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しおりを挟むクロノスの婚約者である公爵令嬢メリーザ。
彼女が王太子妃教育を受けに王宮に通っていることは知っている。
月に一度、クロノスと会っていることも知っている。
クロノスの5歳下、マーリアの4歳下なので、学園も被ることもなかった。
彼女が学園に通い、王太子の婚約者だと認識される頃にはマーリアは既に側妃になっていた。
王宮からほとんど出ないし2人も出産したマーリアは社交界について疎くなっていたし、自分からも興味を示さなかった。
なので、メリーザがどんな令嬢なのかは全く知らなかった。
知ってしまうと自分と比べてしまうから。
良い所と悪い所を比較して、私だったら……と思っても正妃と側妃は変わらない。
クロノスとメリーザが結婚したら、もうクロノスには抱かれない。
その気持ちに変わりはなかった。
クロノスに抱かれながら、『こうやってメリーザも抱いている』と、そう思うと吐くだろう。
だから、共有はできないのだ。
結婚したら数日間はメリーザだけを抱くだろう。
その頃にクロノスとはもう閨を共にしないと伝えよう。
身の振り方は定まらない。子供たちと離れたくないから離婚は今は却下。
公務を全て放棄して、子供たちの乳母や家庭教師みたいに過ごすのはどうかしら?
ずっと近くにいられるから。
クロノスとメリーザの仲の良い姿を見ずに済むから………
結婚式が近づいてきた。
私は未だメリーザに会っていない。
「私はメリーザ様にご挨拶しなくていいの?」
「あぁ、結婚式が終わってからでいいよ。」
クロノスはそう言う。
私もその方がよかった。
結婚式が終わって、初夜が終わってから、『私の方が立場が上なのよ』と見下してほしかった。
勝てると期待したくないから。
悪女になろうと思っていた自分はどこへ行ってしまったのか。
弱くなったと思いたくない。
愛する人に自分より大切な妻ができる。そういうこと。
同じような思いをする人は大勢いるだろう。
恋愛結婚したのに愛人ができる方がつらいかもしれない。
元々、側妃なんて愛人みたいな立場なんだし。
うん。私は大丈夫。自己暗示のように心を強くした。
結婚式前夜。
変わらずクロノスは私を抱く。そして抱きしめられて一緒に寝る。
これが最後。慣れた温度に明日からは風邪を引くかもしれないと思った。
結婚式当日。
クロノスとメリーザが結婚し、メリーザは正妃となっただろう。私は出席していない。
うん。大丈夫。泣かないわ。初めから決まっていたことだもの。
4年間、クロノスを独占できた。
本当に幸せな時間だった。
残念なのは、聞きたかった言葉はやはり一度も聞けなかったこと。私も言わなかったけどね。
独りのベッドに入る。……広いわね。本当に風邪を引きそう。
そう思って笑った時、扉が開いた。
「え?クロノス?」
「他に誰が来るんだ?」
「え?なんで?初夜は?」
「するわけない。」
「どういうこと?」
「メリーザは純潔じゃない。よって正妃には不適格だ。
知っているか?純潔を偽って嫁いだ正妃の行く末を。」
「……離宮に幽閉後、修道院行き?」
「ああ。実家絡みだと降爵に。」
「公爵様はご存知なかったの?」
「純潔検査の医師に金を握らせたんだ。知ってたさ。」
「……辞退した方が幸せになれたのに。」
「そこが公爵と娘の愚かなところだ。」
「…そうね。」
「これでマーリアを正妃に出来る。」
「…え?正妃?」
「マーリアが私の唯一の妃だ。」
「私でいいの?」
夢じゃないよね?唯一になれる?
「マーリアじゃないと駄目だ。愛してる。君だけしかいらない。」
「私も愛してるわ。嬉しい。」
抱きついた私に、詳しい話はまた明日。と、ご機嫌なクロノスに今日も熱烈に抱かれた。
クロノスが私だけと言ってくれた。愛してると言ってくれた。もう離れようなんて思わないわ。
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