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しおりを挟む父は、ダイアナと国王陛下に使われた香は、”気休め程度のまじない”だったと言った。
「効果が出やすいのは、子供のようだ。一部の地域では、子供が朝まで起きないように香を嗅がせて眠らせるという方法が取られているらしいが、成長するにつれて効果は薄れる。
ダイアナの場合、少し深く吸い込みすぎた可能性もあるが、お前は眠りが深いだろう?」
父が苦笑いをしながらそう言う。
つまり、ダイアナは子供のようだと言われたのも同然だった。
「眠りが深いことに加え、お前は心根が素直だ。一年間、誰のことも思い出すなと囁かれて受け入れてしまったんだろう。」
「本来であれば、暗示はすぐに解けるものだということでしょうか?」
「まぁ、そうだな。お前と同じような暗示も大人で試したらしいが、もちろん、一年ではなく一日で。だが、目覚めて数分後には解けたということだ。」
一年も暗示が解けなかったダイアナが異常だと言われた気がした。
「ジルベールに香を渡したミオナは、子供に使うよりも薬草の分量を多くすれば効き目が高くなると思っていたようだが、確かにその通りではあるが、お前や陛下に使われた量程度はまだまじない程度らしい。」
分量によっては危険ではあるが、その量は想像よりも遥かに多いらしく、とてつもない臭いになるそうだ。
「つまり、違法薬物として取り締まるほどのこともないんだが、お前の例もあるということで、薬師の管理下に置かれることにはなった。」
「そうですか。わかりましたわ。となると、ジルベール様やミオナさんの処罰はどうなるのでしょうか?」
それほど害するものではなかったということなら、罰は軽くなる?
「ジルベールは国王陛下を害そうとした。毒ではないと言っても事実は変わらない。実際、あの香が毒だったとしたら知らなかったでは済まされない。行動そのものが罰せられる対象となるため幽閉になる。ミオナは平民として労働修道院で一生を送ることになった。」
「そうですか。」
労働修道院は、罪を犯した女性が規則正しく労働生活を送るところ。
高い塀に囲まれた中で、罪の重さによって労働内容が違うらしい。
相手が王族でなければ、国外追放で済んでいたかもしれない。
「それで、お前の侍女だったリサだが、どうしたい?」
「どう、とは?」
「リサは、ジルベールに指示されたからと言ってもお前を裏切る行為をしたことは間違いない。処罰はお前に任せるそうだ。」
「わたくしに。」
リサの夫は、女性絡みで男とやり合った際に腕を痛めて近衛騎士を辞めることになったらしい。
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ジルベールは将来性のない男をリサにあてがったのだ。
「王都で暮らしたかったリサが辺境で暮らしていることが罰になるのではないでしょうか。」
「なるほどな。王都追放。それを罰にするか。」
ダイアナは頷いた。
リサには幸せになってほしいと思っていたが、処罰をなしにすることはできなかった。
父がリサを王都追放ではなく、辺境から足を踏み出さない罰に変えていたことをダイアナが知ることはなかった。
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