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あ、誰か置いてったみたいだし、どうしよう。寒いよね。
ちらっとそちらを見る。すると、視線に気づいたのか彼はひょっこり姿を現した。
「いやいやごめんね?命令でさ~」
「あ、いえ。寒いですよね?火に当たりませんか?」
「え、良いのー?なら遠慮なく……」
そう言って彼は俺の前に座って火に当たる。あったけーっと声を漏らして、手をこすり合わせていた。こんな寒空の下に晒してしまって申し訳ない。けれど俺も引けない。
「さっき、久臣さんが言葉を濁していたんですけど、他に何か危ない事でもあるんですか?」
情報を集めるために彼に声をかける。不安そうな声を出して伺うと彼はじっと俺を見つめた。
「怖いなら家帰れば?」
そうして彼は俺にそう言った。
怖くはないが、家帰った方がいいのは分かる。とはいえ、今家に帰っても入れて貰えない確率の方が高いので却下だ。
「あのお方が優しくて、若様の目に留まったとはいえ少し図々しすぎじゃないかなあ?物乞い君」
「はい」
「……そうだ。もっと可哀想に見れるように痣でも作る?」
そう言って彼は腰に差している刀を手にした。ぐるぐると鞘が抜けないように紐で固定して軽く素振りをした。それから俺の方を見てにっこりと笑顔を見せる。そして思いっきり俺に向かって振り下げた。
俺はその太刀筋をぼんやりと見ながらぴたりと眼前で止まる。
あれ?叩かないのか?
俺はそう思って心底不思議そうに彼を見る。
「どうしたんですか?」
「いや、なんで避けないの?目もつぶらないし防御姿勢も取らないし」
「する必要ありますか?叩きたいならばお好きなように。気の済むまでどうぞ」
目をつぶった方がよかったのか。何か腕を手にした方がよかったのか。ならばその通りに行動をする。
無理に抵抗するともっと酷いことになるのを知っているので一時だけ痛みを我慢した方がましだった。だから彼が気の済むまで殴ればいいと思っているとすっと彼が離れた。
「殴るのはやめた」
「そうですか」
「質問に答えてあげる。北門の方で盗賊による被害が出てるんだよ」
「北……」
あちらは確か商家が多い。だから其方に盗賊が集中するのは分かるが、今になって活発に行動するのはどうしてだろうか?
「界隈では有名な賊だよ。体のどこかに傷があるっていう噂。こっちまで来るとは思わなかったんだけどね」
ここまで来たということは勢力を拡大しているのか、それとも逃げてきたのか。どちらにしても面倒だ。
だから、追い出そう。ここは危ないと認識させれば拠点を変えるだろう。
後はどうやって追い出すか、だ。一先ず、様子見と情報を得るためにあちらに行った方がよさそうだ。
「盗賊なんかに捕まったらお前みたいな子供は一生慰み者になって奴隷になる運命だよ?だから安全なお家に帰ったら?」
「……ああ」
この人心配してるのか俺の事。善意でやってくれてることだし、あまり俺の事情を言っても意味ないだろう。一般的に子供を殴ったり追い出したりするような親は少ないのだから。
でも、この人はその可能性を考えていないようなので逆手に取ろう。
「そうですね」
「! そうそう!子供はこんな危ない場所にいちゃだめだからね!送るよ?」
「いいえ。俺の親が心配するので……」
家族に対して何か思うところがある人だったらきっと、それを引き合いにすればそれ以上突っ込んでいかないだろう。その予想は当たって彼はあーっと納得したような言葉を口にする。
「確かに。俺怪しいもんね。じゃあ都の中までだったらいい?」
「はい」
「うんうん。あ、お菓子あげる~。これ日持ちするから」
「ありがとうございます」
彼は言葉通り、俺を都の中まで送り俺の姿が門から見えなくなるまで見送った。
門が見えなくなり、俺を見ている視線も消えたところで北門の方に急ぐ。
盗賊。盗賊の名前は何だろう。前はそんな話なんて出てこなかった。いかに俺が平和ぼけしていたということがよく分かる。
北門についた。見張りのものは一応いるが塀を飛び越えれば目立たずに済む。かなり高いが、これぐらいだったら走れるので簡単に超えられるのだ。こっそり北門を出る。妖魔は出ているがあまり強いのはいなさそうだ。小石で彼らを殺し、そろそろと警戒しながら都から離れる。ずいぶんと離れてしまったが、賊の気配は……。
ひひーんっと馬の嘶きが聞こえ蹄の音がする。ばっとそちらに注視すると遠くの方で勢いよく荷車がこちらに向かっていた。また、それを囲むようにして馬がついている。身なりから賊のようだ。運のない。既に久臣さんたちが帰った後で警備のものはもう少し先だ。
……刀を持っているし、武器の調達にもぴったりだ。
自分の幸運に感謝しながら小石を投げた。可哀そうだが馬の方に。
一人落馬、二人落馬。残念なことに後続の馬に踏まれて悲鳴を上げている。いや、あれ死んだな。刀を後で回収しようと思いながらもう一度小石を投げようとして弓矢が飛んできたので反射的につかむ。
正確だな。投げた方向から予測して打って来てるのか。誰が弓矢を打っているのか確認する前に荷車が近づいており、通り過ぎた。
俺も逃げるかと妖魔の中にわざと入る。俺に襲い掛かってくるがそれを抜けて兎に角賊から離れる。流石に妖魔の中に突っ込んでくるような者はいないようだ。
妖魔はわらわらやってくるがそれを小石でぶち抜いて様子をうかがう。
武器の回収に行きたいが、彼らはどんな行動をとるのだろうか。諦めた方がいいだろうか……。でも武器がないのは不利だ。隙を見て回収を……。
凄い勢いで矢が飛んできた。またしてもそれを反射的に掴んで何かが矢先についていうのに気づく。
「しま……っ!」
札がついておりそれを見た瞬間眠気が襲ってくる。がくんと自分の体がうまく動けずに瞼が落ちた。
ちらっとそちらを見る。すると、視線に気づいたのか彼はひょっこり姿を現した。
「いやいやごめんね?命令でさ~」
「あ、いえ。寒いですよね?火に当たりませんか?」
「え、良いのー?なら遠慮なく……」
そう言って彼は俺の前に座って火に当たる。あったけーっと声を漏らして、手をこすり合わせていた。こんな寒空の下に晒してしまって申し訳ない。けれど俺も引けない。
「さっき、久臣さんが言葉を濁していたんですけど、他に何か危ない事でもあるんですか?」
情報を集めるために彼に声をかける。不安そうな声を出して伺うと彼はじっと俺を見つめた。
「怖いなら家帰れば?」
そうして彼は俺にそう言った。
怖くはないが、家帰った方がいいのは分かる。とはいえ、今家に帰っても入れて貰えない確率の方が高いので却下だ。
「あのお方が優しくて、若様の目に留まったとはいえ少し図々しすぎじゃないかなあ?物乞い君」
「はい」
「……そうだ。もっと可哀想に見れるように痣でも作る?」
そう言って彼は腰に差している刀を手にした。ぐるぐると鞘が抜けないように紐で固定して軽く素振りをした。それから俺の方を見てにっこりと笑顔を見せる。そして思いっきり俺に向かって振り下げた。
俺はその太刀筋をぼんやりと見ながらぴたりと眼前で止まる。
あれ?叩かないのか?
俺はそう思って心底不思議そうに彼を見る。
「どうしたんですか?」
「いや、なんで避けないの?目もつぶらないし防御姿勢も取らないし」
「する必要ありますか?叩きたいならばお好きなように。気の済むまでどうぞ」
目をつぶった方がよかったのか。何か腕を手にした方がよかったのか。ならばその通りに行動をする。
無理に抵抗するともっと酷いことになるのを知っているので一時だけ痛みを我慢した方がましだった。だから彼が気の済むまで殴ればいいと思っているとすっと彼が離れた。
「殴るのはやめた」
「そうですか」
「質問に答えてあげる。北門の方で盗賊による被害が出てるんだよ」
「北……」
あちらは確か商家が多い。だから其方に盗賊が集中するのは分かるが、今になって活発に行動するのはどうしてだろうか?
「界隈では有名な賊だよ。体のどこかに傷があるっていう噂。こっちまで来るとは思わなかったんだけどね」
ここまで来たということは勢力を拡大しているのか、それとも逃げてきたのか。どちらにしても面倒だ。
だから、追い出そう。ここは危ないと認識させれば拠点を変えるだろう。
後はどうやって追い出すか、だ。一先ず、様子見と情報を得るためにあちらに行った方がよさそうだ。
「盗賊なんかに捕まったらお前みたいな子供は一生慰み者になって奴隷になる運命だよ?だから安全なお家に帰ったら?」
「……ああ」
この人心配してるのか俺の事。善意でやってくれてることだし、あまり俺の事情を言っても意味ないだろう。一般的に子供を殴ったり追い出したりするような親は少ないのだから。
でも、この人はその可能性を考えていないようなので逆手に取ろう。
「そうですね」
「! そうそう!子供はこんな危ない場所にいちゃだめだからね!送るよ?」
「いいえ。俺の親が心配するので……」
家族に対して何か思うところがある人だったらきっと、それを引き合いにすればそれ以上突っ込んでいかないだろう。その予想は当たって彼はあーっと納得したような言葉を口にする。
「確かに。俺怪しいもんね。じゃあ都の中までだったらいい?」
「はい」
「うんうん。あ、お菓子あげる~。これ日持ちするから」
「ありがとうございます」
彼は言葉通り、俺を都の中まで送り俺の姿が門から見えなくなるまで見送った。
門が見えなくなり、俺を見ている視線も消えたところで北門の方に急ぐ。
盗賊。盗賊の名前は何だろう。前はそんな話なんて出てこなかった。いかに俺が平和ぼけしていたということがよく分かる。
北門についた。見張りのものは一応いるが塀を飛び越えれば目立たずに済む。かなり高いが、これぐらいだったら走れるので簡単に超えられるのだ。こっそり北門を出る。妖魔は出ているがあまり強いのはいなさそうだ。小石で彼らを殺し、そろそろと警戒しながら都から離れる。ずいぶんと離れてしまったが、賊の気配は……。
ひひーんっと馬の嘶きが聞こえ蹄の音がする。ばっとそちらに注視すると遠くの方で勢いよく荷車がこちらに向かっていた。また、それを囲むようにして馬がついている。身なりから賊のようだ。運のない。既に久臣さんたちが帰った後で警備のものはもう少し先だ。
……刀を持っているし、武器の調達にもぴったりだ。
自分の幸運に感謝しながら小石を投げた。可哀そうだが馬の方に。
一人落馬、二人落馬。残念なことに後続の馬に踏まれて悲鳴を上げている。いや、あれ死んだな。刀を後で回収しようと思いながらもう一度小石を投げようとして弓矢が飛んできたので反射的につかむ。
正確だな。投げた方向から予測して打って来てるのか。誰が弓矢を打っているのか確認する前に荷車が近づいており、通り過ぎた。
俺も逃げるかと妖魔の中にわざと入る。俺に襲い掛かってくるがそれを抜けて兎に角賊から離れる。流石に妖魔の中に突っ込んでくるような者はいないようだ。
妖魔はわらわらやってくるがそれを小石でぶち抜いて様子をうかがう。
武器の回収に行きたいが、彼らはどんな行動をとるのだろうか。諦めた方がいいだろうか……。でも武器がないのは不利だ。隙を見て回収を……。
凄い勢いで矢が飛んできた。またしてもそれを反射的に掴んで何かが矢先についていうのに気づく。
「しま……っ!」
札がついておりそれを見た瞬間眠気が襲ってくる。がくんと自分の体がうまく動けずに瞼が落ちた。
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