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しおりを挟む子供が生まれた少し後、メルリーが再婚したと聞いた。
相手は学園時代のクラスメイト。
王宮の文官であるその男は、メルリーのことがずっと好きだったらしいと耳にした。
半年間、メルリーを口説き続け、メルリーは男の手を取ったという。
一途な男、か。
俺よりも似合いの夫婦になるだろうとブレイズは思った。
今度こそ、幸せにと願った。
ブレイズがメルリーと再会したのは偶然だった。
彼女は夫と思われる男と仲良く歩いていた。
ブレイズは実家に行った帰りで一人だった。
兄の子のお下がり服を、頭を下げて貰ってきたのだ。
買うのは高いし、アイリーンが裁縫して作るわけもないから。
「「あ…………」」
バチッと目が合ってしまい、さりげなく引き返すというのも不自然な状況だった。
メルリーは男とともにブレイズの前まで来た。
「久しぶりね。」
メルリーの穏やかな笑顔を久しぶりに見てドキッとした。
笑顔を取り戻させたのは隣にいる男でブレイズではない。
笑顔を見続ける権利を失ったのは自分のせいで、自分がメルリーのことを如何に大切に思っていたか、気づいてももう遅いのだ。
「ああ。……結婚おめでとう。」
「ありがとう。ふふ。ちょうどよかったわ。聞きたいことがあったの。」
「聞きたいこと?」
突然すぎて、言いたいことがいろいろあったのに言葉が出てこなかった。
メルリーは男に『ちょっと待ってて』と言って、ブレイズをベンチに誘った。
「メルリー、悪かった。俺が、全部、悪かった。」
直接の謝罪はこれが初めてだ。
罵倒されても当然なのだが、メルリーにはもう既に過去の話らしい。
「もう済んだ話だわ。だけどね、最後に一つだけちゃんと確認したかったの。」
「確認?」
「そう。あなた、アイリーンさんと浮気したの?何度も否定していたけれど、浮気したので間違いないのよね?」
ああ、そうか。
メルリーは自分が間違っていなかったか、確かめて安心したいのだろう。
黒と決めつけていたが、冷静になったら不安になったのか。
真面目なメルリーらしいな。
今、メルリーが言っている浮気とは、おそらくアイリーンと体を繋げたかどうかを聞いているのだろう。
実際は、結婚している間にアイリーンと体は繋げていない。
アイリーンだけじゃない。娼婦ともだ。
娼婦に手や口で奉仕してもらったことはあるが、体は繋げていない。
娼館では手っ取り早く抜いてもらうだけという小部屋もあるから。
だが、ブレイズができる償いは、メルリーを否定しないことだ。
メルリーは間違っていなかったのだと、安心して新しい幸せを築いてほしい。
嘘が嫌いだったメルリーに嘘をつくことになるが、これが俺から君への最後の贈り物になると信じて。
「ああ。浮気は、した。」
嘘をついた。
メルリーは目を丸くした後、ホッとしたように微笑んだ。
「そうよね。よかったわ。」
君が喜んでくれるのなら、この嘘は間違いじゃない。
よかったと言われるのは複雑だが。
「だって、もし、浮気してなかったって言われたら、ブレイズの子じゃないことになるものね。」
………………え?
俺の子じゃないって、アイリーンが産んだ子が?
「……あぁ、ごめんなさい。男の人は出産予定日の計算なんて知らないわよね。」
メルリーの言葉で呆然としかけた意識を取り戻した。
「……計算?」
「ええ。私の子が生まれていたら、あなたとアイリーンさんの子と同時期に生まれるはずだったの。
ブレイズが浮気した日に私も妊娠したみたいだから、同時期になるのは当たり前だったんだけど。」
メルリーとの子が生まれるのとアイリーンとの子が生まれるのが同時期になるはずだった?
そんなはずがない。
だって、アイリーンと体を繋げたのは離婚した日だ。
ひと月以上も違っている。
ということは、アイリーンが生んだあの子は俺の子、じゃない?
「事実が確認できてよかったわ。お幸せにね。」
メルリーはそう言って、男のところへと戻っていった。
ブレイズは、ベンチに座ったまましばらく呆然としていた。
帰り道、目についた病院に飛び込み、子が生まれた日から逆算して孕んだ時期を教えてもらった。
メルリーの言っていたことは、本当だった。
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