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「はい、お久しぶりですね、静紀君」



そして雫さんはそう言った。

お久しぶり?いや、まだ会ったことが無いのに何で……?

混乱して、ただ彼を見つめていると悪戯が成功したような表情をしてとんとんっと自分の胸を叩く。



「私は影響を受けないので」

「……すごい」



帝の式神だから特別なんだ!

俺は思わず手を組んで雫さんに尊敬のまなざしを向けてはっとした。雫さんに診てもらったなら大丈夫だと思うけど、自分の目でも久臣さんが良くなったかを見たい。そう思い、湖に入ろうとしてふわっと体が浮いた。そしてそのまま久臣さんのいる場所まで移動すると、雫さんが俺を乾かしてくれる。



「あ、ありが……」

「どうして相手の間合いに入ったんです?」



雫さんが少し冷ややかな声で言った。えっと俺は言葉を零しながらしどろもどろに言い訳をする。



「一番刺激しない方法だと思って……。それに、その……」

「それに?」

「あまり怖くはなかったんです。あ、やっちゃいましたけど」



それは本当だ。彼だって最初は危害を加えようとは思っていなかった。ただ呼んだだけ。ただ掴んだだけ。いやただ掴んで引きずるのは良くないけど。敵意とか嫌な感じはしなくてただ……。



「お兄さんと俺を間違えただけなのかなと」

「……そうですか」

「はい」



人間違いはよくあることだきっと。表現が少し過激ではあったが、彼はただお兄さんを探していただけなのだ。



「八ノ宮・・・は悪い子じゃないんですよ」

「それは・・・好きじゃないです」

「え?」

「いいえなんでも」



にこっと笑顔を見せる雫さんに俺は首を傾げる。何か変なことでも言っただろうか。先ほどの会話を思い出そうとしたが、雫さんに会えたことで混乱しているようで思い出せない。

何か、重要な事を言った気がして思い出そうとうんうん唸っていると、「う」っと久臣さんのうめき声が聞こえた。



「! 久臣さん!! 大丈夫ですか!?」

「う、うう……」



うめき声をあげながら久臣さんがゆっくりと起き上がる。俺は彼の身体を少し支えながら彼の様子を伺う。彼は頭を抑えながら俺と目が合うとはっとして俺の肩を掴む。



「首!!」

「え?」

「足ぃ!」

「あ」



多分さっき掴まれたときに跡がついてしまったようだ。久臣さんは俺を抱えるとすぐにどこかに移動した。



「輝夜!!」

「は?え、なんです……しーちゃん!!!!」



久臣さんは輝夜先生のところに俺を連れてきて首を絞められた跡と足首の掴まれた跡を見てあんたいて何してるんですか!!と久臣さんに怒っていた。



久臣さんが悪いわけではなく、後俺よりも倒れた久臣さんを見て欲しいのだけど……。そう言おうとしたら久臣さんが先に捲し立てるように輝夜さんに俺の事を言うので口をはさめなかった。あとでこっそり輝夜先生に急に久臣さんが倒れたことを伝えたら、逃げんなー!!と言って久臣さんを捕まえていた。



勿論その後はお家で安静にするように言われて月彦君と久遠と一緒のお出かけは無くなった。

彼らと合流すると事情を聞いたらしく、びゅんっと久遠が俺に抱き着いてその後を月彦君が追って俺に近づく。



「大丈夫か!!」

「しちゃだーじょぶ?じょぶ?」

「うん、大丈夫。それよりお出かけいっしょに行けなくてごめんね。二人で楽しんで」



心配してくれる二人に俺はそう言って、見送ろうとしたら二人はそろって首を傾げた。



「しちゃいない、くちゃいかない」

「俺も、お前がいないなら一緒に帰る!また今度、一緒に行こう!」

「え、いいの……?」



そう聞くと二人はにっこり笑顔になってうんっと頷いてくれた。

嬉しい。



「ありがとう」

「ああ、いつでも行けるしな!」

「ん!」

「いつでも……」



その言葉に少し言葉を濁す。今回失敗してしまったが、そろそろ行動に移した方がいい気がする。だって情報とかも全くないし……。



『静紀君』

「!?」



ぱっと急に頭の中から声がした。雫さんの声だ。どこにいるのだろうかと周りを見渡すとするっと俺の袂から白蛇様が顔を出す。

え、まさか……。



『ごめんなさい。機会を逃しておりまして……。あ、しゃべらなくても大丈夫ですよ。心の中で思っていただければ私と会話できます』

『今まで、見守ってくれていたんですね。ありがとうございます』

『静紀君はもっと怒っていいんですよ?』



予想は当たった。この白蛇様は雫さんだった。確かに帝の式神だし、特別な存在だからこれぐらいできたとしても驚くことではないだろうが。今まで気づかなかったことが恥ずかしい。だから、雫さんの言葉がよく分からずに首を傾げた。

怒る?いやむしろ……。



『心強いです』

『良い子ですね!本当良い子!!』

『いえ、そんなことは……』



雫さんが褒めてくれる。するっと俺の頬に雫さんが頬ずりをしてきて、良い子良い子とされているようだ。恥ずかしい。



「しちゃ?」

「え?」



雫さんとの会話に夢中になっていたら久遠に呼ばれた。くいっと服の裾を掴まれて俺を見上げている。不自然に言葉を切ってしまったから不安になったようだ。でも久遠の前では嘘を言うのは好きではない。だから困っているとまた雫さんの声がする。



『静紀君は少し肩の力を抜いたほうがいいですよ』

『え……?』

『私もいますから、全部自分でやらなくていいんです』

「ううん、大丈夫。また今度、一緒に行こうね」



雫さんの声が聞こえたと思えば勝手に口が動いた。はっとして口を抑えると雫さんがちろちろと舌を出して俺を見ている。やられた。雫さんに何かをやられてしまったようだ。

人の姿だったらお茶目に笑っていただろう。



「今度は、拓海たちと一緒に行こう!」

「あ、うん、そうだね」

「……くちゃも」

「勿論、くーちゃんも一緒だよ」



言ってしまったものは仕方ない。月彦君の言葉にそう返していると久遠がじっと雫さんを見つめる。雫さんはきょとんとして首を傾げたが次の瞬間久遠ががっと雫さんを掴んだ。



「きっ!?」

「くーちゃん!?し……ろへび様が苦しそうだよ!」

「わーいこ!!」



そう言ってぎゅううっと思いっきり締め上げた後にぽいっとごみのように捨てる。それからぎゅうっと俺を守るように抱きしめる。



「くちゃ、しちゃまもう!」

「え?あ、ありがとう……?」

「ん!」



何だか分からないがとりあえずお礼を言っておくと久遠は花のような笑顔で頷いた。頷いたが、雫さんが俺に近寄ろうとすると虫を潰すかの如くべちんべちんっと潰そうとする。どういうわけか、雫さんが気に入らないようだ。突然どうしたんだろうか……。
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