聖女に選ばれた令嬢は我が儘だと言われて苦笑する

3.

　
　
このまま王命に従うことにも抵抗があるアイビーは、一応聞いてみることにした。


「発言してもよろしいでしょうか。」

「ああ。往生際の悪いサニードに文句があるなら堂々と言えばいい。君が正妃になるのだから。」


いやいや、どうして私が正妃になりたがっているように言うの？
サニード王太子殿下ではなく国王陛下に聞きたいのよ。


「まず、王族と聖女の結婚はどなたがお決めになられたのでしょうか。」

「ん？昔からそう決められているからな。最初からではないか？」

「王族に嫁がなかった聖女はいないのですか？」

「……知らんな。調べたことがない。」

「王族に嫁いだ聖女は必ず子供を産んでいますか？」

「……それもどうだろうか。知らんな。」

「では聖女が王族に嫁ぐ意味は？」

「……聖女がいる国と知られているため王族になれば他国に対しての証明にもなる。国を通じての治癒依頼もあるからな。」


それって王族にならなくても依頼があるときだけ呼べばいいだけじゃない？


「正直に申し上げますと、私は王太子殿下の正妃になりたいとは思っていません。私は子爵令嬢ですので高位貴族のような教養もありませんし、王太子妃教育を受けたいとも思いません。国から出なければいいのであれば、聖女となった私の意向も汲んでいただきたく存じます。」


あー言っちゃった。でもいいよね？治癒依頼って聖女で金儲けもしてるってことだもの。王族の意見にだけ従うだなんて不公平だわ。


「だが、それは……前例があるかはわからない。」

「調べてみていただけないでしょうか？王太子殿下とクレオリア様の仲を引き裂きたいと私は思っていません。無理矢理引き裂いて私と結婚しても仲良くなれるとは思いませんし子供ができなかったら困りますよね？」


そんな男と結婚させるのであれば、閨を共にするのは嫌だと暗に言ってみた。　
直系の王族男性はサニード王太子殿下だけ。私を正妃にしても側妃が必要になりますよ？


「……わかった。前例を調べよう。まったく正妃にしてやると言っているのに何が不満なのか。新聖女は我が儘なのだな。」

　
我が儘だと言われて苦笑した。身の程を知っているから正妃なんてなりたくないのですよ？

もう帰っていい？って思っていた時、王妃陛下が口を開いた。


「わたくしは聖女様の言うことに賛成ですわ。王太子妃教育とは厳しく大変な努力を必要とします。
聖女様がサニードの正妃になるということは将来王妃になるということです。
聖女の役割をこなしながら王太子妃や王妃の役割をこなせると？
今までの聖女様がどの程度公務をしていたかも調べてみてはいかがかしら。」


おー！王妃陛下は自身も教育を経験したことでクレオリア様の努力もご存知だから、新たな聖女のせいで王太子殿下の婚約者の地位をおろされることに納得できないのね。

しかも単なる政略結婚の仲じゃなくて相思相愛なのよ？私が邪魔者。


「……わかった。ただし、アイビー嬢が新たな聖女となったことは前聖女の国葬時に公表する。これは遅らせることはできない。
婚約については前例を確認してから再度検討することとする。」


前例がなければ作ろうとはならないのかしら。


「それと、アイビー嬢には今日から騎士をつける。前聖女ラナ様にもついていた者だ。」


騎士って護衛騎士？聖女って害することができないから必要ないんじゃないの？
まだ何も試してないから、本当に無敵の体になったかどうかわからないけど。

少し離れた場所にいた騎士がアイビーの視界に入るところまでやってきた。


「コルト・パキラスと申します。よろしくお願いいたします。」


まさかのパキラス公爵令息。クレオリア様のお兄様よね？人選おかしくない？