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3.エンジョイニング異世界
(13)
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「じゃあ、今からでも見慣れてみる?」
「けけ、結構です!! てか、少しくらい気にしなさいよ、そういうところは!!」
頭の中で、心臓の音がうるさくて仕方がない……! あれは『幼いころの』あっくん、『幼いころの』あっくん、『幼いころの』あっくん、ああああああ! やっぱり、無理がありすぎる!!
私の大混乱とは真逆の冷静そのものといった風な秋斗くんは、さらに平然と言ってのけてきた。
「おれは別に気にしないよ? 美結さんが望むなら、いつでも見せてあげるし」
「は、はい!?」
いつでも見せるって、なにを!?
微笑したまま、秋斗くんはようやくハイネックのシャツをはおる。
「そのうち、おれの裸なんて見慣れるようになるよ」
「な……っ!?」
なんで!?
私の内心の疑問がきこえたのか、「だって」と彼はシャツの襟元を整えながら答えてくる。
「美結さんも、しばらくはここで生活することになるんだし、おれが着替える機会なんてたくさんあると思うんだけど?」
「あ、アホかぁああああ!!」
私は、腹の底から思いきり叫んでいた。
ありえない! なんでそんな流れになるのよ! そもそも、私はまだOKすらしていないのに!
秋斗くんを真っすぐにとらえ、私はビシッと人差し指をつきつけた。
「私はね、とっとと用事を済ませて早く元の世界に戻りたいの! 用事がなんだったか、今はちょっと思い出せないからあれだけど! そんな悠長に、秋斗くんの着替えとか見ていられないんだからね!?」
「フフッ、そうだったね」
楽しそうに肩をゆらす秋斗くんがズボンに手をかけるのが見えて、私は指をひっこめながらあわててうしろをむいた。さすがに気まずくなって、うつむいてしまう。
「あ、そうだ」と、背後から思い出したように声がかけられた。
「美結さんの着替えも、いろいろ準備してもらったから。ここにいる間、ないと不便でしょ?」
「え、ええ? ってまさか、秋斗くんが選んだ服なんじゃ……」
記憶によみがえってくる、彼が私のために用意していたらしい衣装の数々。かたや、サーモンピンクのド派手なドレス。かたや、全身スケスケシースルーのワンセット。奇抜すぎるファッションセンスは私にはとうてい理解できそうになくて、その彼が準備した服となると――
私の心配をよそに、秋斗くんは「いや」と否定をしてきた。
「本当はそうしたかったんだけど、そんな余裕もなかったから、お城の人に頼んでおいたんだ。だからおれも、どんな服があるのか知らなくて」
「そ、そうなんだ」
それなら、まだマシかもしれないわね。
私は、小さく安堵の息をはいた。すると、クスクスとからかうような笑い声が耳にひびいてくる。
「美結さん、もういいよ」
「え?」
「着替え、終わったから」
「あ……、うん」
おそるおそるふり返れば、そこには白い軍服のようなものに身を包んだ秋斗くんがいた。
あれ? 微妙に変わってる。この前着ていたのは、グレーのやつだったような。あ、もしかしてこれがエレメンタルナイツの団服なのかな? そういえば、イレイズさんやサリューもこの服だったし。
そ、それにしても……
確実に増している見た目の破壊力から視線を引きはがそうと四苦八苦している私の隣へ、彼が並んでくる。
「美結さんが気にいる服があったら、自由に使って。じゃあおれ、ちょっと出てくるから」
「う、うん、ありがとう。い、いってらっしゃい」
懸命に目をそむけようとしながら、私は言った。
視界の端で秋斗くんの藍色の瞳が驚愕を浮かべてから、すぐに細められるのが見える。
「いってきます」
いつもの極上スマイルで静かに告げられ、私はおかしな目線のまま、その場で固まってしまったのだった。
――どれくらい、そうしていたんだろう。扉の閉まる音がしてから、だいぶ経ったような気がするけれど。
ようやく我にかえった私は、部屋の中を見わたして、とりあえず着替えるかと壁際のクローゼットに歩み寄った。
「あれ?」
外開きにあけた中には、白の軍服のような服がズラリとならんでいて、端の方には奇抜な色とりどりのカラフルな衣装があった。
「これ、秋斗くんのだ。ん?」
クローゼットの扉の内側にはられていたのは、一枚の紙。指ではさんでみれば、トゥラール、ナックドット、シュロノメイラ――覚えのないカタカナの羅列がズラリと書かれていて、上から順番に横線で消されている。書いたのは、秋斗くんだろうか? その線は徐々に荒っぽくなっていって、最後の一つだけが消されずに残されていた。
「ティグロー?」
なにかの名前、かな? まあ、いいや。
私はそのクローゼットをそっとしめると、違うクローゼットをひらいた。
「いろいろある。こっちのが私のかな? うへえ……、どれも、か、かわいい系じゃないですか。あれ? これって!」
「けけ、結構です!! てか、少しくらい気にしなさいよ、そういうところは!!」
頭の中で、心臓の音がうるさくて仕方がない……! あれは『幼いころの』あっくん、『幼いころの』あっくん、『幼いころの』あっくん、ああああああ! やっぱり、無理がありすぎる!!
私の大混乱とは真逆の冷静そのものといった風な秋斗くんは、さらに平然と言ってのけてきた。
「おれは別に気にしないよ? 美結さんが望むなら、いつでも見せてあげるし」
「は、はい!?」
いつでも見せるって、なにを!?
微笑したまま、秋斗くんはようやくハイネックのシャツをはおる。
「そのうち、おれの裸なんて見慣れるようになるよ」
「な……っ!?」
なんで!?
私の内心の疑問がきこえたのか、「だって」と彼はシャツの襟元を整えながら答えてくる。
「美結さんも、しばらくはここで生活することになるんだし、おれが着替える機会なんてたくさんあると思うんだけど?」
「あ、アホかぁああああ!!」
私は、腹の底から思いきり叫んでいた。
ありえない! なんでそんな流れになるのよ! そもそも、私はまだOKすらしていないのに!
秋斗くんを真っすぐにとらえ、私はビシッと人差し指をつきつけた。
「私はね、とっとと用事を済ませて早く元の世界に戻りたいの! 用事がなんだったか、今はちょっと思い出せないからあれだけど! そんな悠長に、秋斗くんの着替えとか見ていられないんだからね!?」
「フフッ、そうだったね」
楽しそうに肩をゆらす秋斗くんがズボンに手をかけるのが見えて、私は指をひっこめながらあわててうしろをむいた。さすがに気まずくなって、うつむいてしまう。
「あ、そうだ」と、背後から思い出したように声がかけられた。
「美結さんの着替えも、いろいろ準備してもらったから。ここにいる間、ないと不便でしょ?」
「え、ええ? ってまさか、秋斗くんが選んだ服なんじゃ……」
記憶によみがえってくる、彼が私のために用意していたらしい衣装の数々。かたや、サーモンピンクのド派手なドレス。かたや、全身スケスケシースルーのワンセット。奇抜すぎるファッションセンスは私にはとうてい理解できそうになくて、その彼が準備した服となると――
私の心配をよそに、秋斗くんは「いや」と否定をしてきた。
「本当はそうしたかったんだけど、そんな余裕もなかったから、お城の人に頼んでおいたんだ。だからおれも、どんな服があるのか知らなくて」
「そ、そうなんだ」
それなら、まだマシかもしれないわね。
私は、小さく安堵の息をはいた。すると、クスクスとからかうような笑い声が耳にひびいてくる。
「美結さん、もういいよ」
「え?」
「着替え、終わったから」
「あ……、うん」
おそるおそるふり返れば、そこには白い軍服のようなものに身を包んだ秋斗くんがいた。
あれ? 微妙に変わってる。この前着ていたのは、グレーのやつだったような。あ、もしかしてこれがエレメンタルナイツの団服なのかな? そういえば、イレイズさんやサリューもこの服だったし。
そ、それにしても……
確実に増している見た目の破壊力から視線を引きはがそうと四苦八苦している私の隣へ、彼が並んでくる。
「美結さんが気にいる服があったら、自由に使って。じゃあおれ、ちょっと出てくるから」
「う、うん、ありがとう。い、いってらっしゃい」
懸命に目をそむけようとしながら、私は言った。
視界の端で秋斗くんの藍色の瞳が驚愕を浮かべてから、すぐに細められるのが見える。
「いってきます」
いつもの極上スマイルで静かに告げられ、私はおかしな目線のまま、その場で固まってしまったのだった。
――どれくらい、そうしていたんだろう。扉の閉まる音がしてから、だいぶ経ったような気がするけれど。
ようやく我にかえった私は、部屋の中を見わたして、とりあえず着替えるかと壁際のクローゼットに歩み寄った。
「あれ?」
外開きにあけた中には、白の軍服のような服がズラリとならんでいて、端の方には奇抜な色とりどりのカラフルな衣装があった。
「これ、秋斗くんのだ。ん?」
クローゼットの扉の内側にはられていたのは、一枚の紙。指ではさんでみれば、トゥラール、ナックドット、シュロノメイラ――覚えのないカタカナの羅列がズラリと書かれていて、上から順番に横線で消されている。書いたのは、秋斗くんだろうか? その線は徐々に荒っぽくなっていって、最後の一つだけが消されずに残されていた。
「ティグロー?」
なにかの名前、かな? まあ、いいや。
私はそのクローゼットをそっとしめると、違うクローゼットをひらいた。
「いろいろある。こっちのが私のかな? うへえ……、どれも、か、かわいい系じゃないですか。あれ? これって!」
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