恋文ーあなたは誰?

しゃーりん

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恋文ーあなたは誰?

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とある伯爵家に手紙と花束が届けられた。

「私にですか?」

「主から預かりました。どうぞお受け取り下さい。」

そう言って、従者は去って行った。
 

 
 * * * 

「突然、手紙が届き、驚いているでしょう。
 
 先日、あなたが湖を散策している姿に心を奪われました。
 声をかけることができなかったくらい見惚れてしまいました。

 今すぐには私の名前や身分を教えることができないのが残念です。
 あなたに婚約を申し込みたいのに…
 身辺整理後、必ずあなたを迎えに行きます。
 待っていてください。

 花束に愛を込めて……」

 * * *




これを読んだ伯爵家では……

「「「………誰?」」」




 * * *

「愛しい君。あなたの愛称のリアと呼んでもいいですか?

 早く君に婚約を申し込みたい。
 もう少し待っていて。
 リアと一日も早く共に過ごしたい。
 私の心はあなたのものです。

 思いを込めた花束をリアに……」

 * * *



手紙と花束を渡して従者は去って行った。


これを読んだ伯爵家では……

「………勘違いしてないか?」

「……誰が?手紙の主?」

「…まさか従者?」

「湖で散策していた日…ひょっとして…いや…まさか…」

この日から伯爵家はドタバタと忙しくなった。



 * * *

「愛しいリア。
 
 手続きに時間がかかっているんだ。ごめんね。

 君の可憐な姿と声が聴きたいよ。

 君と出会った湖とは違う場所だけど、素敵な湖を知ってるんだ。
 その畔にある屋敷で君と過ごせる日が来るのが待ち遠しい。

 私の気持ちが詰まった花束をリアに……」

 * * *


『最上の愛』『私はあなたに囚われている』『逃がさない』

「……何?この花言葉…」

「取り返しがつかなくなる前に報告に行ってくるよ…」

伯爵は、手紙と花言葉を控えた紙を持って、出掛けて行った。



その後も手紙と花束が届けられると、報告に行った。
『そばにいるよ』『永遠』『裏切らないで』…花言葉が怖い…


しばらくすると、王家から『第三王子の病気療養』が発表された。
第三王子は20歳で、西側の隣国王女と結婚する予定であった。
しかし、好きな人ができたため、婚約の解消を言い出したのである。
王が認めなかったため、独断で隣国に押しかけ……婚約破棄された。
王は激怒し、療養と称して幽閉した。

しかし、従者の手引きにより脱走。行方不明である。


その少し前、伯爵家では準備が整い、最悪の事態に備え手続きを済ませていた。


伯爵家の近くでは、家紋のない馬車をよく見かけるようになった。
不気味な馬車と様子を伺っている怪しい人物が数人。全うな職にはついてなさそうだ。
家族にも使用人にも注意を促し、屋敷外では護衛を伴うように徹底した。


そんなある日、手紙と花束を渡しては去っていく従者が久しぶりにやってきた。
屋敷にいた伯爵が応対した。

「ご令嬢を是非ともお連れしたいのです。わが主がお待ちしております。」

「どこの誰ともわからないのに、どうして付いていくと思うのだ?
 それに、うちには令嬢はいない。そう主に伝えればいい。」

「どういうことですか?おられたではないですか。私はお会いしました。
 大丈夫です。主は身分が確かです。
 ご令嬢との婚約が認められれば、主の父君もお許しになるはずです。」

「話にならないな。帰ってください。うちに令嬢はいません。」

従者は追い出され、帰って行く。
伯爵は騎士数人に、後をつけて居場所を突き止めるよう指示した。

戻って来た騎士の報告で、ある湖の畔にある屋敷にいることがわかった。
伯爵は報告に向かった。



その後のことは、王家から伯爵に報告があった。

伯爵家の騎士が突き止めた屋敷には、やはり逃亡した第三王子がいた。
その際、従者と裏稼業と思われる人物たちもおり、まとめて捕縛した。
この者たちは依頼を受けており、作戦を練っていた。
『伯爵令嬢』の誘拐を。

だが、それぞれに話を聞くと、かみ合わない。

まず、第三王子が好きになったのは、伯爵令嬢だ。

貴族令息数人と遠乗りをしており、とある湖で散策する令嬢に一目惚れした。
調べてみると、伯爵令嬢であった。婚約者はいない。
自分には婚約者がいる。まずこのことを片付けなければ。
しかし、もたついている間に婚約者が出来たら困る。
そこで手紙を送り、待ってもらうことにした。
婚約解消を直談判し国王に怒られ幽閉されたが、リアと婚約すれば許されるだろう。
そう思い、従者の助けで脱出した。
リアに会おうと伯爵邸の近くをうろついたが出てこない。
従者に連れて来るように言ったが、リアはいないという。
こうなれば、強硬手段に出るしかないと伯爵邸を襲う計画を立てているところだった。

第三王子と従者の認識は、ここでは違ってはいなかった。

従者は手紙と花束を届けた時に、たまたま玄関近くに現れた『リア様』と呼ばれた令嬢に渡した。
しかし、受け取ったのは令嬢ではなく、『伯爵夫人オフィーリア』であった。
以後、従者にとってのリアである。

ところが第三王子が一目惚れしたリアは『伯爵令嬢リナリア』6歳の令嬢であった。
…そう。20歳の王子には幼女趣味があった。しかし、リアなら大人になっても大丈夫な予感があったのだ。

従者には伯爵夫人が17歳くらいに見えていたのだ。…実際は30歳である。
婚約者がいない適齢期の女性なら第三王子の婚約者になれると協力していたのである。
従者歴が浅く、幼女趣味を知らなかったのだ。

大人の誘拐と子供の誘拐、計画を練っていた裏稼業の男たちはどっちだ?二人か?と混乱していた最中の捕縛であった。

そして、第三王子はまた幽閉中。おそらく今度は厳重に…永遠に……



第三王子の幼女趣味は、ひそかな噂があり、伯爵も耳にしたことがあった。

遠乗りの中にいたこと、手紙の内容、花言葉……第三王子の婚約破棄……
可能性を繋ぎ合わし決定的になったことで、伯爵はリナリアを妻の実家である隣国の兄夫婦の養女にした。
伯爵家の領地と隣国の妻の実家である侯爵家の領地は隣り合っている。数時間の距離だ。
よく遊びに行っており、兄夫婦の息子と仲の良い侯爵令息との婚約の話を進めるためだ。
このまま自国にいても、第三王子に目を付けられた幼女と密かな噂になるだろう。
同じような幼女趣味の輩に狙われるわけにもいかない。
最善の策だと急いで話を進め、隣国へ脱出していた。
ちなみに第三王子が結婚するはずだった西の隣国ではなく東の隣国である。





「……ということが10年前にあったらしいの。」

16歳になったリナリアは養女になった経緯の具体的な出来事を最近になって聞き、婚約者である侯爵令息に話をした。

「リナの実の母上は、今でも年齢不詳だよな。リナと姉妹でも通じるよ。」

「お兄様も21歳になったけど、若いわよね。」

「リナも今のままあまり変わらなさそうだな。」

「幼いかしら?」

「いや?可愛くて好きだよ。リナと出会った13年前から、僕の好みのタイプはリナだからね。
 初めて会った時『人形が動いてる』って思ったよ。すぐに次は『天使だ』って思って背中を見た。
 羽がないなぁと思ってたら人間だった。あの時の3歳のリナが可愛すぎて…
 『連れて帰らないと取られちゃう』ってダダこねた。
 3年間、ずっと言ってたから婚約できて嬉しかった。」

「ありがとう。私も嬉しい。」

「結婚して子供が出来たら周りに注意しなきゃな。リナそっくりだと外に出すのは危険だよ。」

「外に出たから第三王子に目を付けられたけど、あなたとも出会えたのよ?」

「あぁ、そうか。悩むところだな。でもリナと一緒に閉じ込めたいよ。」

「いやよ。監禁しないでね?」

「しないよ……多分…」

そう言って、額に口づけをした。……侯爵令息の頭の中は『監禁』の言葉が木霊していた……



…………本当に最善の策だった?




<終わり>



  
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