ腕が勝手に動きレイチェルの首にまとわりついてその剣を彼の細い首に突き立てる。

「レイチェル!!」
「動くな」

其方に駆け寄ろうとするアシュレイに冷たく魔神はそう言った。それからアシュレイが刎ねた足を這って手にし、何でもないようにくっ付ける。

「君、誰かに何か言われた?」

にっこりと笑顔で魔神はそういう。アシュレイは、ちらっとレイチェルを見てから正直に話した。

「……俺に勇者の加護を与えた何かにあんたを殺すなって言われてんの」
「ふぅん?成程成程」

魔神はアシュレイの言葉にうなずいた。彼が今嘘をつくメリットもないのは重々承知であるので疑いの余地はない。
どのみち、魔神にとっては予想できたことであったので、こう吐き捨てる。

「俺を殺さないとレイチェル殺し続けるよ?」
「っ!」
「君はそういう人間だから、勇者の加護があってもそのままでいられたけど普通の子は耐えられ無いんじゃないかなぁ?」

魔神がそう言ってレイチェルの首を掻き切った。アシュレイはひゅっと喉を鳴らして叫ぶ。

「レイチェル!」

レイチェルは首から血を流し、倒れこんだ。糸がこと切れた人形のように床に伏せるその様は一瞬にして殺された事を彷彿させる。否、死んでいた。
しかし、次には首の傷が塞がりピクリと指が動く。
アシュレイはその様子のレイチェルを見てぎゅっと心臓部を握り締めた。先ほどの戦闘では乱れることのなかった呼吸が浅くなり、どくどくと心臓が早鐘を打つ。嫌な汗も流れ、自然に体が震えた。

「さて、もうい……っ?」

そう言った魔神の離れた腕が倒れているレイチェルに剣先を向けたが、不自然に止まった。そのおかげでアシュレイは地を蹴って床に転がりつつ片腕から離れる。

「レイチェル!レイチェルしっかりして!」

息を吹き返しているので心臓は動いている。呼吸も正常で、体温もあった。だから生きている。生きてはいる。

「レイチェル、レイチェル……っ」

泣きそうになりながらアシュレイが名前を呼び続ける。
このまま起きなかったらどうしようと悪い考えがよぎる中、ゆっくりとレイチェルの瞼が開いた。
一瞬歓喜の表情を浮かべたアシュレイだが、次に得体のしれない何かを感じた。

「……誰お前」

本能的にアシュレイはこれは違うものだと判断した。そういう勘には鋭いので疑うことなくそう、レイチェルにいる何かに聞くと、それは無表情のまま立ち上がった。アシュレイには一瞥もくれず魔神の方に足を進めると、それと同じくらい彼が下がった。それを暫く繰り返した後、ぴたりと何かが足を止め、腕を組んだ。

「言いたいことがあるなら聞いてやる」
「何のこと?君は君の仕事をしないといけないんじゃないかなぁ?俺と話していいの?」
「……あー、そう」

何かはそう言って、次にアシュレイを見る。

「元勇者よ。望み通りレイチェルの呪いを解こう」
「え……?」

何かは次の瞬間何処からか取り出した短剣を出し、胸に突き刺そうとした。それが分かってアシュレイが弾いた。次には魔神が近づいて何かを足払いして床に静かに転ばせる。片腕だが、紳士的にゆっくりとおろして馬乗りになった。

「何考えているの君!それで死んだら君は死ぬんだよ!?」

魔神がそう叫んだ。すると何かは魔神を睨みつけながらこう吐き捨てる。

「死ぬつもりだけど?」
「は!?」
「誰も死にたくないなんて言ってない!余計なお世話だっての!」
「知ってる!でも俺がいやなの!俺にとって君は大事なの!」
「うるせえ!」
「やめろ!レイチェルの体を傷つけるなくそ野郎が!」

何かはレイチェルの体で魔神に頭突きをする。アシュレイは、悲鳴を上げるようにそう叫ぶ。
何を言っているのか分からないが、巻き込まれていることを感じ取った。

「ほら!彼もそう言ってるんだから大人しく帰りなさい?」

魔神がそう諭すように言った。すると何かはぐっと言葉を詰まらせて魔神の頬をはたく。呆然とした魔神は何かを見てぎょっとした。

「どうして、どうしてわかってくれないの……?」

ぼろぼろと泣きながら何かはそう言った。

「それは……」
「俺は、貴方が好きなのにどうしてわかってくれないの?」
「あ、え、そ、そっち!?」

魔神は何かにそう言われてかあああっと顔を赤くする。アシュレイの心象としては顔を赤くする自分気持ち悪いであるが。

「貴方は違うの?」
「ちっ……がわなくないけど!」
「ふうん?そうなんだ?じゃあなんでこんなことすんの?」

何かは首を傾げてそう言った。ひっと短く悲鳴を上げた魔神がそっと離れようとしたが、がっと手首を掴んだ。

「お前俺のこと好きなのに何でこんな不毛なことすんの?」
「ふ、不毛!?」
「じゃあなんて言えばいいの?無意味?無能策?」

ずばずばと冷たく吐き捨てる何かにうっと魔神が胸を抑えた。その様子の魔神にはああああっと深いため息をつく何かは舌打ちをする。

「あのさ、俺だって何も考えずにいたわけじゃないし。これよりかなり平和的解決方法があるの知ってる?」
「……え?」
「お前長生きしてるだけで本当にポンコツだよな。頂点に立つ神として恥ずかしくな……」
「どんな方法!?」

息を吸うように暴言を吐いていく何かに食いつくように魔神がそう聞いた。その食いつきっぷりに何かは端で笑いつつアシュレイを見た。アシュレイは完全に早く終わんねえかなっとイラつきを見せつつ無表情で、何かと目が合うと何見てんだよとでもいうように睨みつける。

「は?何?早くレイチェルの呪い解けよ。さっきのやり方以外にもあんだろ」
「元勇者よ。貴方にやってほしいことがあります」
「はあ?それよりやることあんだろ。約束守れよ?」
「勿論です。聞き入れてくださるのなら今すぐやりましょう」

何かの言い分が分かったアシュレイは舌打ちをした。あの時、呪いを解くとは言ったがタイミングまでは言っていない。意地の悪い奴だっとアシュレイはそう思いながらくいっと顎を動かす。

「で?今度は何?」
「こういう話を広めてほしいんです」

そうして、何かはこう言った。
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