1 / 8
1.
しおりを挟む国王陛下の生誕45年パーティーの最中、それは起こった。
「アヴリル・サマーフィールド、お前に離婚を命ずる!」
ふと目が合った第一王子殿下ノックスが、アヴリルを指差しながらそう告げた。
この王子殿下はまた何を言い始めたのだろうか。
アヴリルはかつての婚約者ノックスに呆れ果ててため息しか出てこない。
そんなアヴリルの肩を優しく抱いた夫スタンリーが怒りを露わにアヴリルに言った。
「なんで勝手に離婚させられなきゃいけないんだ?こんな横暴な王族、もういらないんじゃないか?」
「……そう思うわ。」
アヴリルはスタンリーに同意した。
ノックス殿下は、またやらかした。
そんなノックス殿下は周りから失笑されていることにも気づかない。
今からどんな寸劇が見られるのだろうかと期待されていることも。
二年前、この同じパーティーでノックス殿下はアヴリルに同じようなことをした。
『アヴリル・ウィンターホール、お前に婚約破棄を命ずる!』と。
それにより、アヴリルはノックス殿下との婚約を解消することになったのだ。
二年前当時のノックス殿下はまだ王太子だった。
アヴリルの1歳上。
ノックス殿下が12歳、アヴリルが11歳の時に婚約した。
婚約当初は仲は悪くなかった。
しかし、教育が進むにつれ、アヴリルは淑女で聡明に。ノックス殿下は不真面目に。
年下なのに賢いアヴリルに勝手に劣等感を抱き、アヴリルを避けるようになっていた。
やがてアヴリルが学園に入学した頃には、ノックス殿下の隣に常に同じ令嬢がいるようになっていた。
子爵令嬢シーラ・ノンブレイン。
アヴリルが入学するまでの1年の間に、ノックス殿下の最愛にまで成り上がった令嬢である。
シーラとその外にもノックス殿下に言い寄る令嬢がいたことはアヴリルも把握していた。
愛妾にでもするのか、国王陛下の許可を得て側妃にすることまで考えているのか、いずれにせよアヴリルにはどうでも良かった。
ノックス殿下の相手をしてくれるのであれば有難い。そう思っていた。
それから二年近く、ノックス殿下とシーラの関係は卒業間近になるまで変わらなかった。
それどころか、卒業1か月前にあった国王陛下生誕43年のパーティーでアヴリルに婚約破棄を言い渡したのだ。
『アヴリル・ウィンターホール、お前に婚約破棄を命ずる!
俺はお前みたいな小賢しい女と生涯を共にすることを考えるだけで虫唾が走る。女はシーラみたいに癒しになる存在であるべきなんだ!お前との婚約を破棄して、俺はシーラと結婚する!!』
『……かしこまりました。婚約破棄をお受けいたします。』
アヴリルは、ノックスとの結婚を仕方のないことだと諦めて受け入れていたが、向こうが結婚したくないと言っているのであれば何も問題はないではないかと解放感に舞い上がってしまいそうだった。
しかし、それを止める声が聞こえてきた。
「待て待て待て待て!勝手に何を言っておるんだ!!」
国王陛下だった。
2,366
あなたにおすすめの小説
何でもするって言うと思いました?
糸雨つむぎ
恋愛
ここ(牢屋)を出たければ、何でもするって言うと思いました?
王立学園の卒業式で、第1王子クリストフに婚約破棄を告げられた、'完璧な淑女’と謳われる公爵令嬢レティシア。王子の愛する男爵令嬢ミシェルを虐げたという身に覚えのない罪を突き付けられ、当然否定するも平民用の牢屋に押し込められる。突然起きた断罪の夜から3日後、随分ぼろぼろになった様子の殿下がやってきて…?
※他サイトにも掲載しています。
【完結】婚約破棄はしたいけれど傍にいてほしいなんて言われましても、私は貴方の母親ではありません
すだもみぢ
恋愛
「彼女は私のことを好きなんだって。だから君とは婚約解消しようと思う」
他の女性に言い寄られて舞い上がり、10年続いた婚約を一方的に解消してきた王太子。
今まで婚約者だと思うからこそ、彼のフォローもアドバイスもしていたけれど、まだそれを当たり前のように求めてくる彼に驚けば。
「君とは結婚しないけれど、ずっと私の側にいて助けてくれるんだろう?」
貴方は私を母親だとでも思っているのでしょうか。正直気持ち悪いんですけれど。
王妃様も「あの子のためを思って我慢して」としか言わないし。
あんな男となんてもう結婚したくないから我慢するのも嫌だし、非難されるのもイヤ。なんとかうまいこと立ち回って幸せになるんだから!
隣国へ留学中だった婚約者が真実の愛の君を連れて帰ってきました
れもん・檸檬・レモン?
恋愛
隣国へ留学中だった王太子殿下が帰ってきた
留学中に出会った『真実の愛』で結ばれた恋人を連れて
なんでも隣国の王太子に婚約破棄された可哀想な公爵令嬢なんだそうだ
幸せな人生を送りたいなんて贅沢は言いませんわ。ただゆっくりお昼寝くらいは自由にしたいわね
りりん
恋愛
皇帝陛下に婚約破棄された侯爵令嬢ユーリアは、その後形ばかりの側妃として召し上げられた。公務の出来ない皇妃の代わりに公務を行うだけの為に。
皇帝に愛される事もなく、話す事すらなく、寝る時間も削ってただ公務だけを熟す日々。
そしてユーリアは、たった一人執務室の中で儚くなった。
もし生まれ変われるなら、お昼寝くらいは自由に出来るものに生まれ変わりたい。そう願いながら
【完結】離婚しましょうね。だって貴方は貴族ですから
すだもみぢ
恋愛
伯爵のトーマスは「貴族なのだから」が口癖の夫。
伯爵家に嫁いできた、子爵家の娘のローデリアは結婚してから彼から貴族の心得なるものをみっちりと教わった。
「貴族の妻として夫を支えて、家のために働きなさい」
「貴族の妻として慎みある行動をとりなさい」
しかし俺は男だから何をしても許されると、彼自身は趣味に明け暮れ、いつしか滅多に帰ってこなくなる。
微笑んで、全てを受け入れて従ってきたローデリア。
ある日帰ってきた夫に、貞淑な妻はいつもの笑顔で切りだした。
「貴族ですから離婚しましょう。貴族ですから受け入れますよね?」
彼の望み通りに動いているはずの妻の無意識で無邪気な逆襲が始まる。
※意図的なスカッはありません。あくまでも本人は無意識でやってます。
【短編】捨てられた公爵令嬢ですが今さら謝られても「もう遅い」
みねバイヤーン
恋愛
「すまなかった、ヤシュナ。この通りだ、どうか王都に戻って助けてくれないか」
ザイード第一王子が、婚約破棄して捨てた公爵家令嬢ヤシュナに深々と頭を垂れた。
「お断りします。あなた方が私に対して行った数々の仕打ち、決して許すことはありません。今さら謝ったところで、もう遅い。ばーーーーーか」
王家と四大公爵の子女は、王国を守る御神体を毎日清める義務がある。ところが聖女ベルが現れたときから、朝の清めはヤシュナと弟のカルルクのみが行なっている。務めを果たさず、自分を使い潰す気の王家にヤシュナは切れた。王家に対するざまぁの準備は着々と進んでいる。
貴方のことなんて愛していませんよ?~ハーレム要員だと思われていた私は、ただのビジネスライクな婚約者でした~
キョウキョウ
恋愛
妹、幼馴染、同級生など数多くの令嬢たちと愛し合っているランベルト王子は、私の婚約者だった。
ある日、ランベルト王子から婚約者の立場をとある令嬢に譲ってくれとお願いされた。
その令嬢とは、新しく増えた愛人のことである。
婚約破棄の手続きを進めて、私はランベルト王子の婚約者ではなくなった。
婚約者じゃなくなったので、これからは他人として振る舞います。
だから今後も、私のことを愛人の1人として扱ったり、頼ったりするのは止めて下さい。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる