奈央くんと瑞希さん

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奈央くんと瑞希さん

奈央くんと瑞希さん⑤

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「……奈央、俺にずっと乗られてるのきついよね。少しだけ体勢変えても良い?」

 瑞希の長い長い射精がようやく終わった、あと。
 それでもノットは未だ萎む気配はなく、瑞希は恥ずかしそうに頬を少しだけ赤らめながらも、労るよう問いかけた。

「……ん、はい……」

 瑞希の言葉に、ぽやぽやとしたまま奈央が返事をする。
 先程までの妖艶で淫らな表情とはまた違った、しかしとても満足したような蕩けた表情が可愛らしくて、瑞希は募る愛しさに一度奈央の耳の後ろにキスをしながら、ソファに座るよう体を変え、そのまま奈央を後ろ向きで抱えたまま膝の上へと乗せた。

「んあっ!」

 体勢を変えたせいでノットが縁を引っ張り、快感が混ざった痛みに奈央が悲鳴にも似た声をあげる。
 そんな奈央を労るよう、瑞希はソファの肘掛けに垂れ下がっていたブランケットを取り、二人を覆うように被っては奈央を後ろからぎゅっと抱き締め、申し訳ない表情をした。

「ごめんね、痛いよね」
「だ、いじょうぶです……」
「この体勢辛くない? 大丈夫?」
「ん……、むしろしあわせ、です……」

 くてん。と瑞希の厚い胸板に体を沈ませ、肩に頭を乗せた奈央が微笑む。
 背中や腹に回る腕から伝わる瑞希の体温や、自身の奥が重く満たされている感覚が本当にひどく心地好く、ずっとこうしていたいと甘い吐息を溢しながら、奈央はスリスリと瑞希の首筋に額を擦り付けた。

「瑞希さん、愛してます」
「俺も愛してる」

 お互い愛を伝えあい、ふふっと笑う二人。
 奈央の綺麗なピンクゴールドの髪が目の前で揺れ、オメガの特質である明るい髪色の中でも奈央の髪の毛が一番綺麗だと瑞希は目を細めながら、鼻先を埋めては旋毛にキスをした。

「わ、……あ、あの、瑞希さん、いっぱいちゅうしてくれるのは嬉しいんですけど、その、俺、汗臭くないですか……?」
「ん? 奈央はいつも良い匂いしかしないよ」
「うそだ」
「本当だって」

 先程まで汗でぐっしょりと濡れていたのに。と唇を尖らせ匂いを気にしている奈央に、瑞希がクスクスと笑う。
 けれども本当に奈央からはイチゴとミルクの甘い香りしかせず、ちゅ、ちゅ。と瑞希は堪らず何度も色んな所にキスをした。

「甘くて食べたくなる匂いがする」
「……瑞希さんだっていつも良い匂いがしますよ」

 クンクンと嗅いでくる瑞希に反撃するよう、奈央が瑞希の首に鼻を擦り付ける。
 そうすればやはり瑞希の紅茶のような香りが鼻いっぱいに広がり、奈央はうっとりとした表情のまま、微笑んだ。


「ねぇ、奈央」
「……ん、何ですか?」
「今度、奈央のヒートが来る前に奈央のご両親に挨拶させてもらいたいんだけど、良いかな?」
「……え……」

 瑞希の言葉に、幸福に浸り微睡んでいた奈央は幸せそうな表情から一変、途端に顔を曇らせ、口ごもってしまった。

 ──奈央の家は代々、ホテル経営やその他にも幅広い事業を手掛けている、名家である。
 そしてアルファ至上主義でもあり、それ故奈央が産まれたそのめでたい日、しかし両親は奈央を一目見て、ひどく失望したほどだった。

 オメガになる事が約束されているような、美しい宝石めいたピンクゴールドの輝かしい髪色。

 それは両親にとって正しく“望んでいない子”でしかなく。
 それなので奈央は長男であったが当たり前のように後継者候補から除外され、一応蓮見家の者として恥ずかしくないよう礼儀作法や武術などは幼い頃から叩き込まれたが、親の愛などとは無縁で生きてきた。
 けれども、オメガだからと言って冷遇されてきた訳でもなく、奈央はこれまで何不自由なく暮らしてきたので、良く言えば放任、悪く言えば無関心なまま、奈央は蓮見家にとって本当に居ても居なくても良い存在でしかなかった。
 そして、親の愛を知らずに育った奈央だが、今まで奈央を育ててくれたのは三年前に他界してしまったが厳しくも優しい乳母であり、その乳母や親友のお陰で、奈央は今の自分があると感謝している。
 そんな、自身に対して一切の関心がない両親にそれでも挨拶したいという瑞希の言葉に奈央は申し訳なさそうにしながら、口を開いた。

「……えっと……、両親はいつも海外に行ってて日本にあまり居なくて……。なのでもちろん連絡はしてみますけど、いつになるか……」
「……そうだよね、忙しいよね。無理言ってごめんね」
「……いえ。なので、俺が先に瑞希さんのご両親に挨拶させてもらえないですか?」

 奈央の微妙な態度に少々引っ掛かりを覚えつつ、奈央からあまり家族の話を聞いたことがなかった瑞希はデリケートな問題なのだろうかと察し、奈央から話してくれるまで待とう。と心に決め、奈央の髪の毛にキスをしながら微笑んだ。

「うちは全然いつでも良いよ。奈央さえ良ければ、来週末とかでも良いし」
「え、本当ですか!? 俺は全然大丈夫ですし、もし瑞希さんのご両親がその日大丈夫なようであればぜひお会いしたいです!」
「分かった。伝えておくね」
「お願いします!」

 先程の憂いた表情が消え、花が綻ぶように嬉しげに頷き笑う奈央。
 その姿が愛らしく、瑞希が優しく奈央を後ろから抱き締めたまま、耳朶にチュッとキスをする。
 そうすれば鈴の音のような声で奈央がクスクスと笑い、お返しだと瑞希の顎下に柔らかく唇を押し当てた。

「ふふっ、瑞希さんのご両親ってどんな方ですか? それと、弟さんが居るって言ってましたよね?」
「うん。今年高校生になった弟が一人居るよ。それとうちの両親は賑やかで何かと世話焼きな性格だから、煩かったらごめんね」
「とんでもないです! 会えるのすっごく楽しみです!」
「良かった。うちの家族も奈央に会いたいって言ってたから」
「えっ、俺の事話してたんですか?」
「うん。あっ、だめだった?」
「全然! 嬉しいです! でも嫌われてないか心配です……。それに今はまだ嫌われてないかもしれないけど、会う時も気を付けなきゃ」
「嫌うなんてあり得ないよ。むしろようやく恋人が出来たのかって喜んでたし、奈央に会わせろ会わせろってずっと言われてたしね」
「そうなんですか!? ならもっと早く言ってくれれば良かったのに!」
「あは、ごめんね」

 奈央の言葉に少しだけ眉を下げ、瑞希が申し訳なさそうに笑う。
 それに奈央は唇を小さく尖らせたまま、それでも胸をキュンキュンと疼かせた。

「……あの、さっきようやくって言われたって言ってましたけど、瑞希さん、もしかして長いこと恋人が居なかったんですか?」
「長いことっていうか、奈央が初めての恋人だよ」
「……えっ!?」

 勇気がなく、今まで一度も瑞希の過去の交際関係を聞いたことがなかった奈央が、まさかの言葉に目を丸くし驚きに声をあげる。
 しかしそんな奈央の態度に瑞希は不思議そうな顔をしては、小さく首を傾げただけだった。

「え、何。何でそんな驚いた顔するの?」
「嘘だ」
「えっ、そんな嘘つかないよ」
「でもでもっ、とびきり優しくていつも穏やかで凄く格好良くておまけに可愛さもある瑞希さんみたいな人が今まで誰とも付き合った事がないなんてあり得ないじゃないですか!」
「……ちょっと待って、奈央の中の俺、美化されすぎじゃない?」

 奈央からの意図していない賛美に瑞希が仄かに頬を染め、けれどもそんなに出来た人間じゃないと首を振る。
 しかし奈央は、美化している訳じゃなく本当の事を言っているのだ。と力強い眼差しで瑞希を見上げた。

「瑞希さんは本当に自分を過小評価し過ぎです!」
「うーん……。ありがと」
「本気で言ってますからね!」
「ふふ、うん」
「それに、えっちだってあんな凄いのに、本当に誰かと付き合うの初めてなんですか?」
「っ、ゴホッ、す、凄いって……、」
「だって、俺も誰ともしたことないので分かんないですけど、初めては痛いとか、実はそんなに気持ち良くないとか聞くのに、全然そんな事ないしむしろ最初から気持ち良すぎてずっとしてたいくらいですもん」

 あけすけに吐き出される言葉たちは奈央の綺麗な顔に似つかわしくなく、しかし幸せそうに微笑む笑顔はまさに女神のように美しくて。
 そんなギャップに瑞希は顔を赤くしながら、奈央の肩に額を乗せた。

「……そう思ってもらえてすごく嬉しいけど、でも今はやめて。せっかくノットが下がりそうになってきたのに、また勃起しそうだから……」

 恥ずかしげに呟く瑞希の、少しだけ欲に濡れ掠れた低い声。
 それが奈央の背筋をゾクゾクと伝い、未だ繋がっているそこが甘く疼くのを感じた奈央は、瑞希の膝の上で身を震わせわざと腰を揺らした。

「ぁ、ん……、」
「っ、ちょっと、奈央……」
「……ふふ」

 いたずらっ子のように微笑んだ奈央が更に煽るよう瑞希の首筋を鼻で擽り、それから、はむっと首を食んだ。

「んっ、な、なお……」
「……瑞希さん、したい……。瑞希さんの精液、もっとほしいです……」
「ッ!」

 熱が籠った艶やかな声で囁き色っぽく誘ってくる奈央に、奈央がこんなにも性に耽るとは思ってもいなかった瑞希はその普段とのギャップにやはりやられングッと声を詰まらせながらも、奈央の華奢な体を抱き締めた。

「……奈央、ほんと可愛すぎるよ」
「んふふ、瑞希さんにそう言われるの大好きです」
「……ね、奈央、大丈夫ならこっち向ける?」
「ん、はい……。んぁっ」

 少しずつノットが萎んできているとはいえ、未だ繋がったままな為、奈央が瑞希の上で慎重に体勢を変える。
 その刺激で中が擦れ、甘い声を上げながら奈央がなんとか瑞希と向き合う形で膝の上に座り直せば、瑞希が額にキスをし、それから優しく微笑んだ。

「ありがと。そのまま持ち上げるから、しっかり掴まっててね」
「え? う、あっ!?」

 有無を言わせず突然立ち上がった瑞希に、奈央が驚きに目を見開きながら声を上げる。
 自身の重さで瑞希の硬いままの陰茎がズブブッと奥まで入り込み、ビクンビクンッと体を震わせ息を飲む奈央。
 そんな奈央を労るよう、瑞希は抱き締めたまま奈央の背中を優しく擦った。

「っ、は、ぁ、」
「ごめんね、つらい?」
「ぁ、らい、じょうぶ、れす……」
「……可愛い。ベッド行こうね」

 衝撃に耐え、呂律が回らなくなっている奈央を気遣いながらも耳元で囁く瑞希の声は、甘く。
 それにゾクゾクと背筋が震え、キュウゥ。と中を締め付けた奈央は、目をハートにしながら瑞希の首に回していた腕に力を込め、盛大にこくこくと頷いた。

「はい! きょうはもうずぅっとベッドでイチャイチャしたいです!!」
「ッ、な、なお」
「みずきさん、はやく……」

 奈央の言葉に顔を赤らめた瑞希に、しかしすっかりスイッチが入ったのか切なげな声で呟いては、奈央が瑞希の首筋をちぅと吸う。
 その刺激に瑞希がピクリと眉を歪め、それから奈央を一度強く抱き締めたあと足早に寝室へと向かう瑞希に、奈央はただただ幸せそうな表情をしてはしっかりと抱きつき返したのだった。



 ──翌日、ラブラブっぷりを隠すことなく大学で過ごす二人の突然の姿に、青天の霹靂とばかりに大学内が騒然としたのは、また別の話。



【 どうしようもないほどあなたが好きな事、分かってね。ダーリン 】




 
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