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第11話 私の過去と公爵令嬢 2
しおりを挟むしかも、家の中でもまた別の意味で努力は認められなかった。
要するに皆、同じような努力をしてきた人なのであるが、それが終わると忘れられるもんなのか、一切誰も、そんな事は口にしない。私のことを分かってほしかったかと言うと、そうでも無かったような気もするのだけれど、そんな事が大事ではない、そう思っていた。
お父様はお父様で、私にとっては嫌だった。
いつも怖い顔をして書類を睨んでいる。でも、私はそれが怖くてたまらなかった。
「テスト、どうだったんだ」
稀に、テストの話が出てくることもあった。その時もお父様は書類とにらめっこをしながら話しかけてきた。なんで、そんなに見る書類があるのかなぁ、意地悪なのかな、そんな事を考えながらお父様を見ていた。
最近は分かるようになってきた。だって、お父様はこの国で一番多忙で、家のことなんか気にかけてられない人なんだって。
「えっと、満点でした。あっ、学年で一番だったんです!」
「そうか、それは良かった。頑張りなさい」
はい、以上終わり、だった。
でもね、だんだん気づくようになってきた。お父様の良かったは、家としての良かっただったって事に。
それに、頑張りなさい、ってちゃんと努力しているのに何なのよ、って思うと悲しくなってきた。
お父様は、いつも何をしてもさっさと終わらせてしまう印象で、仕事が一番だと思っていた。あの人に情なんかない、仕事人間なんだ、そう思っていると、そっけない態度も自然と気にならなくなっていた、ように感じた。
でも、本当は寂しくて、辛かったと気づくのはまだ後のことになった。
だから私は、政略結婚の事も、お父様は私達のことなんか、全く考えていないのでは、そう信じたかった。だって、今さら心配していたとか言われても、今までさんざんされてきた父の態度から、そんな事は許せなかった。
なのに、みんな顔を会われるたびに「父が心配している」と言う。そんなのは、皮肉じゃない。なんで、これまでのことを知らないで――知っていても私がそう思うえるように周りを固めるの?って思っていた。
だって、お父様が求めているのは、私に心を許してもらうことじゃ無い。私の公爵令嬢――ローゼンハイン家の令嬢としての器だ。そこに、情はいらないはずだった。
だから、政略結婚の事ができた時、ああ、いつまで父は私達の事を道具としてみるのかな、と本気で思った。
でも、そうじゃなかった。それは、確かな事実だったと、気づかなければ――もう、受け止めなければならなのかなぁ。
でも、そうしたら私が苦しんできた日々は何処に行ってしまうの?そう問いかけても誰も答えてくれる人はいない。
『お前は裏切り者だ。
お前は苦しむために生まれた。
誰がお前なんかの努力を認める。
お前なんか誰も知らないぞ』
違う。やめて!裏切り者じゃない。苦しまなきゃいけないはずはないでしょう――。
その声は私を縛った。
「お嬢様、いえ、カリン様!体、壊されますよ、そんな事をしていると」
「良いのよ、体を壊したって、誰ももう心配なんてしないわ」
「そんな事言わないでくださいませ!わたくしが心配しますし、兄弟も心配されますわ!」
私が今詰めて勉強をすると必ず、ユリアは注意をしてくる。私はよく、現実逃避したいがゆえに、勉強を今詰めてやっていた。そうしても、報われないことは分かっていたのに――。
ユリアの言うことは必ず決まっていた。だから、私は微笑んでいった。いや、自嘲して言った。
「ええ、そうね。それは困るわね。――でも、お父様は私の事は心配しないでしょう?私が体を壊したって、心配するのは家のことよ」
私がそう言うと、必ずユリアは苦しそうな表情をする。それが、何を意味しているのか、私は分かって何も言わなかった。
「それは――。いえ、そんな事はありませんわ。それより、あの会話を聞いたからなんでしょう?そんなに今詰めて勉強しているのは」
「それは――」
そう、そのとおりなのだ。
その日、私はお父様がお兄様と話しているのを聞いてしまった。
『カリンはどうしている?』
『しりませんよ、自分がお確かめになれば良いのではないですか』
『それより、本当によくできるな。努力もできて、それを発展的に生かしていける。何よりだ』
『どうですかね、そうかもしれませんね。そう、でも努力なんて、してもこの世は報われない。まぁ、彼女にもいずれ分かるとこです』
『そうかもしれんな。まぁ、まだ遊んでいてもいい時期なんだ。よし、仕事をするぞ』
扉に耳を澄ませて聞いていた私は、一目散にかけて自分の部屋に走った。
努力は報われない。そんなのはおかしい。そう思っても、大人の言ったことは絶対だと思った。だから、私は悲しかった。そして、絶望した。この世の中に。
でも、それでもわからないように勉強した。そうしたら、いずれ誰かが認めてくれると思っていたから。
『誰がお前なんかを認める』
違う。違うって言って。囁かないで。染めないで。お願い、違うって言って。
『カリン、囚われないで――』
「ねえ、カリン様。あの会話、カリン様のことを言っていたんじゃないですか?」
「それは――、でも、絶対違うわよ!そんなはずないわ」
「でも、そう思ってもいいじゃないですか」
「そんなの――絶対にそんなはずがない。お父様が、私のことを褒めるわけがない。だって、でも――、それに、期待して何になるわけ?期待するから失望するのではないの?」
「そんなの、そんな世の中は絶対間違っているんです、カリン様――」
ユリアが言っていることは正しい。でも、そんなのは嫌だった。期待するから失望する、それは私が今まで考えてきたすべてと言っても良かった。
「――そんなの、人生悲しすぎじゃないですか?そんなのは絶対に間違っている。お母さまだって、そんなことをカリン様に望んではいないです。――確かに私もカリン様も一般的な令嬢とは違いますよ、でも、それでいいじゃないですか?少なくともわたくしはそう思いますわ」
私はしばらくユリアのことを見つめていた。ユリアの瞳には固い決意が見られた。
「ごめんなさい、ユリア。私がカッとなりすぎたわ。それに――今も人生楽しいわよ。公爵令嬢も、お母さまの子供で生まれられたから捨てたもんじゃないわよ」
そんなことを言った私のことを、ユリアは不審そうに見てきた。
「カリン様、何か隠しているやましいことでも?」
「――いえ、何でもないわ」
でも、やっぱりお気楽な庶民に生まれれば、公爵令嬢という立場に人生を狂わされることも無かったのよ、そう口の中で呟いた。
誰も私の事なんて心配しない。カトリーナの事なんて関心が無い。みんなが知りたい関心があるのは、ローゼンハイン公爵令嬢だ。そして、みんな公爵令嬢として見てくる。なら、完璧な公爵令嬢としていれば何も言わない。そう思うようになったのはいつからだろうか。
――誰もカトリーナに何か心配はしない。私は自分からその殻に閉じこもってしまった――。
『誰がお前なんかを心配する!』
* * *
「カリン様、本当に大丈夫ですか?」
ユリアが抱きつきながら後ろから言った。
「大丈夫って何も、本当も何も無いわよ」
「そうですか?心あらずって感じだったので。そうですか~、大丈夫ですか~」
何故かユリアは意味ありげに笑って、私の目の前に来た。
「な、なにがよ」
私の目を覗きながら言った。
「いえ、本当に大丈夫なんですね。じゃぁ、さっき、何がそうだ!だったんですか?」
「あっ――」
なんだかんだで忘れていたけれど、私はあの時、良いことを思いついたんだった。――ユリアに言ったらまずいと思うから、何も言わなかったけど。
そして、ユリアは勿論、私のことをじっと見ながら言った。
「そうですか、言わないんですね。良いですよ、それでも。でも――」
「まって、いや、違うから」
「そうですか、何が違うんですか?いいですよ、言わなくっても。でも、言わなかったらわたくし、協力はしませんからね。――一体いつも、誰が手伝って上げていると思っているんですか?」
「そ、それは」
「いいです、手伝わないから。でも、本当にやめてほしいことにはやめてほしいですよ。いつも誰に迷惑かけていると思っているんですか?誰が誰かさんの尻拭いをしていると思っていらっしゃるのですか!?」
「そ、それは――」
「――まぁ、二人とも仲がいいのね」
私達が――私がユリアに追い詰められていると、何処からともなくジョセリンの声がした。
「お母さま、これはそういうことでは無いんです!カリン様が――」
「そう、まぁ仲がいいことにしと置いてあげますね。それで、何していたのかしら?」
「それは――、言いません。それで、お母さまこそ何を話していたんですか?」
ジョセリンは少し悩む素振りを見せると、私達と向かいのソファーに座って、口を開いた。
「アルフレッド様――公爵と、仕事の話をしていたのよ。貴女のこともね、カリン。――わたくしがここに来たのは、それを話すために呼ばれたからなのですよ。ほら、いま王宮は忙しいでしょう?本当は休みなんか無いなはずなのですけれど。そこはまぁ、公爵の――宰相の職権乱用と言ったところかしら」
お茶目に笑いながら言うにはどうかと思われるような内容。でも、ジョセリンは落ち着いていた。
「いやいや、待って。確かにお父様の口添えがあったのは気づいていたけど。良いの?」
「良いのって、なにがかしらね。知ったところでどうすることもできないのよ。けれど、貴女にはちゃんと話さなければ行けない内容ですから、勿論、ユリアもね。カリン、本当はベレーナさんにもですよ。でも――」
ジョセリンは言葉を切ると、私達のことを眺めてきた。
「――貴女が一番、知りたいのではないかしらね?」
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