お転婆娘の婚約騒動〜公爵令嬢の婚約奮闘記〜

ノンルン

文字の大きさ
16 / 28

第11話 私の過去と公爵令嬢 2

しおりを挟む
 

 しかも、家の中でもまた別の意味で努力は認められなかった。
 要するに皆、同じような努力をしてきた人なのであるが、それが終わると忘れられるもんなのか、一切誰も、そんな事は口にしない。私のことを分かってほしかったかと言うと、そうでも無かったような気もするのだけれど、そんな事が大事ではない、そう思っていた。

 お父様はお父様で、私にとっては嫌だった。
 いつも怖い顔をして書類を睨んでいる。でも、私はそれが怖くてたまらなかった。

「テスト、どうだったんだ」

 稀に、テストの話が出てくることもあった。その時もお父様は書類とにらめっこをしながら話しかけてきた。なんで、そんなに見る書類があるのかなぁ、意地悪なのかな、そんな事を考えながらお父様を見ていた。
 最近は分かるようになってきた。だって、お父様はこの国で一番多忙で、家のことなんか気にかけてられない人なんだって。

「えっと、満点でした。あっ、学年で一番だったんです!」

「そうか、それは良かった。頑張りなさい」

 はい、以上終わり、だった。
 でもね、だんだん気づくようになってきた。お父様の良かったは、家としての良かっただったって事に。
 それに、頑張りなさい、ってちゃんと努力しているのに何なのよ、って思うと悲しくなってきた。
 お父様は、いつも何をしてもさっさと終わらせてしまう印象で、仕事が一番だと思っていた。あの人に情なんかない、仕事人間なんだ、そう思っていると、そっけない態度も自然と気にならなくなっていた、ように感じた。

 でも、本当は寂しくて、辛かったと気づくのはまだ後のことになった。

 だから私は、政略結婚の事も、お父様は私達のことなんか、全く考えていないのでは、そう信じたかった。だって、今さら心配していたとか言われても、今までさんざんされてきた父の態度から、そんな事は許せなかった。
 なのに、みんな顔を会われるたびに「父が心配している」と言う。そんなのは、皮肉じゃない。なんで、これまでのことを知らないで――知っていても私がそう思うえるように周りを固めるの?って思っていた。

 だって、お父様が求めているのは、私に心を許してもらうことじゃ無い。私の公爵令嬢――ローゼンハイン家の令嬢としての器だ。そこに、情はいらないはずだった。

 だから、政略結婚の事ができた時、ああ、いつまで父は私達の事を道具としてみるのかな、と本気で思った。
 でも、そうじゃなかった。それは、確かな事実だったと、気づかなければ――もう、受け止めなければならなのかなぁ。

 でも、そうしたら私が苦しんできた日々は何処に行ってしまうの?そう問いかけても誰も答えてくれる人はいない。


『お前は裏切り者だ。
 お前は苦しむために生まれた。
 誰がお前なんかの努力を認める。
 お前なんか誰も知らないぞ』

 違う。やめて!裏切り者じゃない。苦しまなきゃいけないはずはないでしょう――。

 その声は私を縛った。


「お嬢様、いえ、カリン様!体、壊されますよ、そんな事をしていると」

「良いのよ、体を壊したって、誰ももう心配なんてしないわ」

「そんな事言わないでくださいませ!わたくしが心配しますし、兄弟も心配されますわ!」

 私が今詰めて勉強をすると必ず、ユリアは注意をしてくる。私はよく、現実逃避したいがゆえに、勉強を今詰めてやっていた。そうしても、報われないことは分かっていたのに――。
 ユリアの言うことは必ず決まっていた。だから、私は微笑んでいった。いや、自嘲して言った。

「ええ、そうね。それは困るわね。――でも、お父様はの事は心配しないでしょう?私が体を壊したって、心配するのは家のことよ」

 私がそう言うと、必ずユリアは苦しそうな表情をする。それが、何を意味しているのか、私は分かって何も言わなかった。

「それは――。いえ、そんな事はありませんわ。それより、あの会話を聞いたからなんでしょう?そんなに今詰めて勉強しているのは」

「それは――」

 そう、そのとおりなのだ。

 その日、私はお父様がお兄様と話しているのを聞いてしまった。


『カリンはどうしている?』

『しりませんよ、自分がお確かめになれば良いのではないですか』

『それより、本当によくできるな。努力もできて、それを発展的に生かしていける。何よりだ』
 
『どうですかね、そうかもしれませんね。そう、でも努力なんて、してもこの世は報われない。まぁ、彼女にもいずれ分かるとこです』

『そうかもしれんな。まぁ、まだ遊んでいてもいい時期なんだ。よし、仕事をするぞ』

 扉に耳を澄ませて聞いていた私は、一目散にかけて自分の部屋に走った。


 努力は報われない。そんなのはおかしい。そう思っても、大人の言ったことは絶対だと思った。だから、私は悲しかった。そして、絶望した。この世の中に。

 でも、それでもわからないように勉強した。そうしたら、いずれ誰かが認めてくれると思っていたから。



『誰がお前なんかを認める』

 違う。違うって言って。囁かないで。染めないで。お願い、違うって言って。

『カリン、囚われないで――』



「ねえ、カリン様。あの会話、カリン様のことを言っていたんじゃないですか?」

「それは――、でも、絶対違うわよ!そんなはずないわ」

「でも、そう思ってもいいじゃないですか」

「そんなの――絶対にそんなはずがない。お父様が、私のことを褒めるわけがない。だって、でも――、それに、期待して何になるわけ?期待するから失望するのではないの?」

「そんなの、そんな世の中は絶対間違っているんです、カリン様――」

 ユリアが言っていることは正しい。でも、そんなのは嫌だった。期待するから失望する、それは私が今まで考えてきたすべてと言っても良かった。

「――そんなの、人生悲しすぎじゃないですか?そんなのは絶対に間違っている。お母さまだって、そんなことをカリン様に望んではいないです。――確かに私もカリン様も一般的な令嬢とは違いますよ、でも、それでいいじゃないですか?少なくともわたくしはそう思いますわ」

 私はしばらくユリアのことを見つめていた。ユリアの瞳には固い決意が見られた。

「ごめんなさい、ユリア。私がカッとなりすぎたわ。それに――今も人生楽しいわよ。公爵令嬢も、お母さまの子供で生まれられたから捨てたもんじゃないわよ」

 そんなことを言った私のことを、ユリアは不審そうに見てきた。

「カリン様、何か隠しているやましいことでも?」

「――いえ、何でもないわ」

 でも、やっぱりお気楽な庶民に生まれれば、公爵令嬢という立場に人生を狂わされることも無かったのよ、そう口の中で呟いた。
 
 誰も私の事なんて心配しない。カトリーナの事なんて関心が無い。みんなが知りたい関心があるのは、ローゼンハイン公爵令嬢だ。そして、みんな公爵令嬢として見てくる。なら、完璧な公爵令嬢としていれば何も言わない。そう思うようになったのはいつからだろうか。

 ――誰もカトリーナに何か心配はしない。私は自分からその殻に閉じこもってしまった――。


『誰がお前なんかを心配する!』


  *   *   *



「カリン様、本当に大丈夫ですか?」

 ユリアが抱きつきながら後ろから言った。

「大丈夫って何も、本当も何も無いわよ」

「そうですか?心あらずって感じだったので。そうですか~、大丈夫ですか~」

 何故かユリアは意味ありげに笑って、私の目の前に来た。

「な、なにがよ」

 私の目を覗きながら言った。

「いえ、本当に大丈夫なんですね。じゃぁ、さっき、何がそうだ!だったんですか?」

「あっ――」

 なんだかんだで忘れていたけれど、私はあの時、良いことを思いついたんだった。――ユリアに言ったらまずいと思うから、何も言わなかったけど。
 そして、ユリアは勿論、私のことをじっと見ながら言った。

「そうですか、言わないんですね。良いですよ、それでも。でも――」

「まって、いや、違うから」

「そうですか、何が違うんですか?いいですよ、言わなくっても。でも、言わなかったらわたくし、協力はしませんからね。――一体いつも、誰が手伝って上げていると思っているんですか?」

「そ、それは」

「いいです、手伝わないから。でも、本当にやめてほしいことにはやめてほしいですよ。いつも誰に迷惑かけていると思っているんですか?誰が誰かさんの尻拭いをしていると思っていらっしゃるのですか!?」

「そ、それは――」


「――まぁ、二人とも仲がいいのね」


 私達が――私がユリアに追い詰められていると、何処からともなくジョセリンの声がした。

「お母さま、これはそういうことでは無いんです!カリン様が――」

「そう、まぁ仲がいいことにしと置いてあげますね。それで、何していたのかしら?」

「それは――、言いません。それで、お母さまこそ何を話していたんですか?」

 ジョセリンは少し悩む素振りを見せると、私達と向かいのソファーに座って、口を開いた。

「アルフレッド様――公爵と、仕事の話をしていたのよ。貴女のこともね、カリン。――わたくしがここに来たのは、それを話すために呼ばれたからなのですよ。ほら、いま王宮は忙しいでしょう?本当は休みなんか無いなはずなのですけれど。そこはまぁ、公爵の――宰相の職権乱用と言ったところかしら」

 お茶目に笑いながら言うにはどうかと思われるような内容。でも、ジョセリンは落ち着いていた。

「いやいや、待って。確かにお父様の口添えがあったのは気づいていたけど。良いの?」

「良いのって、なにがかしらね。知ったところでどうすることもできないのよ。けれど、貴女にはちゃんと話さなければ行けない内容ですから、勿論、ユリアもね。カリン、本当はベレーナさんにもですよ。でも――」

 ジョセリンは言葉を切ると、私達のことを眺めてきた。


「――貴女が一番、知りたいのではないかしらね?」


しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

つまらない妃と呼ばれた日

柴田はつみ
恋愛
公爵令嬢リーシャは政略結婚で王妃に迎えられる。だが国王レオニスの隣には、幼馴染のセレスが“当然”のように立っていた。祝宴の夜、リーシャは国王が「つまらない妃だ」と語る声を聞いてしまい、心を閉ざす。 舞踏会で差し出された手を取らず、王弟アドリアンの助けで踊ったことで、噂は一気に燃え上がる――「王妃は王弟と」「国王の本命は幼馴染」と。 さらに宰相は儀礼と世論を操り、王妃を孤立させる策略を進める。監視の影、届かない贈り物、すり替えられた言葉、そして“白薔薇の香”が事件現場に残る冤罪の罠。 リーシャは微笑を鎧に「今日から、王の隣に立たない」と決めるが、距離を取るほど誤解は確定し、王宮は二人を引き裂いていく。 ――つまらない妃とは、いったい誰が作ったのか。真実が露わになった時、失われた“隣”は戻るのか。

夫と愛し合った翌朝、一方的に離縁されました【完結】

星森 永羽(ほしもりとわ)
恋愛
美しい公爵夫人マルグリートは、冷徹な夫ディートリヒと共に、王国の裏で密かに任務をこなす“悪女”。 だがある日、突然夫から離婚を言い渡される。しかもその裏には、平民の愛人の存在が──。 失意の中、王命で新たな婚約者・エルンストと結ばれることに。 どうやら今回の離婚再婚は、王家の陰謀があるよう。 「悪女に、遠慮はいらない」 そう決意した彼女は、華やかな舞踏会で王に真っ向から言い放つ。 「わたくし、人の家庭を壊しておきながら悪びれない方に、下げる頭は持っていませんの。  王族であられる前に、人におなりくださいませ。……失礼」 愛も、誇りも奪われたなら── 今度はこの手で、すべてを取り戻すだけ。 裏切りに燃える、痛快リベンジ・ロマンス! ⚠️本作は AI の生成した文章を一部に使っています。タイトル変えました。コメディーです。主人公は悪女です。

王子様への置き手紙

あおき華
恋愛
フィオナは王太子ジェラルドの婚約者。王宮で暮らしながら王太子妃教育を受けていた。そんなある日、ジェラルドと侯爵家令嬢のマデリーンがキスをする所を目撃してしまう。ショックを受けたフィオナは自ら修道院に行くことを決意し、護衛騎士のエルマーとともに王宮を逃げ出した。置き手紙を読んだ皇太子が追いかけてくるとは思いもせずに⋯⋯ 小説家になろうにも掲載しています。

幼馴染以上、婚約者未満の王子と侯爵令嬢の関係

紫月 由良
恋愛
第二王子エインの婚約者は、貴族には珍しい赤茶色の髪を持つ侯爵令嬢のディアドラ。だが彼女の冷たい瞳と無口な性格が気に入らず、エインは婚約者の義兄フィオンとともに彼女を疎んじていた。そんな中、ディアドラが学院内で留学してきた男子学生たちと親しくしているという噂が広まる。注意しに行ったエインは彼女の見知らぬ一面に心を乱された。しかし婚約者の異母兄妹たちの思惑が問題を引き起こして……。 顔と頭が良く性格が悪い男の失恋ストーリー。 ※流血シーンがあります。(各話の前書きに注意書き+次話前書きにあらすじがあるので、飛ばし読み可能です)

子育てが落ち着いた20年目の結婚記念日……「離縁よ!離縁!」私は屋敷を飛び出しました。

さくしゃ
恋愛
アーリントン王国の片隅にあるバーンズ男爵領では、6人の子育てが落ち着いた領主夫人のエミリアと領主のヴァーンズは20回目の結婚記念日を迎えていた。 忙しい子育てと政務にすれ違いの生活を送っていた二人は、久しぶりに二人だけで食事をすることに。 「はぁ……盛り上がりすぎて7人目なんて言われたらどうしよう……いいえ!いっそのことあと5人くらい!」 気合いを入れるエミリアは侍女の案内でヴァーンズが待つ食堂へ。しかし、 「信じられない!離縁よ!離縁!」 深夜2時、エミリアは怒りを露わに屋敷を飛び出していった。自室に「実家へ帰らせていただきます!」という書き置きを残して。 結婚20年目にして離婚の危機……果たしてその結末は!?

僕は君を思うと吐き気がする

月山 歩
恋愛
貧乏侯爵家だった私は、お金持ちの夫が亡くなると、次はその弟をあてがわれた。私は、母の生活の支援もしてもらいたいから、拒否できない。今度こそ、新しい夫に愛されてみたいけど、彼は、私を思うと吐き気がするそうです。再び白い結婚が始まった。

真実の愛は水晶の中に

立木
恋愛
学園の卒業を祝うパーティーの最中、レイシア・マレーニ侯爵令嬢は第三王子とピンク髪の女、その取り巻きたちによって断罪されようとしていた。 しかし断罪劇は思わぬ方向へ進んでいく。 ※AIイラスト使用 ※「なろう」にも重複投稿しています。

完結 若い愛人がいる?それは良かったです。

音爽(ネソウ)
恋愛
妻が余命宣告を受けた、愛人を抱える夫は小躍りするのだが……

処理中です...