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皇一族
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九郎が先に襖を開けて入る。俺も久遠と一緒に入った。そして、そこにいる人たちを見てぱっと俺は顔を明るくさせる。
「久臣さん、沙織さんに晴臣さんも! お久しぶりです」
「しーちゃん! お帰りお帰りぃ~!!」
皇一族全員集合していた。彼らに挨拶をするとすぐに久臣さんが沙織さんに支えられながら立ち上がり、片手を広げる。久臣さんはあの事件で片腕、片足が麻痺してしまった。俺があげたお菓子のせいである。謝りそうになってぐっと唇を噛む。それから少し笑顔を見せた。
「ただいま、帰りました」
「うんうん! 無事で良か……っ」
久臣さんに近寄ろうとしたら、すっと俺と彼らの間に久遠が割って入る。
「お父さん」
「! お、お父、さん……っ!?」
久遠がそう久臣さんに言うと彼は驚きに声がひっくり返る。そんな久臣さんに久遠はにっこりと笑みを浮かべているが、目が笑っていない。
「お腹すいたから早く朝ご飯食べたいな?」
「そっかぁ! じゃあ早く座って座って!」
久臣さんは気分を害することなく、むしろ嬉しそうにニコニコ笑顔で沙織さんとともに座った。
そ、それで良いのか久臣さん……。
「静紀、ここに座ろ」
「あ、うん」
そう言って一番端のところに久遠は俺を誘導した。俺はそれに従ってそこに座ると九郎が苦笑を漏らしながら俺の前の席に座った。その隣には晴臣さんがいて目が合うとふわりと笑顔を向けてくれる。
「お久しぶりです、しーちゃん。お元気そうで良かったです」
「はい」
「ふふふ、お帰りなさい。しーちゃんの好きそうな食べ物を用意したからいっぱい食べてね」
「はい、沙織さんもありがとうございます」
晴臣さん、沙織さんにそう返しながら目の前の御飯を見る。皇宮の御飯だ。おかずの種類が多い。それにきちんと膳に乗せられていた。美味しそうだ。
「それじゃあしーちゃん帰還を祝って~、いただきまーす!」
「あ、ありがとうございます……。いただきます」
久臣さんの言葉に、少し照れてお礼を言いつつ俺もそう言って手を合わせる。箸を手にしてもぐもぐと口にする。この人たちが皇一族だという事を知らないときに普通に食べていたが、今まで全部宮仕えの人たちが作っていたものだったんだよな。今後、気楽に食べられる事はないだろうと思い味わって食べる。
「あ! 静紀にこれあげる!」
「え、あ、ありがとう久遠」
「うん! あ、これもあげる」
「あ、うん。ありが……」
「これも!!」
「く、久遠」
久遠が一つ二つと自分の膳からおかずを俺のところに乗せてくれる。はじめお礼を言っていた俺だったが、続々と乗せられるお鉢に思わず久遠の暴挙を止めた。このままではすべてのおかずを俺に渡しそうだ。
「もう良いよ。ありがとう」
「でも静紀にはいっぱい食べて欲しい!」
「もう十分だから」
そう言って俺は一つだけ貰って後は久遠に返す。不満げな彼だったが、久遠の食べるものが無くなるのは忍びない。ひとまず、食べて貰えば良いかと思い、適当なおかずを箸で取って久遠の口元に持っていった。
「ほら、美味しいから食べて?」
「! あーん!」
素直に久遠が食べてくれたのでこれで満足してくれるだろうと俺はほっとする。しかし、別の問題が浮上した。
「静紀にも、あーん!」
「あ、俺はいいよ」
「あーん!」
「あ、い、いや……」
久遠も俺に食べさせようと口元におかずを持ってくる。やるのは良いのだが、やられるのは恥ずかしい。しかも、今はいろんな人がいるし……。子供だったらまだしも、大人でこんなことをするのは勇気が要る。だから、そう言ったのだが久遠は引かない。
「早く! 落ちちゃう!」
「あ、あー……」
久遠の言葉に食べ物を落とすわけにはいかないと少し髪をかき上げて口を開き口にする。美味しいはずなのに恥ずかしくて味がよく分からない。
そんな俺に、久遠はにこりと笑みを浮かべる。
「次はこっち!」
「あ、い、いやもう……」
「はーやーくー!」
食べたら次のおかずがやってくる。もういい、といっても彼は嫌だと首を振って絶対に譲らない。微笑ましげな視線と呆れたような視線が刺さり、とても恥ずかしい。
だがしかし、楽しそうな顔をして食べさせてくれる久遠を見て結局俺が折れた。
ちなみに、その後俺も久遠に御飯を食べさせたので相当な時間がかかったとだけ言っておこう……。
「久臣さん、沙織さんに晴臣さんも! お久しぶりです」
「しーちゃん! お帰りお帰りぃ~!!」
皇一族全員集合していた。彼らに挨拶をするとすぐに久臣さんが沙織さんに支えられながら立ち上がり、片手を広げる。久臣さんはあの事件で片腕、片足が麻痺してしまった。俺があげたお菓子のせいである。謝りそうになってぐっと唇を噛む。それから少し笑顔を見せた。
「ただいま、帰りました」
「うんうん! 無事で良か……っ」
久臣さんに近寄ろうとしたら、すっと俺と彼らの間に久遠が割って入る。
「お父さん」
「! お、お父、さん……っ!?」
久遠がそう久臣さんに言うと彼は驚きに声がひっくり返る。そんな久臣さんに久遠はにっこりと笑みを浮かべているが、目が笑っていない。
「お腹すいたから早く朝ご飯食べたいな?」
「そっかぁ! じゃあ早く座って座って!」
久臣さんは気分を害することなく、むしろ嬉しそうにニコニコ笑顔で沙織さんとともに座った。
そ、それで良いのか久臣さん……。
「静紀、ここに座ろ」
「あ、うん」
そう言って一番端のところに久遠は俺を誘導した。俺はそれに従ってそこに座ると九郎が苦笑を漏らしながら俺の前の席に座った。その隣には晴臣さんがいて目が合うとふわりと笑顔を向けてくれる。
「お久しぶりです、しーちゃん。お元気そうで良かったです」
「はい」
「ふふふ、お帰りなさい。しーちゃんの好きそうな食べ物を用意したからいっぱい食べてね」
「はい、沙織さんもありがとうございます」
晴臣さん、沙織さんにそう返しながら目の前の御飯を見る。皇宮の御飯だ。おかずの種類が多い。それにきちんと膳に乗せられていた。美味しそうだ。
「それじゃあしーちゃん帰還を祝って~、いただきまーす!」
「あ、ありがとうございます……。いただきます」
久臣さんの言葉に、少し照れてお礼を言いつつ俺もそう言って手を合わせる。箸を手にしてもぐもぐと口にする。この人たちが皇一族だという事を知らないときに普通に食べていたが、今まで全部宮仕えの人たちが作っていたものだったんだよな。今後、気楽に食べられる事はないだろうと思い味わって食べる。
「あ! 静紀にこれあげる!」
「え、あ、ありがとう久遠」
「うん! あ、これもあげる」
「あ、うん。ありが……」
「これも!!」
「く、久遠」
久遠が一つ二つと自分の膳からおかずを俺のところに乗せてくれる。はじめお礼を言っていた俺だったが、続々と乗せられるお鉢に思わず久遠の暴挙を止めた。このままではすべてのおかずを俺に渡しそうだ。
「もう良いよ。ありがとう」
「でも静紀にはいっぱい食べて欲しい!」
「もう十分だから」
そう言って俺は一つだけ貰って後は久遠に返す。不満げな彼だったが、久遠の食べるものが無くなるのは忍びない。ひとまず、食べて貰えば良いかと思い、適当なおかずを箸で取って久遠の口元に持っていった。
「ほら、美味しいから食べて?」
「! あーん!」
素直に久遠が食べてくれたのでこれで満足してくれるだろうと俺はほっとする。しかし、別の問題が浮上した。
「静紀にも、あーん!」
「あ、俺はいいよ」
「あーん!」
「あ、い、いや……」
久遠も俺に食べさせようと口元におかずを持ってくる。やるのは良いのだが、やられるのは恥ずかしい。しかも、今はいろんな人がいるし……。子供だったらまだしも、大人でこんなことをするのは勇気が要る。だから、そう言ったのだが久遠は引かない。
「早く! 落ちちゃう!」
「あ、あー……」
久遠の言葉に食べ物を落とすわけにはいかないと少し髪をかき上げて口を開き口にする。美味しいはずなのに恥ずかしくて味がよく分からない。
そんな俺に、久遠はにこりと笑みを浮かべる。
「次はこっち!」
「あ、い、いやもう……」
「はーやーくー!」
食べたら次のおかずがやってくる。もういい、といっても彼は嫌だと首を振って絶対に譲らない。微笑ましげな視線と呆れたような視線が刺さり、とても恥ずかしい。
だがしかし、楽しそうな顔をして食べさせてくれる久遠を見て結局俺が折れた。
ちなみに、その後俺も久遠に御飯を食べさせたので相当な時間がかかったとだけ言っておこう……。
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