逃げた先で見つけた幸せはずっと一緒に。

しゃーりん

文字の大きさ
11 / 50

11.

しおりを挟む
 
 
住んでいた街での仕事も退職し、思い出の街に引っ越した。

大家さんのお兄さんが紹介してくれた家は子育て世帯が多く、周りに気兼ねなく住めるところだった。 


「若いあんたたちなら、まだまだ子供も増えるだろうしな。」


そう言って、部屋数の多いところを安く貸してくれた。

そうして新しい街で暮らし始めて3日目の夜、ローレンスはメロディーナに押し倒されていた。


「ねぇ、今のランスさんには私って魅力ない?抱きたくならないの?」

「え、そんなことない。もちろん、抱きたい。けど、ミレージュの世話で疲れてるかと思って。」
 
「ミレージュはここに来てから朝までぐっすり眠っているから、大丈夫よ。」

「じゃあ、いいの?」

「うん。」


ローレンスはメロディーナを下にして、思わずゴクンと唾を飲み込んだ。

人生2度目の経験。緊張しているが、興奮もしている。

焦らないよう、暴発しないように、ローレンスはメロディーナを抱いた。


僕たちは夫婦になったのだ。お互いが望む限り、いつでも触れ合える。

手に届くところにいるメロディーナに何度も愛を囁いた。


「好きだよ、メロディーナ。」

「私も好きよ。」

「愛してるよ、メロディーナ。」

「私も愛してるわ。ランスさん、離れないでね。」

「もちろん。ずっと一緒にいるよ。」


僕たちは同じ言葉を何度も繰り返していた。

まるで、いつか離されるかもしれないと感じているかのように。

そんなはずはない。

僕たちの幸せはここにあるんだから。


 


ミレージュが1歳の誕生日を迎えた頃、メロディーナが2人目を妊娠した。

僕たちは大喜びした。

少しずつ膨らむお腹。衝撃が伝わるほどの胎動。毎日が感動の連続だった。

母もこうして僕の誕生を心待ちにしてくれていたのだろうか。父は……感動もなかっただろうな。

遠くのオリオール侯爵家を久しぶりに思い出した。



そして産まれたのは男の子。リカルドと名づけた。

メロディーナ似の子だった。

自分がこんな賑やかな家庭を持てるだなんて、涙が出るくらい嬉しかった。


血の繋がった息子を虐待するような実の父は、人でなしだったと言えるだろう。



結婚して2年を迎えるとき、最近流行りの結婚指輪というものをメロディーナに贈ろうと思った。

平民の間でも既婚者の証として、人気が高まっている。

浮気防止という意味で、妻が夫に着けさせることもあるそうだが、ローレンスとしては妻とお揃いの物を身に着けられるという嬉しさから注文してしまった。

決して、メロディーナを疑っているわけではない。むしろ、狙われないようにという意味も兼ねている。

まぁ、いつも子連れで歩くことの方が多いため、未婚とは思われないだろうが念のため。
 

そして、その宝飾店でジェイド・ピルスナーに声を掛けられたのだ。


「ローレンス?お前、ローレンスじゃないのか?」

「僕はランスですが、お間違えでは?」


僕は2年前に過去の記憶を失った男だ。その設定は今も続いている。
 


 
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

自業自得って言葉、知ってますか? 私をいじめていたのはあなたですよね?

長岡更紗
恋愛
庶民聖女の私をいじめてくる、貴族聖女のニコレット。 王子の婚約者を決める舞踏会に出ると、 「卑しい庶民聖女ね。王子妃になりたいがためにそのドレスも盗んできたそうじゃないの」 あることないこと言われて、我慢の限界! 絶対にあなたなんかに王子様は渡さない! これは一生懸命生きる人が報われ、悪さをする人は報いを受ける、勧善懲悪のシンデレラストーリー! *旧タイトルは『灰かぶり聖女は冷徹王子のお気に入り 〜自業自得って言葉、知ってますか? 私をいじめていたのは公爵令嬢、あなたですよ〜』です。 *小説家になろうでも掲載しています。

〖完結〗私は旦那様には必要ないようですので国へ帰ります。

藍川みいな
恋愛
辺境伯のセバス・ブライト侯爵に嫁いだミーシャは優秀な聖女だった。セバスに嫁いで3年、セバスは愛人を次から次へと作り、やりたい放題だった。 そんなセバスに我慢の限界を迎え、離縁する事を決意したミーシャ。 私がいなければ、あなたはおしまいです。 国境を無事に守れていたのは、聖女ミーシャのおかげだった。ミーシャが守るのをやめた時、セバスは破滅する事になる…。 設定はゆるゆるです。 本編8話で完結になります。

〖完結〗私の事を愛さなくても結構ですが、私の子を冷遇するのは許しません!

藍川みいな
恋愛
「セシディには出て行ってもらう。」 ジオード様はいきなり愛人を連れて来て、いきなり出て行けとおっしゃいました。 それだけではなく、息子のアレクシスを連れて行く事は許さないと… ジオード様はアレクシスが生まれてから一度だって可愛がってくれた事はありませんし、ジオード様が連れて来た愛人が、アレクシスを愛してくれるとは思えません… アレクシスを守る為に、使用人になる事にします! 使用人になったセシディを、愛人は毎日いじめ、ジオードは目の前でアレクシスを叱りつける。 そんな状況から救ってくれたのは、姉のシンディでした。 迎えに来てくれた姉と共に、アレクシスを連れて行く… 「シモーヌは追い出すから、セシディとアレクシスを連れていかないでくれ!!」 はあ!? 旦那様は今更、何を仰っているのでしょう? 設定ゆるゆるの、架空の世界のお話です。 全11話で完結になります。

お飾り妻は天井裏から覗いています。

七辻ゆゆ
恋愛
サヘルはお飾りの妻で、夫とは式で顔を合わせたきり。 何もさせてもらえず、退屈な彼女の趣味は、天井裏から夫と愛人の様子を覗くこと。そのうち、彼らの小説を書いてみようと思い立って……?

〖完結〗旦那様は私よりも愛人を選ぶそうです。

藍川みいな
恋愛
愛していると言った旦那様は、結婚して3年が経ったある日、愛人を連れて来ました。 旦那様が愛していたのは、私ではなく、聖女の力だったようです。3年間平和だった事から、私の力など必要ないと勘違いされたようで… 「もうお前は必要ない。出て行け。」と、言われたので出ていきます。 私がいなくなったら結界は消滅してしまいますけど、大丈夫なのですよね? それならば、二度と私を頼らないでください! シャーロットの力のおかげで、子爵から伯爵になれたのに、あっけなく捨てるルーク。 結界が消滅しそうになり、街が魔物に囲まれた事でルークはシャーロットを連れ戻そうとするが… 設定ゆるゆるの、架空の世界のお話です。 全15話で完結になります。

「美しい女性(ヒト)、貴女は一体、誰なのですか?」・・・って、オメエの嫁だよ

猫枕
恋愛
家の事情で12才でウェスペル家に嫁いだイリス。 当時20才だった旦那ラドヤードは子供のイリスをまったく相手にせず、田舎の領地に閉じ込めてしまった。 それから4年、イリスの実家ルーチェンス家はウェスペル家への借金を返済し、負い目のなくなったイリスは婚姻の無効を訴える準備を着々と整えていた。 そんなある日、領地に視察にやってきた形だけの夫ラドヤードとばったり出くわしてしまう。 美しく成長した妻を目にしたラドヤードは一目でイリスに恋をする。 「美しいひとよ、貴女は一体誰なのですか?」 『・・・・オメエの嫁だよ』 執着されたらかなわんと、逃げるイリスの運命は?

〖完結〗旦那様が愛していたのは、私ではありませんでした……

藍川みいな
恋愛
「アナベル、俺と結婚して欲しい。」 大好きだったエルビン様に結婚を申し込まれ、私達は結婚しました。優しくて大好きなエルビン様と、幸せな日々を過ごしていたのですが…… ある日、お姉様とエルビン様が密会しているのを見てしまいました。 「アナベルと結婚したら、こうして君に会うことが出来ると思ったんだ。俺達は家族だから、怪しまれる心配なくこの邸に出入り出来るだろ?」 エルビン様はお姉様にそう言った後、愛してると囁いた。私は1度も、エルビン様に愛してると言われたことがありませんでした。 エルビン様は私ではなくお姉様を愛していたと知っても、私はエルビン様のことを愛していたのですが、ある事件がきっかけで、私の心はエルビン様から離れていく。 設定ゆるゆるの、架空の世界のお話です。 かなり気分が悪い展開のお話が2話あるのですが、読まなくても本編の内容に影響ありません。(36話37話) 全44話で完結になります。

私の手からこぼれ落ちるもの

アズやっこ
恋愛
5歳の時、お父様が亡くなった。 優しくて私やお母様を愛してくれたお父様。私達は仲の良い家族だった。 でもそれは偽りだった。 お父様の書斎にあった手記を見た時、お父様の優しさも愛も、それはただの罪滅ぼしだった。 お父様が亡くなり侯爵家は叔父様に奪われた。侯爵家を追い出されたお母様は心を病んだ。 心を病んだお母様を助けたのは私ではなかった。 私の手からこぼれていくもの、そして最後は私もこぼれていく。 こぼれた私を救ってくれる人はいるのかしら… ❈ 作者独自の世界観です。 ❈ 作者独自の設定です。 ❈ ざまぁはありません。

処理中です...