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白蛇
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―――て。
誰かの声が聞こえる。
―――きて。
聞いたことがある声だ。
―――起きて。
はっと我に返ると何かの影が目の前を通った。俺の身体をゆうに超える太さの大きな蛇。赤い瞳と目が合うとその生き物はゆっくりと俺の身体をその頭で上に押しあげる。
水の中に俺はいる様だが呼吸は出来る。下の方は大きな蛇でよく見えない。
ちらりと俺は蛇の大きな頭を見る。この蛇はどうやら俺を食べるわけではなさそうだ。ならば大人しくしていた方がいいだろう。今の俺だったら一飲みで終わる。
……あれ?
ふと、下の方から煙のような何かが漂っている。そう思って注視すると赤黒い何かがずっと下の方から流れていた。
何処から流れているのか確認する前にぴたりとその蛇の動きが止まる。そしてぐいぐいと頭を動かして上に行けっと促された。
どうやらこの蛇はそれ以上上に行くことができないようだ。
俺は蛇の言う通りに上に泳ぎ始めて、しかしあの赤黒い何かが気になって振り返る。大きな蛇と少し離れたからか下の方がよく見えた。
刀がそこにあった。
ただの刀ではない。俺が使っていたあの大太刀でそれは蛇の尻尾を底に縫い付けるように刺さっていた。そこで漸く流れている赤黒い液体は血であると理解した。
抜いたらこれ以上の血が出てしまうだろう。しかし、あの大太刀が欲しい!
前でとてもよく使っていた、いわば俺の半身と言っても過言ではないもの。
この機会を逃せば一生手に入らない気がする。
確信に似た何かであったが俺はこの勘で今まで生き延びられた。
他の刀を使って久遠を守ろうなどと自分の能力に胡坐をかいて傲慢に生きるつもりはない。俺の力を最大限に発揮するためにはあの刀は必要不可欠だ。
ならばやることはただ一つ。
じっと刀を見て動きを止めた俺に緩く頭を傾げた蛇が早く行けっと頭を動かす。俺は素早く体を反転させてその蛇の横をすり抜ける。
突然の俺の行動に蛇は驚いたようだった。
体をくねらせて俺の進行を妨害しようとするが、そこまで素早い動きではない事と大きい体であることから簡単に避けることが出来た。
焦っているように見えるが攻撃をしてこないのが不思議だ。その大きな口を開けて丸呑みするなり、毒を吐くなりやりようはあるはずなのに。
ただ言えるのは、俺にとって好都合であるということだ。
差し当ってそれ以外の障害はなく、刀まですぐに辿り着いた。
ここからが正念場だ。
蛇の頭が近づいてくるのを横目で確認しながら柄を手にして一気に引き抜……く……っ!?
「――――っ!!!」
こんな大きな蛇を貫くほど深く刺さっているその大太刀を抜くのはたやすくないだろうと思ったらすぽんっと綺麗に引き抜けた。きっとここが水中でなければ思いっきり尻もちをついていただろう。その上ぶわりっと蛇の血液が一気にその傷口から噴き出して驚いて口を開けてしまい水諸共飲み込んでしまった。
かっと喉が熱くなって思わずそこを手で抑えると突然激しい水流が起きた。
抗うことが出来ずにその流れの中に浚われる。ぐるぐると体が回転して身動きが取れない。ぎゅっと俺は折角手にした大太刀を絶対に離さないように抱え、気づいたら体が何処かに投げ出されていた。
「ととうしょついたあああああああああああああああああああああっ!!!!」
「ご、ごめんよー。でもいたんだよしーちゃん」
「ああああああああああああああっ!!!!!!」
「げっほ……っ!」
「!!!!!」
久遠と久臣さんの声がする。俺はあの空間から出られたようだ。それを実感しながら、げほごほっと苦し気に咳き込みながら顔をあげようとしてふわりと体が浮いた。
「つめたっ!?誰!しーちゃんにこんなことした命知らずはっ!!」
「しちゃぁ!しちゃ!だーじょぶ?」
俺を抱えたのは久臣さんのようで、先ほど作って貰った椅子に座らせてもらいすぐに火がついた。その間もげほごほっと俺は咳き込んでしまう。呼吸が出来ていたと感じていたが実際は結構な水を飲み込んでいたようだ。あまり長くいたら死んでいたかもしれない。ぶるりと体を震わせ自分の冷え切った体をどうにか温めようと火に近づく。がたがたと震えてしまうのは仕方ない。
「しちゃちめたい!とと、はあく!!」
「これだめだな。一旦家に帰ろう。くーちゃんおいで、とぶよ」
「え?」
久遠と俺を抱えた久臣さんを見たら景色が変わっていた。法術を使える者の中で空間移動が出来るという術者が昔いたという話を聞いたことがある。まさか、その実力者が久臣さんだとは……。
ぽかんとしているとすぐさま久臣さんは俺を柔らかい布で包んで風呂場に向かう。
ーーーー
遅れてすみません。修正しました!
誤字脱字報告ありがとうございます!
誰かの声が聞こえる。
―――きて。
聞いたことがある声だ。
―――起きて。
はっと我に返ると何かの影が目の前を通った。俺の身体をゆうに超える太さの大きな蛇。赤い瞳と目が合うとその生き物はゆっくりと俺の身体をその頭で上に押しあげる。
水の中に俺はいる様だが呼吸は出来る。下の方は大きな蛇でよく見えない。
ちらりと俺は蛇の大きな頭を見る。この蛇はどうやら俺を食べるわけではなさそうだ。ならば大人しくしていた方がいいだろう。今の俺だったら一飲みで終わる。
……あれ?
ふと、下の方から煙のような何かが漂っている。そう思って注視すると赤黒い何かがずっと下の方から流れていた。
何処から流れているのか確認する前にぴたりとその蛇の動きが止まる。そしてぐいぐいと頭を動かして上に行けっと促された。
どうやらこの蛇はそれ以上上に行くことができないようだ。
俺は蛇の言う通りに上に泳ぎ始めて、しかしあの赤黒い何かが気になって振り返る。大きな蛇と少し離れたからか下の方がよく見えた。
刀がそこにあった。
ただの刀ではない。俺が使っていたあの大太刀でそれは蛇の尻尾を底に縫い付けるように刺さっていた。そこで漸く流れている赤黒い液体は血であると理解した。
抜いたらこれ以上の血が出てしまうだろう。しかし、あの大太刀が欲しい!
前でとてもよく使っていた、いわば俺の半身と言っても過言ではないもの。
この機会を逃せば一生手に入らない気がする。
確信に似た何かであったが俺はこの勘で今まで生き延びられた。
他の刀を使って久遠を守ろうなどと自分の能力に胡坐をかいて傲慢に生きるつもりはない。俺の力を最大限に発揮するためにはあの刀は必要不可欠だ。
ならばやることはただ一つ。
じっと刀を見て動きを止めた俺に緩く頭を傾げた蛇が早く行けっと頭を動かす。俺は素早く体を反転させてその蛇の横をすり抜ける。
突然の俺の行動に蛇は驚いたようだった。
体をくねらせて俺の進行を妨害しようとするが、そこまで素早い動きではない事と大きい体であることから簡単に避けることが出来た。
焦っているように見えるが攻撃をしてこないのが不思議だ。その大きな口を開けて丸呑みするなり、毒を吐くなりやりようはあるはずなのに。
ただ言えるのは、俺にとって好都合であるということだ。
差し当ってそれ以外の障害はなく、刀まですぐに辿り着いた。
ここからが正念場だ。
蛇の頭が近づいてくるのを横目で確認しながら柄を手にして一気に引き抜……く……っ!?
「――――っ!!!」
こんな大きな蛇を貫くほど深く刺さっているその大太刀を抜くのはたやすくないだろうと思ったらすぽんっと綺麗に引き抜けた。きっとここが水中でなければ思いっきり尻もちをついていただろう。その上ぶわりっと蛇の血液が一気にその傷口から噴き出して驚いて口を開けてしまい水諸共飲み込んでしまった。
かっと喉が熱くなって思わずそこを手で抑えると突然激しい水流が起きた。
抗うことが出来ずにその流れの中に浚われる。ぐるぐると体が回転して身動きが取れない。ぎゅっと俺は折角手にした大太刀を絶対に離さないように抱え、気づいたら体が何処かに投げ出されていた。
「ととうしょついたあああああああああああああああああああああっ!!!!」
「ご、ごめんよー。でもいたんだよしーちゃん」
「ああああああああああああああっ!!!!!!」
「げっほ……っ!」
「!!!!!」
久遠と久臣さんの声がする。俺はあの空間から出られたようだ。それを実感しながら、げほごほっと苦し気に咳き込みながら顔をあげようとしてふわりと体が浮いた。
「つめたっ!?誰!しーちゃんにこんなことした命知らずはっ!!」
「しちゃぁ!しちゃ!だーじょぶ?」
俺を抱えたのは久臣さんのようで、先ほど作って貰った椅子に座らせてもらいすぐに火がついた。その間もげほごほっと俺は咳き込んでしまう。呼吸が出来ていたと感じていたが実際は結構な水を飲み込んでいたようだ。あまり長くいたら死んでいたかもしれない。ぶるりと体を震わせ自分の冷え切った体をどうにか温めようと火に近づく。がたがたと震えてしまうのは仕方ない。
「しちゃちめたい!とと、はあく!!」
「これだめだな。一旦家に帰ろう。くーちゃんおいで、とぶよ」
「え?」
久遠と俺を抱えた久臣さんを見たら景色が変わっていた。法術を使える者の中で空間移動が出来るという術者が昔いたという話を聞いたことがある。まさか、その実力者が久臣さんだとは……。
ぽかんとしているとすぐさま久臣さんは俺を柔らかい布で包んで風呂場に向かう。
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遅れてすみません。修正しました!
誤字脱字報告ありがとうございます!
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