【本編完結】チート軍医は愛を吐く~最序盤で殺される悪役になりましたが、「人の好い」幼なじみのために頑張ります!~

紫鶴

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チート軍医は、嫉妬する

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レヴンは目覚めてすぐに土下座をした。その方向は、遠く離れたヴィオレットの部屋があるところだ。





 (なんて夢を見てしまったんだ……っ!!)





 レヴンは先程までとんでもない淫夢を見ていた。身体中をヴィオレットの手によって蹂躙され欲を吐き出し、あられもなく喘いでいる。そんな恐ろしい夢を見ていたのだ。

 いくらBL小説の登場人物、お相手役だったと思い出したとしてもこれは酷い。恐らく、色んな記憶がこちゃまぜになってそんな夢を見てしまったのだ。恐ろしい。前世も合わせてうん十年間童貞の男の妄想とは本当に恐ろしい。

 レヴンはそう思いながら、体を起こす。少し節々が痛むがいつものように寝違えてしまったのだろう。



 

(今度ヴィオレットに湿布貰おうかな……)





 特に腰が痛いと思いながらレヴンは伸びをして、カーテンを開けた。温かい朝日を浴びながらレヴンは、いつものように引き出しから小瓶を一つ取り出す。毎日服用している薬だ。これを起きたら朝に一つ飲むことになっている。

 じっとレヴンはそれを見た後に、一度首を振るとそれからそっと自分のポケットに入れた。





「薬断ちをしよう」





 これはレヴンのためだけではなく、ヴィオレットのためでもある。そもそもの発端がこの薬のせいなのでこれさえどうにかなれば、自然とレヴンの死亡フラグも遠ざかるという算段だ。小説の内容を思い出しても、結局完治しないままレヴンは死んだので治療方法はほぼないに等しい。ただ、前世でも似たような症状を聞いたことがある。大抵そういうものの対処方法は「服用するのをやめる」ことだ。



 だから、レヴンもその方法に則ってひとまず薬を飲むのをやめてみる。とはいえ、いきなり一日薬を抜くのは不安があるので朝の分だけ抜いてみようと考えた。





(まあ、なんか変だなって思ったら飲めば良いし……)





 実際、どれだけ自分がおかしくなっているのかよく分かっていないのでそれを知る良い機会だとレヴンはそう考えることにした。そして落とさないようにとジャケットの内ポケットにしまう。



 

(よし、これで様子見!……は、いいんだけど、時間が余ったな……)





 レヴンは毎朝、この薬を飲むことによって記憶が飛んでしまう、だから、その時間を考慮して訓練に遅れないように早めに起きている。よって、薬を飲まないとなればその時間が丸々空いてしまうということだ。

 二度寝をしようか、どうするか考えながらひとまずぼんやりと外を眺める。そこでは、朝の自主練として走り込みをしているものが多くいた。この騎士団は実力主義で、向上心が高い者ばかりが集まっているのでほとんどの者が朝早くから訓練をしている。騎士団に入れたからそこで終わりではなく、日々精進しているのだ。



 前までのレヴンであればくだらない凡人の努力と鼻で笑っていただろう。しかし、今は違う。頑張って努力をしている彼らを見ると何となく自分も何かした方が良いのかもと思うようになってきた。





「……運動しようかな」





 それに、この症状を治すためこの際だから色々と試してみた方が良さそうだ。運動は体に良いと聞く。きっと無駄なことではないだろう。

 レヴンはそう考えてひとまず朝の走り込みでもしようと準備をした。そしてこそこそと寮を出た後にどこか誰にも見つからない場所はないかと移動する。

 今のレヴンは、薬を飲んでいない凡人だ。今までどうにか薬のお陰で渡り歩いていた実力は今の彼にはない。もし、他の団員に手合わせして欲しいなんて言われたら、いつもの違うレヴンに気づいてしまうかも知れない。



 とはいえ、薬のせいと性格故癇癪をよく起こすレヴンに近づいてくる者など早々いないわけではあるが、兎に角用心しなければレヴンの計画が丸つぶれになる可能性がある。警戒して悪いことはないだろう。



 右よし、左よし。前方に人影なし。

 そうして、レヴンは完璧に人がいないことを確認して寮から出たのだが――。





「あ! レヴン先輩!!」

「きゃ――っ!!!!」





 後方確認を完全に怠った彼は背後から近づいてくる人影に気づかず悲鳴を上げた。こんな時間に鍛錬をはじめる者は誰もいないだろという考えが良くなかった。ばっとレヴンはすぐさま飛び退いて振り返るとそこには陽気に手を上げてこちらに近づいてくる後輩、件の主人公様であるヘルトがいた。





(主人公がどうして昨日今日知り合ったばかりの俺に声かけてんだぁ!!??)





 まさかもうヴィオレットと距離を縮めているのか!?と驚きと警戒でレヴンは困惑した表情を浮かべる。そんなレヴンにどういうわけかヘルトは心配そうにして気遣わしげに見つめた。





「体調は大丈夫ですか? 昨日倒れてたから心配で……」





 至極、まともな会話だった。普通であれば確かに、昨日倒れた人物の心配をするのは当たり前だ。しかしレヴンはあまりにも普通なその問いかけに返答が遅れてしまう。

 そもそも、癇癪持ちのレヴンにこんな風に声をかける者はほぼいないのだ。だからレヴンが肩すかしを食らうのも無理は無い。そんな戸惑いを知ってか知らずか、きょとんと不思議そうにヘルトが首を傾げるのでそこでレヴンは我に返る。





「だ、大丈夫。昨日は驚かせてごめんね?」

「いえ! レヴン先輩の体調が良くなったようで安心しました!!」





(うお! まぶしい!!)





 レヴンは、ぺかーっと太陽を背負っているかのような光を放つヘルトの笑みに思わず目を細めてしまう。ただ同じ部隊にいる先輩だというだけでこんなに心配するなんて流石善人、小説の主人公だとレヴンは感心した。





(これは、あの偏屈が好きになってしまうのも納得の人の良さ!)





 自身の幼なじみを軽く罵りながらレヴンは一人でうんうん頷いていると。不意に「あっ!」とヘルトは声を上げた。どうしたのだろうとレヴンが彼の方を見るとヘルトはニコニコ笑顔で自身の首元を指さす。





「先輩、首のところたくさん蚊に吸われてますよ」

「え!?」





 ヘルトに指摘され、レヴンは慌てて自分の首元を見た。確かに蚊に吸われたような赤い跡が残っている。恐ろしいのは、全くかゆくなくて今まで気づかずにここまで来てしまったと言うことだ。ヘルトのようなピュアな人物だったらよかった者の他の者が見ていたら下世話な勘ぐりをされるところだった。

 相手がいないのにキスマークをたくさん見せびらかすような不埒な男だと思われていたに違いない。相手がいないのに。

 



「俺もよく蚊に刺されるんでよく効く薬持ってます! 今持ってくるのでちょっと待っててくださいね!!」

「え、あ、大丈夫……」





 レヴンはそう言うが、すでにヘルトが走り去った後だった。なんて素早いんだとレヴンはそう思いながらも仕方なく彼を待つことにする。首の跡をこれ以上誰かに見られないように精一杯襟元を押さえていると、ぬうっと黒い影が現れた。

 誰か来たとレヴンは反射的に顔を上げて、そしてぎくりと体を強ばらせる。





「随分と、あの新入りと楽しそうに話していたじゃ無いか」

「会って早々なんだよヴィオレット」





 相変わらずの無表情ではあるが、何となく不機嫌であることをレヴンは感じ取った。伊達に何年も一緒にいる訳では無い。そして、不機嫌な理由を何となくレヴンは察して首元を押さえていた手を、反射的に薬の入った懐にやってしまう。すると、ぎろりっと人一人射殺すような視線をレヴンに向けたかと思うとヴィオレットはレヴンの後ろの壁を力強く蹴った。

 その衝撃と共に不機嫌な理由に確信を得たことによってレヴンはびくりと体を震わせて縮こまった。ぐっとヴィオレットが体を寄せて顔を近づける。レヴンはすーっと視線をずらし顔を背け逃れようと必死だ。



 そんなレヴンにヴィオレットはゆっくりと口を開く。





「薬は?」

「え、と……」

「飲んでないのは分かるぞ。だから聞こう。どうして飲まなかった? あの男のせいか?」

「な、何でそこでヘルト君に!? あの子は関係ないよ!!」

「ヘルト君? あの子? ……ふん」

「だから関係ないってば! これは俺が薬断ちしたいって思って自主的に飲んでないだけ!!」





 ヴィオレットの機嫌が急降下していく。レヴンはそれをひしひしと感じ、慌てて正直に訳を話す。このまま曖昧な言い訳をしていれば偶々居合わせただけのヘルトに飛び火すると考えたからだ。単に心配で声をかけただけなのにとんだ災難だ。だから再度レヴンは、ヘルトは全く飲むか関係だと言い、じっとヴィオレットの反応を待つ。



 ヴィオレットはその緑色の瞳でレヴンの目をのぞき込み、その真意を探ろうとするが本心である事を確信してゆっくりと離れた。





「……お前の考えは分かった。今日の訓練場所はどこだ?」

「え、えーっと、第三訓練場だよ?」

「第三……厩舎から一番遠い場所だな。乗馬訓練も今日は無いし……」





 ブツブツとヴィオレットはそう言いながら最後には深くため息をついた。





「分かった。僕も協力する」

「え、い、いいの……?」

「良いも何も、患者が望んでいるなら医師の僕が協力しないでどうする。大体にして、何かあった時の対処が出来るのは僕だけだろ。勝手に暴れられたら迷惑だ」

「ご、ごもっとも……」



 

 レヴンはヴィオレットの言葉に確かにそうだと頷いた。そしてレヴンはちらりとヴィオレットの顔色をうかがう。レヴンはまさかこんな簡単に許可が下りるとは思わなかったのだ。今までそんなことを一度も言ったことがないので理由を聞かれるかと身構えていたが、ヴィオレットは全く気にならないようだ。非常に助かる。小説云々の話を言えない今、もしばれて問い詰められた時になんと言い訳をしようかと少し考えていたのだ。



その上、協力的である。これほど幸運な事があるだろうか!





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