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しおりを挟む新たな聖女に選ばれた女性は、例外なく王族に嫁いでいるのか。
王族の子供を産んでいない聖女はいるのか。
王太子妃・王妃になった聖女が、どれくらい公務をしていたのか。
ひとまず、その3点を明らかにしてから、王太子殿下との婚約をどうするか検討するということになった。
国王と王妃が退席した後、その場にいた人々も解散となった時にサニード王太子殿下に声をかけられた。
睨んでいた王女殿下たちも穏やかな顔になっている。
おそらく、クレオリア様が義姉になることを望んでいるため、私を受け入れたくなかったのだろう。
「アイビー嬢、君のことを何も知らずに結婚を拒否してしまい申し訳ない。だが同意してくれて感謝している。ありがとう。」
そうか。あれは私との結婚を拒否したことになるのね。改めて言われるとなんかムカツク。
「いえ。突然聖女に選ばれてしまい、殿下と婚約と言われても私も戸惑いましたので。」
「あぁ、君にも婚約者がいるんだったね。その婚約者のことを思っているんだね。」
いや、違う。これっぽっちも婚約者に思いはない。
「だけど、相手は子爵令息だったよね。余程でない限り、その婚約者と結ばれることは難しいかもしれない。私との婚約がどうなるにせよ、君の婚約は解消されることになるだろう。聖女には王都にいてもらうことになるだろうからね。」
確かにそうだ。下位貴族の中でずっと王都で暮らしている貴族は少ない。
年の大半を領地で過ごすことが多いのだ。
アイビーも婚約者のグリッチと結婚すれば、嫁ぎ先の領地にある教会で治癒を行う日々になるはずだった。
聖女になったからには、それは許されないということだろう。
グリッチとの婚約解消は嬉しいけどね。
サニード王太子殿下が声を潜めて言った。
「私は前聖女ラナ様が王族として過ごしたことに意味があったのか疑問に思うんだ。聖女は治癒魔法を使える女性から選ばれる。治癒魔力のある者は教会で保護されているだろう?であれば、聖女もそのまま教会で過ごすことが望ましいと思うんだ。」
この王太子殿下は自分が聖女と結婚しないために教会に押し付けようとしているんじゃない?
「失礼ですが、殿下は教会にいる治癒者たちがどう暮らしているかをご存知ないようですね。
もし彼女たちの実態を知っていて、その上での発言であるなら聖女を軽んじていると受け取りますが。」
王太子殿下は自分の言葉が私を不快にさせたことに気づいたようだ。慌てて謝ってきた。
「すまない。不適切な発言をしたようだ。決して軽んじているわけではない。しかし、彼女たちの実態とは一体どういうことだろうか。認識不足で申し訳ない。」
司教様には何度か話をしたが、王族には伝わっていないようだった。
つまり、大司教様が伝えていないのか、大臣たちの議論で却下されているのか。
どちらにしても、王太子殿下に認知してもらういい機会かもしれない。
「後日、お時間をいただけますか?ご説明させていただきます。」
「ああ。君は1学年下だったな。明日の夕方ではどうか。馬車で共に王城に来てもいい。」
「授業後は毎日教会で治癒をしておりますので無理です。」
「そ、そうか。だが聖女となればその予定も変わるのではないか?」
「どうでしょうか?何も言われませんでしたね。まだ学生ですし、今の近い教会の方が助かりますが。」
王都には数か所教会がある。さすがに前聖女様は王族となられていたので教会で治癒はしていなかったが。
「前聖女ラナ様が聖女になられたのは65年くらい前の話だから王家も教会も久しぶりのことで手際が悪くて申し訳ない。
では明日の昼でどうだろうか。学園の王族用の部屋に昼食も用意しよう。」
学園内で昼食を食べながら話をしようということね。効率的でいいわ。
「わかりました。うかがいます。」
王太子殿下と明日の約束をして、アイビーは寮に帰ることにした。
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