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チート軍医は、身を挺す
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騎士の通常訓練に軍医が参加するのは特別に珍しいことではない。珍しくはないが、参加しているほとんどは新人の軍医だ。経験を積むと言う名目の元簡単な処置を怪我した騎士達に行っているのである。だから、ヴィオレットの登場に騎士達も軍医達もどよめいた。
(そりゃあそうだ。なんたってヴィオレットはチート軍医様だぞ)
レヴンは心の中でそう思いながらうんうんと一人で頷いてしまう。この天才軍医様であるヴィオレットは騎士団の中でとても有名なのだ。
何が有名かって彼の偉業の数々は今年28歳という若さで到底成し遂げられるものではない。例えば、軍医に任命された年、国防のため国境付近に現れた魔物退治に参加をしていた。これは新人であれば誰もが行う任務、いわゆる通過儀礼のようなものだった。しかし、その年は最悪なことに謎の奇病が流行し軍隊の半分以上がその病に冒されたのだ。偶々ヴィオレットが昔から本の虫であったため似たような症例を見たことがあると発言し、その上その特効薬を生み出したので大事に至らず全員が生きて帰れたのである。
また、ヴィオレットは外科手術にも秀でている。その手腕でどれだけの騎士達を救ったのか数え切れない。そもそも、針と糸で施術が出来る医師は少なく技術も勿論だがその知識と経験は一朝一夕で得られるものではない。相当な時間と努力が必要不可欠。その上、そんな技術を持っているものが軍医なることがとても珍しいのである。ほとんどが宮廷医師として働いている中、どんな褒賞にもなびかず頑なに軍医としているのはヴィオレットぐらいだ。
(それもこれも、俺が依存症状を起こしたせいである……)
ヴィオレットがレヴンの為にここから離れられないという事を知っているので、レヴンはとても胸が痛い。偉そうに腕組みをして、相変わらず不機嫌そうな表情のヴィオレット。レヴンはそんな彼を見ながら軽く苦笑した。
(そして気のせいかな。いつも以上に俺にチラチラ視線が送られている気がするのは……)
なんだかいつも以上に一緒に訓練を行っている彼らの視線が痛い。首元はしっかりと閉じたし、ヴィオレットも同じように見えないようにきっちり閉じている。だからあの噛み跡達は見えていないはずなのだが、この緊張感はなんだ。レヴンはきゅっと懐に入れている薬を服の上から握りしめる。
そんな不安を抱き、レヴンは注意力が散漫になっていた。不意に影が差しはっとして見上げると同時に鋭い衝撃がレヴンの額を走った。
「い……っ!!」
「まーだ、訓練が始まってないからって起き抜け状態なんて困るよレヴン」
「も、申し訳ありません!! 騎士団長!!」
レヴンは額の痛みを我慢しながらびしっと敬礼を行うとうんうんっと目の前の人物は歩く頷きながらレヴンの頭をなで回す。やめて欲しいとレヴンは喉元まででかかった言葉をどうにか飲み込んで表情を引き締めた。
目の前の男の名前は、グレイ・アンヴァース。この騎士団の団長という地位にいる貴族だ。この男は国で数名しかいないオーラの使えるソードマスターの一人である。
(この世界には魔法は無いけど、オーラっていう特殊な才能があってそれを使うと魔物が使えない人よりも遙かに早く、そして多く倒せるんだよね……)
国に一人いるだけで国力は段違いと言われるほど特別な能力で、主人公のヘルトも後に覚醒しソードマスターとなる。その指導役としてグレイが登場していくのだが……。
(今は俺の監視役である……)
度々問題を起こすレヴンの監視とその抑制のためにレヴンの参加する訓練には必ずこのソードマスターが現れる。ある意味レヴンの訓練はそうした意味では人気なのだが、厳選に厳選を重ね、そこら辺は上の人が上手に組み込んでいる。
つまりレヴンとグレイはよく顔を見合わせる仲である。良いか悪いかと言ったら勿論レヴンにとっては悪い。非常に悪い。
「訓練をはじめる前に二人でペアを組んでね。できたら打ち合い始めて」
「はっ!」
(い、いやだ~~~~~~~~っ!!!)
レヴンはグレイの言葉に一人心の中で抗議をする。レヴンはこのペアでいつも余る。当たり前だ。レヴンと訓練を行いたいと思うものなんて誰もいない。そうして余ったレヴンはいつもグレイと一緒になってしまうのだ。前までのレヴンだったら自分の実力にあった人物だと上から目線でそれに応じていただろう。だが今は違う。どう考えても釣り合わない上に、とてもハードな打ち合いが始まるのだ。
(今の俺がそれに対応できるか分からん!! だって薬飲んでないんだもの!!)
そうなれば、実力を疑われるかもしれない。レヴンは別にそれで解雇になっても構わないのだが問題はヴィオレットだ。恐らく、責任感の強い幼なじみはレヴンがやめさせられたら同じように退職し、レヴンの症状を治すためについてくるだろう。そうなれば運命の相手であるヘルトとの接点が無くなってしまうということだ。
(それだけはだめだ! ヴィオレットには幸せになって貰わないと!!)
レヴンはそう言った考えがあるので、いまここで余るのはとても困ると周りを見渡す。誰か、誰かまだ一人の者はいないだろうか。この際話したこともない誰かで構わない。今この瞬間だけやり過ごすことが出来ればそれでいい!
(そりゃあそうだ。なんたってヴィオレットはチート軍医様だぞ)
レヴンは心の中でそう思いながらうんうんと一人で頷いてしまう。この天才軍医様であるヴィオレットは騎士団の中でとても有名なのだ。
何が有名かって彼の偉業の数々は今年28歳という若さで到底成し遂げられるものではない。例えば、軍医に任命された年、国防のため国境付近に現れた魔物退治に参加をしていた。これは新人であれば誰もが行う任務、いわゆる通過儀礼のようなものだった。しかし、その年は最悪なことに謎の奇病が流行し軍隊の半分以上がその病に冒されたのだ。偶々ヴィオレットが昔から本の虫であったため似たような症例を見たことがあると発言し、その上その特効薬を生み出したので大事に至らず全員が生きて帰れたのである。
また、ヴィオレットは外科手術にも秀でている。その手腕でどれだけの騎士達を救ったのか数え切れない。そもそも、針と糸で施術が出来る医師は少なく技術も勿論だがその知識と経験は一朝一夕で得られるものではない。相当な時間と努力が必要不可欠。その上、そんな技術を持っているものが軍医なることがとても珍しいのである。ほとんどが宮廷医師として働いている中、どんな褒賞にもなびかず頑なに軍医としているのはヴィオレットぐらいだ。
(それもこれも、俺が依存症状を起こしたせいである……)
ヴィオレットがレヴンの為にここから離れられないという事を知っているので、レヴンはとても胸が痛い。偉そうに腕組みをして、相変わらず不機嫌そうな表情のヴィオレット。レヴンはそんな彼を見ながら軽く苦笑した。
(そして気のせいかな。いつも以上に俺にチラチラ視線が送られている気がするのは……)
なんだかいつも以上に一緒に訓練を行っている彼らの視線が痛い。首元はしっかりと閉じたし、ヴィオレットも同じように見えないようにきっちり閉じている。だからあの噛み跡達は見えていないはずなのだが、この緊張感はなんだ。レヴンはきゅっと懐に入れている薬を服の上から握りしめる。
そんな不安を抱き、レヴンは注意力が散漫になっていた。不意に影が差しはっとして見上げると同時に鋭い衝撃がレヴンの額を走った。
「い……っ!!」
「まーだ、訓練が始まってないからって起き抜け状態なんて困るよレヴン」
「も、申し訳ありません!! 騎士団長!!」
レヴンは額の痛みを我慢しながらびしっと敬礼を行うとうんうんっと目の前の人物は歩く頷きながらレヴンの頭をなで回す。やめて欲しいとレヴンは喉元まででかかった言葉をどうにか飲み込んで表情を引き締めた。
目の前の男の名前は、グレイ・アンヴァース。この騎士団の団長という地位にいる貴族だ。この男は国で数名しかいないオーラの使えるソードマスターの一人である。
(この世界には魔法は無いけど、オーラっていう特殊な才能があってそれを使うと魔物が使えない人よりも遙かに早く、そして多く倒せるんだよね……)
国に一人いるだけで国力は段違いと言われるほど特別な能力で、主人公のヘルトも後に覚醒しソードマスターとなる。その指導役としてグレイが登場していくのだが……。
(今は俺の監視役である……)
度々問題を起こすレヴンの監視とその抑制のためにレヴンの参加する訓練には必ずこのソードマスターが現れる。ある意味レヴンの訓練はそうした意味では人気なのだが、厳選に厳選を重ね、そこら辺は上の人が上手に組み込んでいる。
つまりレヴンとグレイはよく顔を見合わせる仲である。良いか悪いかと言ったら勿論レヴンにとっては悪い。非常に悪い。
「訓練をはじめる前に二人でペアを組んでね。できたら打ち合い始めて」
「はっ!」
(い、いやだ~~~~~~~~っ!!!)
レヴンはグレイの言葉に一人心の中で抗議をする。レヴンはこのペアでいつも余る。当たり前だ。レヴンと訓練を行いたいと思うものなんて誰もいない。そうして余ったレヴンはいつもグレイと一緒になってしまうのだ。前までのレヴンだったら自分の実力にあった人物だと上から目線でそれに応じていただろう。だが今は違う。どう考えても釣り合わない上に、とてもハードな打ち合いが始まるのだ。
(今の俺がそれに対応できるか分からん!! だって薬飲んでないんだもの!!)
そうなれば、実力を疑われるかもしれない。レヴンは別にそれで解雇になっても構わないのだが問題はヴィオレットだ。恐らく、責任感の強い幼なじみはレヴンがやめさせられたら同じように退職し、レヴンの症状を治すためについてくるだろう。そうなれば運命の相手であるヘルトとの接点が無くなってしまうということだ。
(それだけはだめだ! ヴィオレットには幸せになって貰わないと!!)
レヴンはそう言った考えがあるので、いまここで余るのはとても困ると周りを見渡す。誰か、誰かまだ一人の者はいないだろうか。この際話したこともない誰かで構わない。今この瞬間だけやり過ごすことが出来ればそれでいい!
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