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13 セドリックの決意
二日後、セドリックは皇城へと登城した。
実に五日ぶりの登城である。
「ヴィクトール様、」
「ああ、セドリックか。」
セドリックは窓際の席に座って脚を組むヴィクトールの前まで歩き、跪く。
「御前、失礼致します。」
「心は、、決まったようだな?」
ヴィクトールはセドリックをちらりとみて直ぐにまた窓の方に目を向けた。
「はい。ですが、何故、書物室なのですか?」
「あぁ、此処か?この窓からは、離宮と城の庭園が両方見えるのだが。リリアーナがよく通るから、な」
「なるほど、」
「あぁ、噂をすれば、」
ヴィクトールの目線の先を追うようにセドリックが窓の外に目を向けると、リリアーナとセシルが楽しそうに庭園を歩いていた。
『セシル·····。あんなに楽しそうに笑うのですね』
久しぶりに彼女を見て高鳴った心も、そう考えて、ずきりと痛む。
「笑った顔は、初めて見ました······。」
「そうだな。俺もリリアーナの見たことのない表情が見れる。だから此処が気に入っている、」
そう言うとヴィクトールは席を立った。
「今から、執務室にタリタン子爵とシエナ嬢。それからジョシュアを呼ぶ予定になっているのだが。お前も来れるのだろう?」
「はい、勿論でございます。その前に陛下。」
「なんだ、」
「私めを本気で殴って下さり、有り難うございました。私は、セシルを妻に娶りたいと思います。初夜の印は保管してあります。それを以て婚姻とさせて頂きたいのですが、お力添え頂けないでしょうか。」
セドリックは深くお辞儀をしながらヴィクトールの言葉を待つ。
「そうだな。タリタン子爵への慰謝料はしっかりと払い、シエナ嬢の嫁ぎ先は全面的にお前が支援せよ。それを約束できるのであれば、お前の婚姻への力添えはしよう。
──────それに、俺は本気ではなかったが。」
「そうですね。ヴィクトール様が本気でしたら、私は抹殺され、ここにおりませんね。」
そして二人は書物室をでて、執務室へと向かう。
執務室の扉を開けると、そこには既にタリタン子爵とその娘のシエナ嬢がいた。
ヴィクトールが入室すると二人は直ぐに席を立つ。
「「陛下の御前失礼致します。」」
「楽にしてくれ、」
ヴィクトールが彼らの前にある椅子に腰掛けると、直ぐにセドリックが頭を下げた。
「タリタン子爵、此度の件、本当に申し訳ありませんでした。全て私、セドリック・ラズベルの責任です。この結婚ですが、一度白紙に戻させては頂けないでしょうか。
慰謝料は当然お支払い致します。そして、シエナ嬢の嫁ぎ先に関しては私が責任をもって全面的に支援致します。彼女の名誉に傷がつかぬように·······」
「セドリック様、頭をお上げ下さい。大変残念な事ですが、娘にも至らぬ点があったのでしょう。慰謝料の件も娘の嫁ぎ先の件もそのお気持ちで結構で御座います。セドリック様、我が娘にご誠意を見せて下さりありがとうございます」
「タリタン子爵、今回の件は私の不徳とするところでもある。この件に関しては私からも助力しよう。」
「陛下、お心遣い感謝致します。」
「シエナ嬢も、本当に申し訳ありませんでした。」
「いえ、セドリック様。もし願いを一つ叶えてくださるのでしたら、先の約束を───────」
シエナがセドリックに初夜の時に話した約束の事を話そうとした時、執務室の扉が叩かれ、仕事で遅れていたジョシュアが入室してきた。
「遅れて申し訳ございませんッ!陛下の御前失礼致します!」「────っ、!!ジョシュ、、、?」
「?!シエナ?何故ここに?」
途中まで話しかけていたシエナは入室してきたその人を見て驚いて立ち上がった。
その様子を見て、ヴィクトールはジョシュアに向かって口を開く。
「二人は知り合いなのか?」
「···········、」
「っ、えーと、シエナ嬢とは、、街で知り合って。でもなんで此処に、?」
歯切れ悪く吃るように言ったジョシュアにヴィクトールは頷いた。
「ジョシュア、セドリックはタリタン子爵の二女であるシエナ嬢と婚姻予定だったのだが、今この時を以てそれが白紙となった。そしてお前にも急な事で悪いのだが、セシル嬢をセドリックの妻としようと考えている。」
「なるほど、、シエナは貴族だった、のか」
「ジョシュ、騙していたわけではないの·······」
シエナはスカートをギュッと摘んで俯く。
それを視界の端に捉え、ヴィクトールは言葉を続けた。
「今は、セドリックのタリタン子爵に払う慰謝料と、シエナ嬢の新たな嫁ぎ先の全面的な支援を考えているところだ。お前にも迷惑をかけた。何か希望があればそれを聞き届けよう。」
すると、じっと下を向いて独り言を呟いていたジョシュアがヴィクトールを真っ直ぐ見て言葉を発した。
「陛下。以前、自分に爵位を下さるとの事、仰っていましたよね?」
「そうだな。それを視野に入れている、」
「でしたらっ!何か試験のような任務を下さい。
そしてそれを達成したら爵位を俺に下さい!そうすれば、貴族位があれば、、、シエナを妻に貰うことは出来ますか?」
「「ええっ?!」」
セドリックとタリタン子爵は口を開けたままジョシュアを見て固まっている。
逆にシエナはその瞳に涙を浮かべて彼を見た。
「ジョシュ·······、」
その表情にヴィクトールは二人の関係を察して頷く。
「なるほど。そうゆう事か。お前の気持ちは解った。それで、シエナ嬢はどうなんだ?」
「私はジョシュ·····ジョシュア様と共にいたい、です。」
「タリタン子爵。こうゆう訳だが、どうだろうか?
ジョシュアは確かに平民出身たが、騎士団団長として地位も確立している。自分の邸も持っているし、今後は爵位授与も考えている。悪くはないだろう」
タリタン子爵はヴィクトールに頷いて肯定の意を示してから、ジョシュアに向き直った。
「ジョシュア様、タリタンと申します。その強さを持って国を守る砦となっている貴殿の事は存じ上げております。そんな方に娘を委ねる事ができる事光栄に思います。こんな娘ですが、よろしくお願い致します。」
タリタン子爵、シエナ、ジョシュアの三人が今後の流れを決めるため揃って退出すると、ヴィクトールがすぐに口を開いた。
「さて、私はリリアーナに話しがあるから行くが、お前はどうする?」
「はい。私も、セシルを迎えに行きます。」
「ああ、それと神殿についてだが、明日までに話を回しておこう。初夜の印は明日以降に提出すれば良い。まあ、だが······シエナ嬢とジョシュアが上手く纏まって良かったな、」
「そうですね。少し驚きましたが。それにしても、ジョシュアの任務は如何するのですか?」
「まあ、それは今後検討するとしよう、」
ヴィクトールが退出するのをセドリックは追いかけ、隣に並ぶと、もう一度深くお辞儀をした。
「陛下。本当にありがとうございました。」
そんなセドリックの言葉を煩わしそうに片手で制して、歩を進める。
そんな彼の背中を追いかけながら、セドリックは今後のより一層の忠誠を誓った。
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