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小噺3

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小さな王様のお話



「くちゃ、はるちゃの子になる!」

「んえ?」



唐突に小さな子供はそう言った。



金色の髪に落っこちそうなほど大きな青色の瞳をキラキラさせながら同じような容姿の父親を見る。その表情は真剣で、そして否定されることはないと思っている自信満々な小さな王様であった。



彼の名前は久遠。生まれた時から全てを肯定されて生きてきた小さな男の子である。



久遠は自分の父親という立ち位置の男が変な声を出すだけで固まっているため、聞こえなかったのかな?ともう一度同じ要求をする。



「くちゃ、はるちゃのこになる!!」

「……」



またしても何も答えない。



「くちゃはるちゃのこに……」

「聞こえなかったわけではないんだ!!」



父がそう言ってきた。

成程聞こえてはいたらしい。ではなぜいいよと言ってくれないのだろうか。久遠は不思議に思って首を傾げた。



「とと、いよ!って」

「言ってないですぅ!!だめだめ、くーちゃんはうちの子です!!なんでよ!!晴臣の子になりたいって突然!?」



父が何か言っている。とりあえず了承の言葉でないことは分かった。久遠はにこっと笑ってその大きな頭をぶんっと縦に振った。



「とと、うんって!」

「了承を強要してくる!!」

「んって!!」

「さ、沙織~~~っ!!」



耐え切れず、父は久遠を抱えて自身の妻に助けを求めた。きっと何か知っているはずだと一縷の望みにかけて。

当然、彼女は知っていた。



「ほら、昨日の夜に晴ちゃんがしーちゃんを保護したっていう報告してたでしょ?その時に聞いてたみたい。それで、晴ちゃんのお家に行きたいって言ってね?ととがいいよっていったらね?って言ったんだけど……」

「なるほどー。それで晴臣の子になりたいって言ってるのね……」



謎が解けたと父は頷いてそれから久遠を膝の上に乗せ向き直った。久遠は、首を傾げて早くうんって言ってくれないかなという期待の眼差しを向けている。



「あのね、くーちゃん。晴臣の子供にならなくてもお家に入れる方法があります」

「? くちゃ、べーにいよ!」

「ととがダメなんです!!」



そうなのか。気にしないけど。

久遠の表情からありありと伝わる言葉に父は半泣きになりながらコホンっと咳払いをする。この久遠は少し父に冷たい。



「晴臣の家にお泊りしよ」

「おととり……」

「うん、晴臣の家でしーちゃんと暮らせるってことだよ」

「! くちゃおとといする!!」

「よしじゃあ準備しよ!持って行きたいの箱に詰めて?とともってくから」

「ん!!」



久遠はパタパタと短い足を動かしてとある部屋に入る。父が特別に作ってくれた秘密の部屋である。

そこではお気に入りのものがたくさん並んでいる。



「しちゃ、こえすきだていてた!こえも、こえも!!」



久遠の可愛い可愛いお友達。

ぎゅっと抱きしめると優しい手で頭を撫でてくれて、にこっと笑顔を見せると少し困ったようにぎこちなく笑顔になる。



色々彼の魅力について語るときりがないが、一番は自分の窮地に颯爽と駆けつけてくれたことである。

自分が怖かったものを簡単に切り伏せて、余裕で圧倒し跡形もなく消した。



「きゃーっ!!」



あの時のことを思い出すとドキドキと胸が高鳴る。それと同時に自分も彼にそう思われたいという気持ちが芽生えた。



彼を喜ばせてあげたくてあれもこれも持って行きたい。そうだ、全部持って行けばきっともっと喜んでくれるはず。



久遠はそう思い、一先ず両手いっぱいに目についたものを拾い集めてぽてぽてと歩き出す。

久遠の寝室では父と母がせっせと荷造りをしていた。



「どうしましょう、重くなっちゃうわ……」

「なら本当に必要なものだけであとは買えばいいんだよ!」

「そんな勿体ないことを……」

「ちゃんと考えてますよ。ほら、久遠のものを買ったらしーちゃんも気兼ねなく物買えるでしょ?」

「ああ、成程そういう事ね」



二人の会話が聞こえ、久遠はその部屋に足を踏み入れた。二人は久遠の存在に気付き両手いっぱいの荷物に、まあ小さい子供だしそれぐらいは普通かと思っていた。その持ってきたものに違和感を持つまでは。



「……? 気のせいかしら。しーちゃんが着てた服のような……?」

「いや俺もこれしーちゃんが使ってたひざ掛けじゃない?どこ行ったんだろうねー?って話したよね……?」

「しちゃが、すきなの!くちゃ、とといたの!!」



久遠の言葉に二人ははっと息を飲む。



ふんすふんすと鼻息荒くとりあえず静紀の好きなものをもう一度あの部屋から持ってくるため手に持っているものを丁寧に床に置いた。小さな手足なのであまり自由が効かないが一生懸命持ってきた品物だ。大事に大事に畳に置いた。



その様子にも感動した2人はぎゅうぎゅうに久遠を抱きしめた。



「偉い!好きな子の事考えて保管してたんだね!!」

「優しいのねくーちゃんは。しーちゃんのことを思って持っていたのね」

「えへへ~」



そして、二人から褒められて久遠の収集癖(静紀限定)は加速した。とはいえ、彼はきちんと洗ってから保管することを覚えた。次も綺麗に使えた方が、彼は嬉しいからと言われたためだ。



久遠は学ぶ男である。



そして、小さな王様は父に誰護衛につける?と言われて全てを肯定してくれる二人の従僕(無類の子供好き)を手に入れ晴臣の家に赴くのであった。



苦しそうに寝ている静紀を見てこの世の終わりというような絶望を抱えた表情で泣き出すのはまた別の話。
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