【完結済】やり直した嫌われ者は、帝様に囲われる

紫鶴

文字の大きさ
179 / 208

皇一族

しおりを挟む
九郎が先に襖を開けて入る。俺も久遠と一緒に入った。そして、そこにいる人たちを見てぱっと俺は顔を明るくさせる。


「久臣さん、沙織さんに晴臣さんも! お久しぶりです」
「しーちゃん! お帰りお帰りぃ~!!」


 皇一族全員集合していた。彼らに挨拶をするとすぐに久臣さんが沙織さんに支えられながら立ち上がり、片手を広げる。久臣さんはあの事件で片腕、片足が麻痺してしまった。俺があげたお菓子のせいである。謝りそうになってぐっと唇を噛む。それから少し笑顔を見せた。


「ただいま、帰りました」
「うんうん! 無事で良か……っ」


 久臣さんに近寄ろうとしたら、すっと俺と彼らの間に久遠が割って入る。


「お父さん」
「! お、お父、さん……っ!?」


 久遠がそう久臣さんに言うと彼は驚きに声がひっくり返る。そんな久臣さんに久遠はにっこりと笑みを浮かべているが、目が笑っていない。


「お腹すいたから早く朝ご飯食べたいな?」
「そっかぁ! じゃあ早く座って座って!」


 久臣さんは気分を害することなく、むしろ嬉しそうにニコニコ笑顔で沙織さんとともに座った。
そ、それで良いのか久臣さん……。


「静紀、ここに座ろ」
「あ、うん」


 そう言って一番端のところに久遠は俺を誘導した。俺はそれに従ってそこに座ると九郎が苦笑を漏らしながら俺の前の席に座った。その隣には晴臣さんがいて目が合うとふわりと笑顔を向けてくれる。


「お久しぶりです、しーちゃん。お元気そうで良かったです」
「はい」
「ふふふ、お帰りなさい。しーちゃんの好きそうな食べ物を用意したからいっぱい食べてね」
「はい、沙織さんもありがとうございます」


 晴臣さん、沙織さんにそう返しながら目の前の御飯を見る。皇宮の御飯だ。おかずの種類が多い。それにきちんと膳に乗せられていた。美味しそうだ。


「それじゃあしーちゃん帰還を祝って~、いただきまーす!」
「あ、ありがとうございます……。いただきます」


久臣さんの言葉に、少し照れてお礼を言いつつ俺もそう言って手を合わせる。箸を手にしてもぐもぐと口にする。この人たちが皇一族だという事を知らないときに普通に食べていたが、今まで全部宮仕えの人たちが作っていたものだったんだよな。今後、気楽に食べられる事はないだろうと思い味わって食べる。


「あ! 静紀にこれあげる!」
「え、あ、ありがとう久遠」
「うん! あ、これもあげる」
「あ、うん。ありが……」
「これも!!」
「く、久遠」


 久遠が一つ二つと自分の膳からおかずを俺のところに乗せてくれる。はじめお礼を言っていた俺だったが、続々と乗せられるお鉢に思わず久遠の暴挙を止めた。このままではすべてのおかずを俺に渡しそうだ。


「もう良いよ。ありがとう」
「でも静紀にはいっぱい食べて欲しい!」
「もう十分だから」


 そう言って俺は一つだけ貰って後は久遠に返す。不満げな彼だったが、久遠の食べるものが無くなるのは忍びない。ひとまず、食べて貰えば良いかと思い、適当なおかずを箸で取って久遠の口元に持っていった。


「ほら、美味しいから食べて?」
「! あーん!」


 素直に久遠が食べてくれたのでこれで満足してくれるだろうと俺はほっとする。しかし、別の問題が浮上した。


「静紀にも、あーん!」
「あ、俺はいいよ」
「あーん!」
「あ、い、いや……」


 久遠も俺に食べさせようと口元におかずを持ってくる。やるのは良いのだが、やられるのは恥ずかしい。しかも、今はいろんな人がいるし……。子供だったらまだしも、大人でこんなことをするのは勇気が要る。だから、そう言ったのだが久遠は引かない。


「早く! 落ちちゃう!」
「あ、あー……」


 久遠の言葉に食べ物を落とすわけにはいかないと少し髪をかき上げて口を開き口にする。美味しいはずなのに恥ずかしくて味がよく分からない。
 そんな俺に、久遠はにこりと笑みを浮かべる。


「次はこっち!」
「あ、い、いやもう……」
「はーやーくー!」


 食べたら次のおかずがやってくる。もういい、といっても彼は嫌だと首を振って絶対に譲らない。微笑ましげな視線と呆れたような視線が刺さり、とても恥ずかしい。
 だがしかし、楽しそうな顔をして食べさせてくれる久遠を見て結局俺が折れた。
 ちなみに、その後俺も久遠に御飯を食べさせたので相当な時間がかかったとだけ言っておこう……。
しおりを挟む
感想 90

あなたにおすすめの小説

番解除した僕等の末路【完結済・短編】

藍生らぱん
BL
都市伝説だと思っていた「運命の番」に出逢った。 番になって数日後、「番解除」された事を悟った。 「番解除」されたΩは、二度と他のαと番になることができない。 けれど余命宣告を受けていた僕にとっては都合が良かった。

家を追い出されたのでツバメをやろうとしたら強面の乳兄弟に反対されて困っている

香歌奈
BL
ある日、突然、セレンは生まれ育った伯爵家を追い出された。 異母兄の婚約者に乱暴を働こうとした罪らしいが、全く身に覚えがない。なのに伯爵家当主となっている異母兄は家から締め出したばかりか、ヴァーレン伯爵家の籍まで抹消したと言う。 途方に暮れたセレンは、年の離れた乳兄弟ギーズを頼ることにした。ギーズは顔に大きな傷跡が残る強面の騎士。悪人からは恐れられ、女子供からは怯えられているという。でもセレンにとっては子守をしてくれた優しいお兄さん。ギーズの家に置いてもらう日々は昔のようで居心地がいい。とはいえ、いつまでも養ってもらうわけにはいかない。しかしお坊ちゃん育ちで手に職があるわけでもなく……。 「僕は女性ウケがいい。この顔を生かしてツバメをしようかな」「おい、待て。ツバメの意味がわかっているのか!」美貌の天然青年に振り回される強面騎士は、ついに実力行使に出る?!

新しい道を歩み始めた貴方へ

mahiro
BL
今から14年前、関係を秘密にしていた恋人が俺の存在を忘れた。 そのことにショックを受けたが、彼の家族や友人たちが集まりかけている中で、いつまでもその場に居座り続けるわけにはいかず去ることにした。 その後、恋人は訳あってその地を離れることとなり、俺のことを忘れたまま去って行った。 あれから恋人とは一度も会っておらず、月日が経っていた。 あるとき、いつものように仕事場に向かっているといきなり真上に明るい光が降ってきて……? ※沢山のお気に入り登録ありがとうございます。深く感謝申し上げます。

「オレの番は、いちばん近くて、いちばん遠いアルファだった」

星井 悠里
BL
大好きだった幼なじみのアルファは、皆の憧れだった。 ベータのオレは、王都に誘ってくれたその手を取れなかった。 番にはなれない未来が、ただ怖かった。隣に立ち続ける自信がなかった。 あれから二年。幼馴染の婚約の噂を聞いて胸が痛むことはあるけれど、 平凡だけどちゃんと働いて、それなりに楽しく生きていた。 そんなオレの体に、ふとした異変が起きはじめた。 ――何でいまさら。オメガだった、なんて。 オメガだったら、これからますます頑張ろうとしていた仕事も出来なくなる。 2年前のあの時だったら。あの手を取れたかもしれないのに。 どうして、いまさら。 すれ違った運命に、急展開で振り回される、Ωのお話。 ハピエン確定です。(全10話) 2025年 07月12日 ~2025年 07月21日 なろうさんで完結してます。

婚約破棄を傍観していた令息は、部外者なのにキーパーソンでした

Cleyera
BL
貴族学院の交流の場である大広間で、一人の女子生徒を囲む四人の男子生徒たち その中に第一王子が含まれていることが周囲を不安にさせ、王子の婚約者である令嬢は「その娼婦を側に置くことをおやめ下さい!」と訴える……ところを見ていた傍観者の話 :注意: 作者は素人です 傍観者視点の話 人(?)×人 安心安全の全年齢!だよ(´∀`*)

魔法学園の悪役令息ー替え玉を務めさせていただきます

オカメ颯記
BL
田舎の王国出身のランドルフ・コンラートは、小さいころに自分を養子に出した実家に呼び戻される。行方不明になった兄弟の身代わりとなって、魔道学園に通ってほしいというのだ。 魔法なんて全く使えない抗議したものの、丸め込まれたランドルフはデリン大公家の公子ローレンスとして学園に復学することになる。無口でおとなしいという触れ込みの兄弟は、学園では悪役令息としてわがままにふるまっていた。顔も名前も知らない知人たちに囲まれて、因縁をつけられたり、王族を殴り倒したり。同室の相棒には偽物であることをすぐに看破されてしまうし、どうやって学園生活をおくればいいのか。混乱の中で、何の情報もないまま、王子たちの勢力争いに巻き込まれていく。

【完結済み】乙男な僕はモブらしく生きる

木嶋うめ香
BL
本編完結済み(2021.3.8) 和の国の貴族の子息が通う華学園の食堂で、僕こと鈴森千晴(すずもりちはる)は前世の記憶を思い出した。 この世界、前世の僕がやっていたBLゲーム「華乙男のラブ日和」じゃないか? 鈴森千晴なんて登場人物、ゲームには居なかったから僕のポジションはモブなんだろう。 もうすぐ主人公が転校してくる。 僕の片思いの相手山城雅(やましろみやび)も攻略対象者の一人だ。 これから僕は主人公と雅が仲良くなっていくのを見てなきゃいけないのか。 片思いだって分ってるから、諦めなきゃいけないのは分ってるけど、やっぱり辛いよどうしたらいいんだろう。

美少年に転生したらヤンデレ婚約者が出来ました

SEKISUI
BL
 ブラック企業に勤めていたOLが寝てそのまま永眠したら美少年に転生していた  見た目は勝ち組  中身は社畜  斜めな思考の持ち主  なのでもう働くのは嫌なので怠惰に生きようと思う  そんな主人公はやばい公爵令息に目を付けられて翻弄される    

処理中です...