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1.※
皇国の宰相セドリック・ラズベルは一人足早に廊下を歩いていた。
円形ドーム状の白い建物が立ち並ぶルドアニア皇国の貴族街には珍しい四角い低層階の建物。
そこにヴィクトールが皇帝に即位した後すぐに設立した魔導具の研究開発を行うための研究室があった。そしてその研究室の扉を乱雑に押し開ける。
「おはようございます、ニコラス研究室長」
「ひっ、、こ、これは。セドリック様では、ないですか。。こんな場所までいらっしゃるなんて·····珍しいです、ね?」
「珍しい?そんなことはないでしょう。先日も来たばっかりですが。お忘れでしょうか?」
セドリックの紫色の瞳が細められ、研究室長のニコラスは背筋が反るほどに姿勢を正した。
研究室にいる研究員は才能溢れる若者が多く在籍している。皇国の次世代を担う優秀な開発者達だ。
室長のニコラスは30代前半で国の機密情報と深く関わる資格のある数少ない人材である。彼を尊敬して研究員となる者も多い。
いつも真面目で手際の良い彼も、セドリックの前ではたじたじである。
「い、いえっ。し、しっかりと、それは鮮明に、覚えております!」
「では、私がわざわざ此処まで来た理由は分かってらっしゃるのでしょうね?」
「び、媚薬の件でしょうか·······」
そう、セドリックが急いで此処に来た理由は、先のレベロン王国での密輸組織の件だ。
皇国の議題にも少し前から上がっていた魔導具の流出。そして時を同じくして皇国の一般市街地で流行り出した媚薬がレベロン王国から流入している事が分かった。
間違いなく通じている。そう確信しセドリックが入手した媚薬。名前は"闇夜の蝶"、ピンク色の粘度のある液体である。
「被検体は得られているんでしょうね?」
「い、いえ······それは·······」
「私は至急、と言いましたが?陛下がお使いになることも考えて遅くとも来週には結果が欲しいのですよ」
「ら、来週です、か·····それは······」
あまりにも早い、と言いかけてニコラスは言葉を呑み込む。
「どんな手を使っても被験者を確保してください。貴方が“慣らし五夜”や“娼館”で使えばいいではないですか。あぁ、神殿の巫女なんてのも良いですね。」
そしてセドリックは窓の外に視線を移し、一際高く大きく豪華に作られた神殿を見据えた。
「神殿の巫女はお金を出せば交わえますし、神の力とやらを得られると考えられているのですから一石二鳥ですね。それであの巫女達に媚薬を使い、よがり狂う姿を拝めるのです。被検体としての数も増えますし、こちらとしては願ったり叶ったりです。研究費は追加で出しますよ?研究室の皆様で行ってこられたら如何でしょうか。」
『よくもまあ、ツラツラと神を冒涜するような事が言えるもんだな』
とは言えるはずもなく、ニコラスは直立不動のままセドリックの次の言葉で冒涜が塗り替えられるのを待つ。
「君も被験者が未だ“一人”では不味いと言う事、分かっているんでしょうね?」
「は、、はい。。」
その“一人”が表す所を、この場にいる誰がニコラス自身だと想像できようか。─────否。
先述したように研究員達が憧れる研究室長である。
昨夜、悪魔の微笑みを浮かべた堕天使によって媚薬で魘されながら、そのそそり勃つ楔を打ち込まれた等。口が裂けても言えない。
「セシル研究員」
「ひゃ、ひゃいっ!!」
セドリックは後ろを振り返り、其々の研究員達が座る席を向いて一人の少女の名を呼ぶ。
突然の事であまりに吃驚したのだろう、彼女の耳と尻尾が勢いあまって飛び出した。
だが、周りに驚く者はいない。この研究室にいる殆どが、彼女が獣人族だということを知っている。
宰相セドリックに保護されている少女であると。
「セシル研究員、私についてきなさい。異論は認めない。あと、獣人族だとバレるような行動は取るなと何度言ったら分かるのですか?」
「っ、、はぁいっ。申し訳ありましぇんっ」
セシルと呼ばれた少女は勢いよく頭を下げる。
セドリックはそのまま無言で彼女の腕を掴んだ。
そして未だ硬直したままのニコラスに鋭い視線を向け、研究成果を来週には報告するように告げると直ぐに研究室を退出した。
「しぇ、せ、どりっくさま。あの、セシルは何をすれば·······」
「私の執務室へ来なさい」
廊下を歩いていたセドリックは転移をするためにヴィクトールが作製したネックレスを握り魔力を流す。そして魔法を発動させた。
──────ぐらり、と視界が揺れ、ぎゅっと瞑った目を見開けば、そこはもうセドリックの執務室だ。セシルは自分の腕を掴んだままのセドリックに向かって声をかける。
「しぇ、せ、どりっくさま·····。セシル、なにかいけないこと、いたしましたかっ、?」
セドリックはセシルを振り返った。
綺麗な艶のある黄土色の肩まで伸びた髪に、大きな瞳は翠と碧のオッドアイ。まだあどけない表情の彼女は先程怒られた事を気にしているのか、白い耳と尻尾を頑張って仕舞おうとしている。
「貴女は危機感が足りませんよ。」
「そ、それはっ。もっもうしわけありましぇ、ん」
しゅん、と項垂れた尻尾で彼女の気分や思っている事は大体読み取れる。セドリックは手を離して、窓際に置かれた自分の一人掛けの椅子に腰かけると机越しに彼女を虎視する。
「ど、どうしたら、、ゆるしていただけますか、」
「セシル、こちらに。」
セシルは冷ややかな表情で椅子に座るセドリックを見た。そして、美しい紫の瞳に吸い寄せられるようにゆっくりと近づいていく。
セドリックに拾われてからもう何年になるだろうか。一人だった自分に居場所も、仕事も、全てを与えてくれたのは、この人。
いつも感情の籠らない口調で表情は笑っているのに、瞳の奥は凍りついたようで何を考えているのか全く読めない。
いつまで経っても全く分からないひと。
椅子に座るセドリックの前まで来たセシルは震える手で白衣(研究室用の白く薄い地のワンピース)をギュッと強く握りしめた。
「せどりっくさま、、ぁの·······ぅっ」
そこまで言ってセシルの唇はセドリックによって塞がれた。一瞬何が起こったか分からず混乱した脳は直ぐに動き始める。そして、彼に顎を掴まれて引っ張られ、身体が前のめりになっている事を認識した。
そうセシルが考えている間にも、浅かったその口づけは、深いものへと変わっていく。
彼の舌が侵入してきて、彼女はそれを必死に自分の舌に絡めた。セシルが何度もセドリックから学んでいる口吻だ。
「君の舌は少しざらついていて本当に良いね」
セドリックはセシルの舌を十分に堪能した後、口を離して舌を引き抜く。それと同時に前のめりの体勢になっていたセシルの口から涎が零れ落ちた。
「ぁぅう······しぇどりっふ、しゃま·······」
溺れるような口づけにセシルの顔は既に上気し、赤くのぼせている。
「成人してから接吻の調教をしてきた介がありますね。でもまだ、獣人族のいうところの発情期まではまだあと1年近くあるのでしたっけ?」
セドリックは彼女の腕を掴んで自らの膝の上に座らせると尻尾を緩々と触っていく。
「っ!しぇ、どっ····りっく·····しゃまぁっ、!」
「嗚呼、発情期に貴女が自分自身で己の欲望に逆らえずよがり狂う姿を、早く見たいものですね。」
尻尾を触られるたびにビクッと小刻みに震えているセシルの身体を抱き寄せてセドリックは妖艶な笑みを浮かべた。
「まあ、でも。調教のしがいはあるのでしょうね。
ほら、、──────」
─────徐ろにセシルの白衣を捲り、彼女の股に手を滑りこませる。下穿きを掴んで横にズラすと、指では一切触れる事なく手の甲で割れ目を拭った。流れるような一連の動作はまさに、神業だ。
「ひぃゃあぁっっ····!」
「もうこんなに愛液を溢れさせるなんて、貴女は本当にダメな子ですね?教えた覚えはないのですが?」
あまりにも恥ずかしい言葉に顔から火がでるほど熱くなり、セシルは顔を両手で覆った。
「っ!も····もうしわけっ、ありましぇんっ·····、」
「いえ、良いんですよ?ちゃんと、仕事をやって頂ければ。あれは貴女にしかできない事ですからね。
でも、そうですね······。ダメな子にはお仕置きはしないといけないですね?」
そしてセドリックは執務室の引き出しから瓶に入ったピンク色の液体を取り出した。
「あぁ、大丈夫ですよ。これは達すれば楽になれる様なので。簡単です。先ずはそれを憶えましょうか。」
彼女は未だ知らない、口づけより先のその快楽を。
彼女は未だ知らない、肉欲の沼におぼれる悦びを。
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