追放されたら無能スキルで無双する

ゆる弥

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35.事件の黒幕

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 やってきた鮫島さんはおもむろに言ったんだ。
 
「誰が黒幕か見当がついた」

 犯人の黒幕の見当がついたという。本当かな。

「中へどうぞ」

 中に案内してリビングへと通した。

「あっ! 鮫島さん!」

 賢人が身を乗り出して挨拶をする。この人のことを本当に信頼しているんだなとわかる。

「やぁ。今回収斗さんを刺した犯人を追ったところ、黒幕に浮上した人がいます」

「誰なんですか!?」

 賢人がさらに身を乗り出す。
 すると携帯端末を取り出してホログラムを表示させた。

 そこには僕を刺した男が歩いていて、ある高層マンションに入っていく姿が映っていた。
 あれ? このマンションって。

「この高層マンションには、多数のランカーが住んでいる」

 ということはやっぱり。

「このマンションの防犯カメラを調査したところ、高層階への直通のエレベーターに乗っているのが確認できたんだ。ちなみに、この男はこのマンションの住人ではない。その確認はとれている」

「高層階というと誰が住んでいるんですか?」

 賢人も気になるところだったんだろう。

「上から行くと【氷瀑の皇】」

 三人が一斉にこちらを向いた。僕はコクリとうなずく。やっぱりあの二人か。

「それと【風林火山】の武田悠玄だ」

「武田さんはそんなことする人じゃないだろう?」

 そう言い放ったのは賢人だ。
 たしかに僕の両親の方が黒幕としては可能性が高い。
 僕を始末したかったのかもしれないから。

「しかし、いろいろと調べさせてもらったが、収斗さん。君の苗字は皇《すめらぎ》だね?」

「はい。そうです。先ほど、ちょうどその話を三人にしていたところでした」

 ちょっと周りを気にしながら話してくれていた鮫島さん。
 本当にいい人なんだなと少し心が温かくなった。

「どんな理由であれ、親が子どもの命を狙うとは、あまり考えられない」

「でも、ウチの親はやると思います」

 自らの口から出た声は僕の声ではないほど冷ややかだった。

「理由がないわけではない。この男がこのマンションに来たのは一回ではない。何度かきているんだ。その中で、一度。【氷瀑の皇】が外出している時に来ているんだ。日付を見てごらん?」

 動画の日付を見ると二月二十二日だった。この日は……。

「収斗さん。君の誕生日だよね?」

「そうです。ですが、たまたまですよ」

「まぁ。そうかもしれないが、レストランで食事をしていたそうだよ。一個は空席だったそうだ」

 そんなこと今更言われても困る。僕の中にはあの人たちに対しては憎悪しかない。

「すまん。余計なことを言ったね。それであのマンションにいたランカーは、武田悠玄だった」

「でもなんで!?」

 賢人は信じたくないのだろう。鮫島さんにくってかかっている。

「色々と調査してみたんだが、不可解に襲われるような事例はこれが初めてではない。君たち明鏡止水だけでも数回あるだろう? 急にモンスターが進化した、とか」

 思い返せばあったな。
 修業明けのあの日のボスはちょっと異様だった気がする。

「ありました」

 僕がそう答えると鮫島さんはコクリと頷いて話を進めた。

「他のパーティも調べたんだが、ランキングにのってすぐのパーティは軒並みそのような事態が起きて引退するか解散するか、全滅しているんだ」

 頭が冷えていくのがわかる。人を殺したのか? いったい何のために?

「実は情報提供してくれた人がいてね。五人衆《ペンタゴン》というパーティなんだが、知っているね?」

「自分の両親のパーティっす! 動いてくれていたんすね?」

「そうだったようだ。非常に助かったよ」

 僕たちの異変に気づいていち早く調べていてくれていたんだ。なんてすごい人たちなんだ。頭が下がる。

「それで、動機なんだが、恐らくランカーから蹴落とすこと」

「そんなことのために!?」

 僕は声を荒げてしまった。僕からしたらそんなことだった。そんなことのために人の命を。

「ランカーの人たちはそんなことでもないみたいなんだ。それは五人衆の方から聞いたよ。なんでも一度ランカーの地位について安定すると今度は落ちるのが怖くなるそうなんだ。そのために自己研磨はかかせないと。そういっていたよ。違う方法をとってランクを守っている人もいるようだがね」

 そうかもしれないけど。だからって。

「俺は聞いた話からだけど、そんな人には思えない」

「そうだね。世間に出ている話とは全く逆の行いの話だ」

「そうでしょ!? 信じられないですよ」

「私は逮捕状を取りますよ。本格的に逮捕する見込みです」

 そんなことってあるんだろうか。まだ僕の親が犯人だと言われた方がしっくりくる。
 でも、他の関係ない人たちになにかするというのはちょっと考えられない。

「じゃあ、僕は失礼しますよ」

「鮫島さん。ありがとうございます。色々と」

「ははは。いえ。体を休めてくださいね」

「はい! お気をつけて」

 鮫島さんを玄関で見送った。
 衝撃の事実を知らされた僕たちはしばらく沈黙していた。
 賢人はあからさまにショックを受けたように落ち込んでいる。

「しゅーとちゃん!?」

 慌てた様子で入ってきたのは薫ちゃんだった。

「どうしたの?」

「すぐそこの路地でスーツの人が刺されたわ! ここから出るのを見かけたけど知り合い?」

「鮫島さんだ!」

 僕たちはとんでもない事件に巻き込まれたのかもしれない。
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