怪奇短編集

木村 忠司

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竹の花

竹の花➨烏天狗➡災

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「人間よ‥‥お前たちは災いと聞くとすぐにざわめきはじめる。災いと呼ぶ出来事は人間にとって災いだろうが、一方でここに住む草木にとっては恵みかもしれん。お前たち人間はいつも自分本位で語る。確かにこの世界はほぼ人間に支配されているといってよいだろう。この百有余年人間たちは不可知論に頼りながらも依然として我々を恐れている。だが一方で目に見えない存在に心を開いている人間は少なくなった。しかしながらそんなことに関係なく我々は風と共に山や森や川に凛然と存在していたのだよ」

 その返事を聞いて、私は何を言っているのかわからず、話をはぐらかされているように感じた。周りの取り巻きの中でキィキィと高い声で鳴いている天狗もいて、それは私を嘲笑しているように思えた。

「それは一体どういう意味なのですか?この世界に何が起こるというのです?」

 私の質問に対して、大天狗は哀れむように答えた。

「この世界に何がおこったとしても、それはお前たち人間が自ら招いた結果の物事だということだ。お前たちはこの世界を支配することができると思っているが、それは大きな誤りだ。この世界は我々の側の考えで共に生きるものが多く、お前たちのやり方は少数派に過ぎない。お前たち人間は自然と調和することを忘れ、自分たちの欲望に走った。その結果、この世界は不安定になり、大きな災厄が起ころうとしている。この里山の竹の花は一斉の開花は、人間たちの欲望が閾を越えた知らせだ」

「知らせ?どういう意味です?」

「空を飛べない人間は谷を転がり落ちる事になるだろう。地震や津波や火山や台風や豪雨や干ばつや疫病や飢饉や戦争など、お前たちが御せるはずもない想像もできぬほどの災害がこの世界を覆うだろう。これから先に待つお前たちに与えられた試練だ」

 私は大天狗の言葉に唖然となりただ立ち尽くした。私は大天狗の意見に反論したかったができなかった。自分の存在が小さく、弱く、無知に見えた。

「試練というのはお前たちが自然と和解するか滅びるかを選ぶことだ。我々は人間争うつもりはない。我々烏天狗ははただこの自然の摂理を守るために行動する。これをタブレットで読んでいる画面の向こうの人間たちだって、この世界の一部であることを忘れてはならない。インターネットは仮想空間であり、お前たちも自然に存在する生物の一個体なのだ。目に見ねぬ存在に敬意の払い方と感謝を学び、自然と共生し、生き抜く方法を学ぶのだ。そうすれば、天はおまえたちにも我々にも恵みを与えるだろう。しかし、己の欲望を追さらに希求し拡大し、自然を敵視し、侮辱し、破壊し、無視すするなら、それは災いをもたらすだろう。これがおまえたちが理解しなければならない真実だ。もう時間の猶予はない」

 私は烏天狗の長の言葉に納得と反発を感じた。私はまるで人間代表のような立場に置かれたような気持がして、一人まごつく思いだった。しかし大天狗の話は、確かに人間の業を認めざるを得ない問題提起だった。

 それでも私は人間代表として自分たちの主張もしながら更なる問いを投げかけた。

「私たちが古来から言われてきた金言を忘れかけていたことは認めます。しかし私たちは学習して行動を変えることが出来ます。あなたたちは私たちにどうすればよいかと教えてくれますか?私たちはどうやって自然と和解することができるのですか?」私は切実に大天狗に問おた。

 大天狗はそれに答えずに私との距離をつめた。

 しわくちゃの赤い顔に大き鼻が上向きに伸びているのがわかった。黒い嘴は頬を切り裂くように赤い舌を覗かせた。目は黒く人間と同じく感情があるように見えた。

「それはお前たちが自分で見つけるべき答えだ。我々はお前たちに道を示すことはできない。我々はお前たちに折を見て語り掛けるだけだ。お前たちは自分で考え、行動し、責任を取らなければならない。そうすれば、お前たちは自然と対話することができるだろう。そうすれば、お前たちはこの世界の秩序を尊重することができるだろう。そもそもお前が絵描きで、この竹林の特別な瞬間の絵を描きに来たことに意味があるのかもしれん。」

 私は大天狗の言葉に、私の心は希望と戸惑が反目していた。そしてそのあと言葉が見つからず会話が途切れた。

 すると突然、背後にいる一人の若い天狗が私に向かって叫んだ。

 「こんなたったひとりの人間などさっさとやっちまいましょう。人間が変わろうが変わる前がどっちにしても我々には関係ない
!我々はこの世界を守護するためにいる!我らの邪魔をしにきた人間など殺してしまえばいいんだ!」

 私はその天狗の言葉に本当の殺気を感じた。

 彼は怒号を上げながら私に向かって振りかざした刃で私を突き刺そうとした。

 私は身を挺してかわそうとしたが間に合わなかった。私は剣の刃が私の肩を突き刺さるのを感じた。私は焼けるような痛みに声を上げた。

「止めろ!この人間は我々の客人。我々の敵ではない」
大天狗はその若い天狗を制止した。

若い天狗はそれ以上の攻撃をやめたが、大天狗に反抗した。
「何でですか?人間は我々の敵ですよ。我々は人間を滅ぼすべきです。あなたも以前、必要ならば人間を徹底的に攻撃する、とそう言っていましたよね」

大天狗は諭すように言った。
「それは違う。我々は人間を滅ぼすべきではない。そしてこのような聞く耳を持つ人間には我々は知恵の伝承と摂理を伝えるのだ。もともと人間も天の摂理の中の一員なのだ。それを忘れた人間に自然と和解することを教えのだ。我々は人間との共存を望む」

「そんなことは無理じゃぁじゃないですか!あんただってずっと見てきたはずだ。この100年の人間の所業を!人間は自分勝手で無知で残酷です。人間は自然と和解することなんてしないですよ。人間の本質は自分勝手で皆嘘つきで、この世界の秩序を必ず破壊する。人間と我々が仲良くすることなんてできるわけがない!」
 若い天狗は大天狗に不満そうに言った。

 
「それが本当かどうか、確かめる方法があるだろう。人間に耳を傾けることだ。我々も忍耐強く人間と対話するのだ。人間に己で答えを探させるのだ。そのためにはまずはこの人間がどう変わるか、見てみようではないか」
烏天狗の長はその天狗に冷静に言った。

その天狗はそれでも不服そうに言った。
「それでも無駄だと思いますよ。この人間なんて、どうせ嘘つきで卑怯で臆病ですよ」

 私はその天狗のくやしさと落胆を感じた。私は自分たちに何か言い返したかったが、出血したせいか力が入らなかった。私は右肩に激しい痛みをこらえながら、背後の烏天狗たちの群れをもう一度みた。私は彼らに何か訴えかけようとしたが、やっぱり声が出なかった。そして目の前が真っ暗になった。

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