やる気が出る3つの DADA

Jack Seisex

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倉橋⇔アンドロイド⇔死都の未来

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 倉橋は、目を開けた。
『二死満塁』
 女の声が、繰り返し耳の中で鳴っている。
 倉橋は、身体の隅々まで手を伸ばして確認した。
「無い」
 倉橋が呟く。
 無かった。倉橋が探していたのは、自らの《死の証》だった。つまり、剃刀でつけられた致命傷のような痕跡である。
 やはり無い。それどころか、出血すらしていないようだ。
「俺の身体は、いったい」
 倉橋は頭を抱えた。
  すると、
「アンタは、もはやアンドロイドだからっ」
 女の声がした。
 女は、例の剃刀を持って首を振っている。
「ふざけるなよ」
 倉橋が言い返す。
「ふざけてないわ。アンタも、お兄さんと一緒に殺してあげようと思ったんだけど、やっぱり駄目だった。アンタ、もう人間じゃないからさ」
 女は笑う。
「なんてこった」
 倉橋が呟く。
「良かったじゃない」
「良かったって?」
「うん。アンタもやっと、弱虫弱虫とバカにされてきた人生から抜け出せるわ」
「……で、兄貴は?」
 倉橋が聞いた。
 やはり、兄貴のことが気掛かりだった。
「お亡くなりになりました」
 女が言い放った。
「お前が殺したのか?」
「アンタが殺したのよ」
「………?」
「アンタが、容姿が似ていることを利用して、家出したお兄さんのフリをして野球部に勝手に入部したからよ。あの人、あれから、田舎に帰るに帰れなくなった。それからは廃人そのもの。私に殺されて、今頃あの世でホッとしてるわよ」
 女は、そこまで一気に言った。
 倉橋は、黙っていた。
 言葉が見つからなかった。それに、時間とともに、女の言っていることが正しいような気がしてきたのも事実だった。
「結局。アンタは、野球の上手かったお兄さんのようには、一生なれないってことよ」
「お、俺は…これから、どうすれば」
「アンタは、この《死都》でアンドロイドとして生きるの、永遠に」女が歩き始めた。
「待てよ!」
 倉橋が叫ぶ。
 どうすればいいか分からない。とりあえず、女の後を追うべきだろう。
 歩き出しながら、倉橋は後頭部をそっと触った。
(やはり無い)
 後頭部に、円形脱毛症は見当たらなかった。
(……女の言った通り)
 野球の上手かった《兄貴》のようには、一生なれないということらしい。
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