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しおりを挟む使用人たちに、居候の親戚がリースハルトの愛人であることは広まっただろう。
その可能性はあるだろうと思っていた。
だけど、あの時と今では状況が違う。
私はこの子のために侯爵家を守らなければならない。
リースハルトが何と言おうが、追い出すことに決めた。
「ミランダさんは条件を破ったので出て行ってもらうわ。」
「ちょっと待ってくれ。私が不用意に君の妊娠を言ってしまったからショックだっただけだ。」
「あなた、ミランダさんに愛人としての立場を弁えさせるべきよ?
自分が妊娠したら私とあなたを離婚させる?全然わかってないじゃない。
あなたはこの子の将来にも影を落としたのよ。」
「……聞いていたのか。どういう意味だ?」
「言ったでしょう?正妻と愛人を一緒の屋敷に住まわせるなんて笑いの種だって。
そんな恥知らずな父親を持ったと笑われるの。
いい加減、理解するべきだわ。今のあなたに愛人を囲える資格も余裕もないの。
どうしても別れられないのであれば、彼女も働くべきなの。そこにあなたが通う。
お金のない貴族の愛人はみんなそうよ。
高位貴族の愛人だから働かなくていい?それは男が金持ちの場合よ。
今のあなたは子爵家からの援助を貰っているの。交際費もそのお金。
正妻の実家のお金で愛人を囲おうとしているって理解してるの?」
「……交際費はうちのお金では?」
「あなた、次期侯爵なのに収支の把握ができていないのね。
あなたの家は借金しかなかったのよ?全て父が立て替えてくれたけど。
領地の収益もない今、使用人の給金も子爵家の援助金、交際費ももちろんそうよ。
収益が入る来年までの生活費は全部援助なの。
いい加減、侯爵様の苦労を理解してあげて?
夫人とあなたの出費に口を出しても、全く聞いていなかったのでしょう?
あなたたちのために私の父に頭を下げて援助を申し出たの。
そうでなければ、領地と爵位を売って今頃は平民だったかもね。」
「……平民。」
「そうね。ミランダさんに最後にチャンスをあげる。
私が2人で会うわ。
彼女が私の言うことを理解して、自分の立場を弁えるのなら自立できるまでここにいていい。
つまり、働いてもらうわ。でも夜はあなたと過ごそうが自由よ。これでどう?」
頭の回る男であれば、ミランダ嬢を切るはず。
「……わかった。それでいい。」
……やっぱりこの男は愚か者なんだわ。
「あなたは屋敷にいないことにして、私たちの隣の部屋で話を聞いてて。
彼女がどう受け答えするのか、本当にこの屋敷にいさせて問題ないのかを。
自分の立場が理解できているのかを。」
「……屋敷にいられなくなっても、部屋を借りたら会いに行っていいんだよな?」
本当にミランダ嬢が好きなのね。少し腹が立つから嫌味を……
「ええ。交際費はあなたの自由なお金だもの。
領地のためになる社交ではなく、ミランダさんに使うのならそれでいいわよ?」
「っそんな言い方!」
首を傾げて答えてあげた。何か間違ったこと言ったかしら?ってね。
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