逃げた先で見つけた幸せはずっと一緒に。

しゃーりん

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「ローレンス?お前、ローレンスじゃないのか?」


ランスは声を掛けられたのが自分だとわかっていた。

今の自分はローレンスではなく、ランスという名で暮らしている。

声を掛けてきた男の名前も知っている。ジェイド・ピルスナーという伯爵家の男だ。

しかし、ランスは知らないふりをした。


「僕はランスですが、お間違えでは?」 


僕は記憶を失っているふりをしてランスという名前を手に入れたのだから。 





僕がローレンスという名前で過ごしていたのは3年半ほど前の19歳のときまで。

オリオール侯爵家の長男だった。

3歳で母を亡くし、父はすぐに再婚した。
といっても、再婚相手はずっと父が浮気をしていた相手で1歳下の腹違いの弟がいたのだ。

弟と血が繋がっていることを密かに知ったのは、15歳のときだったが。
 

父と弟からの暴力、義母からの暴言を幼い頃から受けてきていた。

12歳ころからは父の執務を押しつけられ、睡眠時間は数時間だけだった。

成長期にもかかわらず、パンとスープだけの食生活でひょろっとした体が周りに気味悪がられた。
身長が高いのは母方の遺伝だろう。


それでも、侯爵家から追い出されなかったのは、侯爵家の正統な跡継ぎがローレンスだったからだ。

オリオール侯爵家は母の血筋であり、父は無関係。

父は、ローレンスが侯爵になるまでの繋ぎなのだから。 

ローレンスを殺してしまっては、自分たちも居場所を失う。

そう思うなら普通の暮らしをさせてくれればよかったのに、彼らは徹底的にローレンスを痛めつけた。

誰にも助けを求めないように、従順になるように。

自分たちが一生、侯爵家に寄生するために。



学園に入学してから、ジェイド・ピルスナーには虐待を受けているのではないかと気づかれた。

体の至る所にあるアザを見られてしまったからだ。

ジェイドは保護を求めるべきだと言った。
だが、誰に?どこに?

領地にいる祖父母は、父親の外面の良さに騙されている。
義母の社交性にも一目置いている。
ローレンスよりも出来のいい弟レナウンのことを血の繋がりがなくとも気に入っている。

たとえ虐待が認められたとしても、おそらく大した罪にもならず、いつか報復されるかもしれない。

そう思うと、現状のままがいいとさえ思った。

歯向かう力など、無意味だと思うほどになっていたのだ。 



そんな僕にも婚約者ができた。

1歳年上の侯爵令嬢ジョスリン。

彼女はローレンスに好意的に接するわけではなかったが、否定的な言葉を言うこともなかった。

定期的に設けられていた2人の時間は、ただ、淡々と定型文のような会話をし、予定時間より少し早く去っていく。
 
そんなことを繰り返した2年を過ごし、ローレンスはジョスリンと結婚した。


しかし、ローレンスはこの結婚の本当の意味をわかっていなかったのだ。



 
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