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しおりを挟む夫コンラッドが昨晩帰ってこなかった。
プリズムは何の連絡もないまま帰ってこない夫を、うたた寝しては目を覚ますことを繰り返しながら、使用人たちと朝まで待ち続けた。
夜中までは、友人たちとどこかで飲んで酔い潰れてしまったのかと思っていた。
結婚してから今までそんな姿は見たことがないけれどひょっとすると急な祝い事でもあったのかもしれない、と。
コンラッドは馬車ではなく馬に乗って街まで行ったため、侍従は一緒ではなかった。
完全に一人だったために、行動がわからなかった。
そして明け方、街まで何か異変がないかを確認に行った騎士たちが持ち帰った情報で、義両親である侯爵夫妻も起こす事態となった。
それは、
『馬は預けられたままだった』
というもの。
コンラッドは建物を出てからどこに行ったのだろうか。
もし、友人たちと飲みに行っていたのであれば、友人たちの馬も預けられたままのはず。
しかし、コンラッドの馬だけが残っていたというのだ。
昨日、コンラッドは早く帰ると言っていた。
それなのに、なぜ。
使用人たちは客室や空き部屋など、使われていない場所でコンラッドが休んでいないかを探し回っていた。
その騒がしさで、義弟ジュリアスも目を覚ましたようだった。
「どうして義姉上がここに?何かあった?」
プリズムがいるのを見て、目を見開いてジュリアスは両親である侯爵夫妻に聞いた。
「コンラッドが昨夜から帰っていないらしい。何か知らないか?」
「知らない。帰っていない?兄上が?そんな馬鹿な。」
外が明るくなってきて、庭や屋敷の周り、厩舎などの外回りも確認したが、コンラッドの姿はない。
診療所など、どこかに運び込まれていないか調べてもいない。
貴族が泊まりそうな宿にもいない。
あとは昨日会った友人たちの屋敷に泊まったのではないか、と問い合わせてみるしかなかった。
しかし、その問い合わせをする前に屋敷に騎士が訪れた。
「コンラッド・ケージ殿はこちらにお住まいで間違いないですか?
先ほど、亡くなっているところを発見されました。」
「亡くなった?コンラッドが?どこで………」
侯爵の問いに、騎士は言いにくそうに告げた。
「あー……いわゆる連れ込み宿です。女性と共に心中のような感じで。」
「「「心中?」」」
「ない。絶対ない。あり得ない。それはコンラッドではない。」
亡くなったと言われて侯爵夫人は倒れそうになっていたが、心中と聞いてコンラッドではないと思った。
プリズムもジュリアスも、絶対に違うと思った。
しかし、騎士は無情にも首を振る。
「確かにコンラッド・ケージ侯爵令息様です。
何人もの騎士が彼の顔を知っていて、確認しています。
そして……正直、我々も心中はあり得ないという気持ちが大きいです。」
コンラッドが妻プリズムに夢中であることは、貴族であれば誰でも知っているほど有名。
そのため、普通は心中だと納得しそうなこの件も、誰もが偽装ではないかと思っているというのだ。
「一緒に亡くなっていた女性は、サフィニア・コートアル子爵令嬢。ご存知ですか?」
誰もが首を横に振る。
「まだ17歳の令嬢です。2人の接点を調べることになります。
心中は考えにくいですが、事件と判断されなければ心中だということになります。
まだ詳しい捜査はこれからです。
昨日及び最近の行動についてお伺いしたいのですが。」
「それは私が答えよう。ジュリアス、2人を休ませろ。」
今にも倒れそうな顔色の侯爵夫人とプリズムを連れて行くように指示されたジュリアスは、最後に確認をした。
「兄はどうやって亡くなっていたのですか?」
「服毒です。」
なるほど。確かに、偽装は可能なのかもしれない。
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