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しおりを挟むカーティスが、母と義姉を除いて今までで一番顔を見合わせて話す女性はミーシャだろう。
アロイスがいた別邸でも、研究所で働くようになってからも、気にかけている女性でもある。
ミーシャがカーティスを恋愛や性の対象として見ないことで気が楽だったから。
妹がいればこんな感じで構いたくなるのかと思ったり、庇護対象として守らないと、と思ったり。
だから、騎士団の仲間が通りかかったミーシャと話をしても、侯爵家でつけた護衛と仲良くなっても、狭い世界で過ごしてきたミーシャに知り合いが増えることは好ましいと思っていた。……はずだった。
発端は、騎士たちの間で交わされたミーシャの話だ。
貴族なのにツンツンしていない。
平民みたいにガツガツしていない。
話がしやすい。
メガネすら可愛い個性に見えてきた。
仕事をしているから着飾っていないし、アレコレ欲しいと言わなさそう。
前に相棒のセオドアが言っていた通りだ。
令嬢っぽくないところ、満足させられる収入や継ぐ爵位がなくても気にしなさそうなところ、それを貧乏騎士たちは見抜き始めていた。
それに、メガネを外した素顔が美人だと知っている。
ただ、侯爵籍であることから厳しく相手を見定められるということがわかっているからか、誰も実際に口説いたことはない。
カーティスがミーシャに接する態度を見て、付き合っているのか聞かれたこともあるが。
………はっきりと違うとは言わず、はぐらかしたが。
騎士の訓練を見学に来る令嬢や平民女性は、爵位や顔、体、剣の腕前など目立つ男に歓声を上げる。
跡取りが騎士になることは少ないので、爵位を継げない男がほとんどなのに。
まぁ、実家の援助を見越しているのかもしれないが。
なので貧乏騎士たちにはほとんど見向きもしない。良くて体目当てだ。
だけどミーシャは狙われる側だ。アロイスの財産がある。
どれくらいあるのかは分かっていないだろうが、全くないなどと誰も思わない。
貧乏騎士たちは自分の給金が少なくても、ミーシャも働いているし、家もあるんだ。
そう考えると、ミーシャはどんな男に狙われてもおかしくないのかもしれない。
令嬢たちだけでなく、令息や騎士仲間からも護衛には守ってもらう必要があるのだと理解した。
ミーシャは、そのうち結婚する意思はあるのだろうか。
以前はないように感じた。
だけど、交友関係が広がって、気持ちが変わるかもしれない。
好きな男ができるかもしれない。………それはどんな男だろうか。
研究所の男?……護衛?あるいは騎士か?
ミーシャが多く接するのはそれくらい。
恋人が出来たら、もう2人で出かけることはできないか。
俺じゃない男と並んで歩くことになる。
……俺はミーシャと一緒に出かけたいのか?
セオドアにミーシャとの結婚を提案された夜。
一瞬だけ思い浮かべた光景。……あの家でミーシャと仲良く一緒に暮らす姿。
いいんじゃないか?
兄妹みたいに?友人みたいに?恋人みたいに?夫婦みたいに?
どういう関係になろうが、どう変わっていこうが、ミーシャとならその時に相応しい感情を2人で築くことが出来る気がする。
そう思っていること自体、ミーシャに女性としての好意を抱ける、いや、抱いていると言えるのかもしれない。
ミーシャの気持ちに合わせて、少しずつ進展させればいいのではないか。
そんな策略を考えた自分に笑えた。
他の男がミーシャの隣にいる姿なんか見たくない。俺がミーシャの隣に並んで歩きたい。
もう、それが答えじゃないか。
頭の中で順序立てて考えた。
よし。まずはミーシャに俺との婚約を言い包めよう。
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