あなたに最後の贈り物を

しゃーりん

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ブレイズは、メルリーのためについた嘘で、とんでもない事実を知ることになってしまった。

子が生まれたとき、産婆は言った。

『プクプクとした大きな男の子』と。

月足らずで生まれた子は、小さく細くか弱いと聞いたことがある。
アイリーンが生んだ子、マーカスは月満ちて生まれた子で間違いない。 

だから、産婆も当てこすりのようなことまで言ったのだ。
産婆なら、子を孕んだ時期が当然わかる。

ブレイズがまだメルリーと結婚していた時期にアイリーンが孕んだ計算になるということは、浮気が事実という証拠だからだ。 


しかし、アイリーンを孕ませたのはブレイズではないということになる。

マーカスの父親は、誰だ?
 


アイリーンは誰の子か、知っているのか?

それとも、わからないからブレイズを父親にした?
しかし、彼女に特定の相手がいたとは思えない。 

いや、誰の子かわかっていても、結婚するならブレイズの方がいいと思ったのではないか。

アイリーンはあの家を、ブレイズの物だと思っていた。
ローザを見て、家事をしなくていいと思っていた。

あの家で体を繋げた時、アイリーンは自分が妊娠していることを知っていたのだろうか。
 

自分の愚かさを滑稽だと失笑し、自分自身に悪態をつく。

しかもメルリーに、自分と同じ日にアイリーンを妊娠させたのだと思われたのはきつかった。 

そうではないのに、そう思わせてしまって、このことでも傷つけてしまった。



どうしたらいいのだろうか。

愛してもいない、好みでもないアイリーンと結婚したのは、自分の子だと思ったからだ。

夫婦としてやっていく自信が、完全に無くなった。 



夫婦としてやっていく?

あの二人を養うことが自分への罰?

いや、そんなことはない。

アイリーンも十分、罪深い。

だってアイリーンは、ブレイズとメルリーの夫婦仲を壊したのに。 
もちろん、ブレイズにも責任があるのはわかっているが、浮気が広まったのはアイリーンが窓から叫んだ言葉が一番の原因なのだから。

あれが無ければ、あのままメルリーとの子供が育っていて、アイリーンと関係を持つことも、夫婦になることもなかった。

アイリーンのお腹の子は自分の子じゃないとはっきり言えたのだ。

いや、今からでも言う。

ブレイズの子だと嘘をついた代償をアイリーンに受けてもらおう。
彼女だけ、罰を受けないのは間違っている。



既婚者のブレイズに迫ったのはアイリーンだ。

迫られたらキスができるような男だと、アイリーンは身をもって知っている。
胸を触らせたら、下半身にまで手を伸ばす男だということも身をもって知っている。
 
つまり、自分がしたことを他の女が俺にしても文句は言えないよな?
俺は誘いに乗っただけ。

そういう男なのだから。
 


ブレイズは、子種を殺す薬を処方してもらい、それを飲んだ。
自分の子など、いらない。

過去の遊んでいた自分に戻るのだ。

好みの女を抱き、性欲を発散する。 
後腐れのない関係。

メルリーのためならしなかった浮気も、罪悪感なくできた。
 

結婚する気のない王宮侍女などからもよく声がかかるようになった。
ブレイズが相手だと、遊びだと割り切れるからだろう。 

体が寂しい女というのは意外といるものだ。
情愛が伴わない性欲の発散など、単なる運動と同じである。

お互いにスッキリして、また仕事に励む関係だ。
 


そろそろ、アイリーンは嘲笑されているだろう。
騎士宿舎にいても周りの妻と仲良くできないアイリーンの耳にも、ブレイズの浮気は届くはずだ。

メルリーの苦しみを味わうがいい。


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