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贖罪 2
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結論から言うと、己は刀ではなかったのである。
己は刀に憑いていたそこら辺のちょっと強ーいわけあり妖魔ではなかったのである。
勝者になった自分が二回目を迎えられたのは必然で、でないと今の機会は二度と訪れなかった。
その資格を得られたのはこの男のお陰であった。
男が来る。
こんな寂れた社を綺麗にして神様に語り掛ける愚か者がいる。
話すのは苦手だから練習の為に、こんなところで呼び続ける声が聞こえる。
神様、あの子が今日もやってきました。やっぱりあの子変です。俺みたいな暗くて静かな奴にずっと話しかけるなんて。
神様、今日は弟と笑顔の練習をしました。まだまだうまく笑えていないようでよく弟に笑われます。
神様、今日はなんか変な草見つけたのでお供えしますね。多分体にいい奴です。
神様、神様―――。
この男、本当に話すだけ話してお願いも何も言わないな。
己が抱いた印象は変な人間だ、であった。
この古びた社を見つけるとその時だけきれいに掃除をして自分の欲望を口にするのがほとんどだった。己が見てきた人は、そういう生き物だった。
この場所から動くこともできず、話すこともできず、干渉できないまま時は流れ、とうとう誰も来なくなったここに現れた変な男。
来る頻度はそこまで多くはなかったが、話の練習に彼は己を使っていた。
変わった人間だと思ったが、それ以上に興味は沸かなかった。
神様、新しい家族が出来ました。俺には勿体ない位、可愛くて小さくて大事な子です。今度見せに来ますね。
ある日、男はそう言っていた。
態々皇宮が嫌だからとここの近くに屋敷を建てた変わり者。いくら自分の領域で妖魔が近寄らないとはいえ不用心だ。
きっと自分が話せれば馬鹿だろお前といっていただろう。
家族が出来たのなら、もっと安全な住まいを見つけろと。
こんな世界で、安全な場所なんてあるわけもないのに。
そして、社はあっさりと壊された。
その衝撃か、己は刀だと刀に憑いている妖魔だとすっかりその記憶を無くして過ごしていた。
資格を持っていたのに、それすらも忘れて過ごしていたから近くにいたあの子が殺された。
そうして怒った、資格を持っていたもう一人が『神様』を刺し違えて殺した。
もう、対抗馬の『神様』はおらずもどきばかりの単なる資格者しかいなかったが、他に誰もいなかったので勝者は己になった。
彼の為に、もう一度時を戻したから辿り着けた。
選んでくれた彼に報いるために全てを使って思い出した。
奇跡を生み出した男を。
だから―――。
「か、み、さま……。おれ、の、こども、くお……の、だい、じなこ、をまも……てくだ……」
「……」
最後の最後で、男は希っていた。
大事なものを殺されて、奪われて狂って。
だから、最後に希ったのだろうけど。
どうしようもなく、その言葉に胸がざわついたのを覚えていた。
そうだった、そうだった。だから私は資格を得たのだ。
記憶をなくした事に全く後悔はしていないし、彼のお願いは鼻で笑った。
お前、それ自分で言うのかよ、と。
馬鹿げていて、思い出したら笑ってしまうそんな愚か者。
けれども、ずっと己を神様だと思い続けていた男。
だから少しばかり、お前のお願いの手助けをしてあげようと。
そして、お前が私を神様にしたようにお前を代理人からただの駒にしてやろうと。
己は刀に憑いていたそこら辺のちょっと強ーいわけあり妖魔ではなかったのである。
勝者になった自分が二回目を迎えられたのは必然で、でないと今の機会は二度と訪れなかった。
その資格を得られたのはこの男のお陰であった。
男が来る。
こんな寂れた社を綺麗にして神様に語り掛ける愚か者がいる。
話すのは苦手だから練習の為に、こんなところで呼び続ける声が聞こえる。
神様、あの子が今日もやってきました。やっぱりあの子変です。俺みたいな暗くて静かな奴にずっと話しかけるなんて。
神様、今日は弟と笑顔の練習をしました。まだまだうまく笑えていないようでよく弟に笑われます。
神様、今日はなんか変な草見つけたのでお供えしますね。多分体にいい奴です。
神様、神様―――。
この男、本当に話すだけ話してお願いも何も言わないな。
己が抱いた印象は変な人間だ、であった。
この古びた社を見つけるとその時だけきれいに掃除をして自分の欲望を口にするのがほとんどだった。己が見てきた人は、そういう生き物だった。
この場所から動くこともできず、話すこともできず、干渉できないまま時は流れ、とうとう誰も来なくなったここに現れた変な男。
来る頻度はそこまで多くはなかったが、話の練習に彼は己を使っていた。
変わった人間だと思ったが、それ以上に興味は沸かなかった。
神様、新しい家族が出来ました。俺には勿体ない位、可愛くて小さくて大事な子です。今度見せに来ますね。
ある日、男はそう言っていた。
態々皇宮が嫌だからとここの近くに屋敷を建てた変わり者。いくら自分の領域で妖魔が近寄らないとはいえ不用心だ。
きっと自分が話せれば馬鹿だろお前といっていただろう。
家族が出来たのなら、もっと安全な住まいを見つけろと。
こんな世界で、安全な場所なんてあるわけもないのに。
そして、社はあっさりと壊された。
その衝撃か、己は刀だと刀に憑いている妖魔だとすっかりその記憶を無くして過ごしていた。
資格を持っていたのに、それすらも忘れて過ごしていたから近くにいたあの子が殺された。
そうして怒った、資格を持っていたもう一人が『神様』を刺し違えて殺した。
もう、対抗馬の『神様』はおらずもどきばかりの単なる資格者しかいなかったが、他に誰もいなかったので勝者は己になった。
彼の為に、もう一度時を戻したから辿り着けた。
選んでくれた彼に報いるために全てを使って思い出した。
奇跡を生み出した男を。
だから―――。
「か、み、さま……。おれ、の、こども、くお……の、だい、じなこ、をまも……てくだ……」
「……」
最後の最後で、男は希っていた。
大事なものを殺されて、奪われて狂って。
だから、最後に希ったのだろうけど。
どうしようもなく、その言葉に胸がざわついたのを覚えていた。
そうだった、そうだった。だから私は資格を得たのだ。
記憶をなくした事に全く後悔はしていないし、彼のお願いは鼻で笑った。
お前、それ自分で言うのかよ、と。
馬鹿げていて、思い出したら笑ってしまうそんな愚か者。
けれども、ずっと己を神様だと思い続けていた男。
だから少しばかり、お前のお願いの手助けをしてあげようと。
そして、お前が私を神様にしたようにお前を代理人からただの駒にしてやろうと。
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