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しおりを挟む廊下で待機していたプリズムの侍女と共に別棟に戻ろうとしていたところ、後ろから声をかけられた。
「プリズム、送っていこう。」
「……ありがとうございます。」
声をかけてきたのはジュリアスだった。
ジュリアスとはほとんど会話をしたことがない。
コンラッドが許さなかったから。
でも、確か以前は『義姉上』と呼んでいたはず。
だけど、先ほどはプリズムと呼び捨てにされた。
ここで暮らす以上、家族なのだから構わないけれど、驚いた。
確かにコンラッドが亡くなった今、プリズムのことを義姉上と呼ぶのは微妙だし呼ばれるのも抵抗がある。
なぜならジュリアスの方が年上だから。
ジュリアスは18歳でプリズムは17歳。
学年で言うとジュリアスの方が一つ上になるのだ。
「ジュリアス様、お義父様はホープが跡継ぎとおっしゃいましたが、よろしいのですか?
私はジュリアス様がご結婚されて、自分の子供を跡継ぎにしたいと思われても構いません。
ホープと共に実家の領地で過ごしたいと思っていますので。」
「プリズム、僕も父と同じ考えだ。ホープが跡継ぎだと思っている。」
「ですが……アグリー様とお別れすることになってよかったのですか?
思い合っていた婚約者を引き離してしまったのではないかと心苦しいのです。」
「思い合っていた?僕とアグリー嬢が?それはないな。
伯爵夫妻は彼女を少し自由に育てたようで、結婚後に矯正するのが大変だと感じていた。
正直言って、彼女と結婚しなくて済んで助かったという思いもある。
あのまま結婚していても僕は仕事ばかりして、彼女は不満ばかり言っていただろうな。」
「そうでしたか。なら少し安心しました。
ですが、私とホープを気にすることなくご結婚されてくださいね。
お義父様たちも新たな孫が産まれれば、ジュリアス様を跡継ぎに考えて下さるかもしれませんから。」
「侯爵にならなくても侯爵家の仕事はできるし、父もまだまだ引退しない。
僕は中継ぎという少し気楽な立場もいいと思っているんだ。
それに、兄上に代わってホープの父親代わりにもなってやりたい。
そう思っているから、結婚のことは考えてないな。」
プリズムは、ジュリアスのことをよく知らないから本心なのかわからなかった。
確かに、結婚しなくてもホープがいる。
仕事もコンラッドが担っていた分と、これから担うはずだった分をジュリアスがすることになる。
結婚願望がなければ、醜聞にならない程度に女性と遊んでも誰にも迷惑はかからない。
そもそも、ケージ侯爵家は裕福であるために政略結婚を必要としていない。
コンラッドがプリズムに一目惚れしたように、ジュリアスがどうしても結婚したいと思う女性でなければ結婚してここに住んでも上手くいかないかもしれない。
プリズムという小姑らしき他人も住んでいるのだから。
別棟まで送ってくれたジュリアスは、迷惑でなければホープに会いたいと言った。
ホープが産まれた少し後に行われたお披露目では、まだ首の座っていないホープを抱くことはしなかった。
首が座って少し大きくなった今のホープなら大丈夫な気がする、と言うので笑ってしまった。
どちらかと言えば、首が座っていなかった時の方が大人しく、今の方がよく動くのに。
乳母からホープを受け取り、ジュリアスに抱かせてみた。
ちょうど機嫌が良かったみたいで、泣かなかった。
そして、改めて思ってしまった。
ホープは父親を亡くしてしまったのだと。
叔父であるジュリアスが父親代わりになると言った。
侯爵家をホープが継ぐのであれば、それは良いことなのかもしれない。
ホープを抱くジュリアスの姿を見て、そう感じた。
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