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しおりを挟む結婚は、セドルとミュイカ嬢が先で、エリオット様とルミアがその1年後。
ルミアの結婚式では、ミュイカは喜ばしいことにセドルの子を妊娠していた。
結婚式を終え、披露宴でデイビス侯爵とエリオット様に挨拶をしているラインハルトとハンプトン公爵を見かけた。
デイビス侯爵とハンプトン公爵は友人らしい。
ジュゼットは、ハンプトン公爵がこちらを見ていることに気づいたが、気にしないようにした。
エリオット様が、ラインハルトを紹介してくれて、実は『可愛い子がいるとルミアを教えてくれたのがラインハルト』なので感謝しているのだと嬉しそうに教えてくれた。
そうか。ラインハルトは知っていたのだ。私たちのことを………自分に異父弟妹がいると。
シフォーヌから、セドルとコールマン伯爵家を守ってくれた。
そしてルミアに良縁を、とエリオット様を紹介してくれたのだ。
涙が出そうになった。だけど、知らないフリをしなければならない。
「初めまして、ハンプトン公爵令息様。
ルミアの母、ジュゼット・コールマンと申します。
ルミアにエリオット様という素晴らしい伴侶をご紹介いただきありがとうございます。」
「初めまして、ジュゼット夫人とお呼びしても?私もラインハルトで結構です。
妹シフォーヌがセドル殿のことでご迷惑をおかけしました。
偶然、セドル殿と一緒にいるルミア嬢を見かけたことがありまして。
婚約者がいないようでしたので、エリオットに声をかけたまでです。
相性が良かったようで、安心しました。」
「ええ。ルミアはとても幸せそうです。感謝いたします。」
ラインハルトの目をみて告げると、彼も私が気づいたとわかったようだった。
出された手に応え、握手をした。大きな手だった。
最初で最後の触れ合いになるだろう。
母だと名乗ることはできないし、しない。
これで十分だった。
「お会いできて光栄でした。ジュゼット夫人。」
「こちらこそ、ご立派に活躍されることを心より願っております。ラインハルト様。」
お互いに、微笑んで別れた。これでいい。
カイトが私たちを見守っていたようで、ジュゼットを迎えに来た。
「ルミアのところへ戻ろうか。」
「そうね。」
カイトはずっと呆然とジュゼットを見つめていたハンプトン公爵からジュゼットを隠すように寄り添い、視界から逃れるようにした。
同じく、視界を防ぐようにラインハルトが父親の目の前に立った。
「父上、よそのご夫人をあまり眺めては失礼ですよ。」
「あ、ああ。ラインハルト。……さっき話していたのは花嫁の母親だったか?」
「そう。コールマン伯爵夫妻には子供がいないから、花嫁は妹夫婦の子供です。
あの方は社交をしないから、ほとんど知られていないみたいですね。」
「……そうだったのか。」
「父上、美人だからって声なんてかけないで下さいよ?あの夫婦はとても仲が良いそうですからね。」
「……そうか。」
ここまで釘をさされて話しかけることは絶対にしないだろう。
それ以前に、父は女性と話をすることが苦手で会話が成立しているのを聞いたことがない。
スムーズに話せるのは仕事関係と屋敷の使用人くらいだろう。
公爵位にも関わらず再婚しなかったのも、女性との接し方が未だわからないせいだとラインハルトは思っている。
亡き母カサンドラと離婚しなかったのも、王命という理由だけでなく、ただ単に別の女性と一からやり直すことが面倒だったのではないかと思っているし。
結局、セバスを問い詰めてジュゼットの名前を確認できなかったのも、ヘタレだからだ。
父がジュゼットを見る機会も、これが最後になるはず。
どこかで見かけても、父の立場で声をかけることなどできないだろうから。
父はやり方を間違った。
最初に愛人という立場にさせてしまっても誠意を見せていれば、今ジュゼットの隣にいるのは父だったかもしれないのだから。
それよりも、実母ジュゼットと話ができたことが思いのほかラインハルトは嬉しかった。
優しく、母の目で見つめてくれた。
それで十分だった。
「ありがとう。」
「……何が?」
ジュゼットが急にお礼を言ったので、カイトはとぼけたように聞いた。
「ううん。ルミアもお嫁に行っちゃったわね。寂しくなるわ。」
「ああ。だけど、もうすぐ孫が産まれるよ。」
「そうね。楽しみだわ。」
ジュゼットは、今までの人生を後悔していない。
過去があったからこそ、今はとても幸せな人生を送っていると思えたから。
<終わり>
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