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26.こういう時のお約束

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「あーっ! 楽しかったぁ!」

「そうですわね。なんだか久しぶりですわ。こんなに楽しく買い物したの」

「そう? リンスちゃんが楽しくてよかった!」

 俺達は少し離れて後ろから追いかけている。
 それが裏目に出るとはこの時は思っていなかった。

「ねぇ、お腹空かない?」

「空きましたわね! ミリアは何がお好きですの?」

「わたしぃ? 私はねぇ、肉!」

「な、なんか野性的ですわねぇ。わたくしは魚介系のパスタが食べたいですわぁ」

 この街にパスタなんてあんのか?
 王都だけじゃないか?

「えぇー? パスタってなにぃ?」

「パスタを知らないですの? あのーネジネジしてあって、プリプリして柔らかいんですが、歯ごたえがあるんですわ」

 あー。そっちね。短い方のやつか。

「知らなぁーい! それも食べてみたいなぁ。ねぇ、それの肉のやつないのかなぁ?」

「あるんじゃありません?」

「そうなの? それならそれがいいなぁ」

 街を見て歩くがそんなにオシャレな店があるとは思えない。一体何処にあるというのだろうか。

「まぁ、この街にあるかは分かりませんのよ?」

 ブッ!
 あぶねぇ。顎が飛んでいくところだった。
 やっぱり、そうだよねぇ?
 そうだと思った。

「そうなんだぁ。探そう探そう!」

 ブラブラと歩きながら店を探していると夕食時とあって人が多く行き交っている。手を組んで歩いている男女。子供と手を繋いでいる家族。飲んで歩いている男達。

 いいなぁ。俺も酒が飲めたら楽しいだろうになぁ。前前世では歌舞伎町でよく朝まで飲んだものだ。

 今の俺は飲めない。
 なぜなら……。
 言うまでもないか。

「お姉さん達ー? 今からどこ行くのぉー?」

 気付けば、ミリア達の前に冒険者風の男達が三人立ち塞がっていた。

「わたくし達はこれからディナーに行くのですわ! 邪魔しないでくださいません!?」

「俺達と一緒にいこうよぉ? ねっ? みんなイケてるー!」

 リンスさんが断っているが、引こうとしない男達。

「私達は連れがいるんです! だから、無理です!」

「はぁ? 連れって?」

 ミリアが俺達を指さす。

「はっはっはっはっ! おいおい! スケルトンと爺さんじゃねぇかよ! あいつはディナー食えねぇだろ? 俺達と行こうぜぇ?」

 しつこく食さがるようだ。

「ぐぬぬ。リンスお嬢様……」

 凄い歯を食いしばって悔しがっている。
 ダンテさん、そんなに悔しい?
 あれに何言われてもなんとも思わないんだけど?

「無理って言ってるじゃないですか!?」

 ミリアが大きい声を上げると、男達の目の色が変わる。

「あぁ!? 大人しく誘ってればグチャグチャ言いやがって! いいから来い! 俺達に酒をつげ!」

 ミリアに手を伸ばす。

 ストロング流剣術 剛剣術
「カタタ(紫電《しでん》)」
 の寸止め。

 縮地により一瞬で距離を無きものにし、男の首に剣を添える。

 男は目を見開き、首からは薄皮が切れたのだろう。血が一筋流れた。

「ナイル? 斬ってもいいよ?」

 いや、ダメだろ流石に。
 斬ったらこっちが悪者になる。

「血、出ちゃってるよ?」

 ちょっと調整ミスったわ。

「調整ミスって首も切り落とせば良かったのに」

 そんな事を言われては、冒険者風である男も頭に血が上るだろう。

「なんだとぉ? クソアマァ!?」

 俺の剣を握って離しながらそう怒鳴り出した。

 あぁあぁ。手ぇ切れちゃうよ?

 案の定そいつの手からは血が流れる。
 まぁ、良いけどさ。

「剣を出したんならお前らも斬られる覚悟ができてるんだろうなぁ!?」

「カタカタ(はいはい)」

「ぐっ!? 抜けねぇ!?」

 そりゃ抜けないよ。
 おれの膝の骨でグリップの端を抑えてるからな。

 抜こうとすると分かっていたから近付いた時にそっちも抑えておいた。でも、一緒にいた残りの二人までは抑えられてない。

「俺達に逆らったらどうなるかわかってんのかぁ!?」

 分かるわけないよね?
 初めてだよ? 会ったの?
 
「おれたちゃあなぁ、泣く子も黙るCランク冒険者だぞ!?」

 俺達もCランクだけど、泣く子は黙らないかなぁ。うーん。

 はぁぁ。なんでこういうヤツらって分かってくれなんだろうか。

 後ろの二人は剣を抜き放った。

 お前のせいでめんどくさくなっちゃったじゃん!

ドスッ!

 突きつけていた剣を離し。
 剣を抑えていた足を戻して膝蹴りを目の前の男の腹に突き刺す。
 倒れて視界が開けた。

 続けて跳躍し、右にいた男の手首にかかと落とし。続けざまにアッパーカットを放つ。

 左の男は剣を振り下ろしてきたが、遅すぎる。
 半身になって避け、ハイキックで脳を揺らしてノックアウト。

 関節の可動域がエグいんだよな。
 筋とかないからね。
 何処までも届くよ。

 元の位置に戻って剣が地面に落ちる前にキャッチした。一瞬でカタを付けたことになる。

「流石ですわね。ナイルさん。素手でもお強いなんて」

「さっすがぁー! でも、コイツらどうするの?」

 一番前の男の頬を叩いてこっちを向かせる。
 目の前まで顔を持っていって告げる。

「カタカタカタタ(見逃してやる)。カタカタ(帰んな)」

 プルプルと震えながらコクコクと頷くと二人を抱えて去っていった。

 あれぇ? 理解出来たの?
 骨なのに。
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