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第一章 王国、離縁篇

PV4万記念閑話:レベロン王国最後の夜、シャルロン兄妹

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 ルドアニア皇国との話し合いに時間がかかり、出立は翌日の朝に変更された。
 そして、現在リリアーナは公爵家の私室にて就寝前の紅茶を飲んでいる。

「ねぇっ、見た?凄いでしょアレ!」
「お酒を用意した時に見たの?水も滴るいいオトコだったわぁ!」
「あんな色気の男に抱かれたいっ」

 バタバタと廊下を走る音が聞こえ、侍女達がキャッキャとお喋りをしながら通り過ぎていく。

「リリアーナ様、申し訳ございません。侍女たちが皆浮かれているようですね。私が喝を──「いいのよ、それより、誰のことかしら?」

「きっとルドアニア皇国の方々でしょう。ルドアニア皇国の男性陣とレイアード様は現在お部屋でお酒を酌み交わしているようですので」

「はぁ、」

 ルドアニア皇国の方々、とは要するにヴィクトールとリチャードの二人の事だ。ルーカスはリリアーナの部屋の前で護衛をしているのだから。

「良いではないですか。リリアーナ様の婚約者様なのですから」

「まあ(見目はすごく整ってるわけだし)女性の人気も高いのでしょうね。ルドアニア皇国には側室もあるのよね、きっと。皇族なのだし。妻が一人の筈がないわね····」

「ルドアニア皇国の皇族の事情は判りかねますが、リリアーナ様は皇后になられるのですよ!側室が何人いようが1番に決まっています!」

「··(その自信持ってください!みたいな目よ、)」

 リリアーナはジト目でラナーを見つめた。

「それに、ルドルフ様だったのですよね?やはり、両想いだったではないですか!自分のお気持ちは伝えられたのですか?」

「そうね、確かにルドルフ様だったわ。でも、あの人と未だその話はしていないの。彼から、あ、あ、あいしている。と、言われたのだけれど·······」
「きゃあ!!」

 リリアーナは恥ずかしさから顔を俯けた。
 ラナーはリリアーナの目の前で、きゃあきゃあ、と黄色い声をあげながら体をくねらせている。 
 そう、なんか、モジモジと。

「でも自分の気持ちは言えずに、時間切れとなってしまったのよね········」
「大丈夫ですよ。婚約者となったのですし、夫婦になるのだから、時間はたっぷりあります。急がずゆっくりお話していけば良いと思いますっ。」

 ラナーはほほ笑んで、冷めきった紅茶を温かいものに代えていく。リリアーナはその淹れたての新しい紅茶を啜り、目を閉じて今後のルドアニア皇国での人生について思った。

『あの方をお支えすると決めてしまったのだから、どのみち頑張るしかないわね。まあ、こんなに早急に人生が変わるとは思ってもなかったけれど』


◆◇◆


 レイアードは目の前に腰掛けた二人を見る。
 
 風呂から上がったばかりなのか、黒髪は少し濡れて更に艶ややかになり、部屋着の楽な長袖長ズボンを身につけているのに、全く安見えはせず、脚を優雅に組みながら酒を飲む男。

 そして、その横には「風魔法で髪乾かさないと風邪ひきますよーっ」と軽いノリで突っ込むピンク色のフワフワ髪をもつ女のような見た目の男。

 前者がルドアニア皇国皇帝陛下、ヴィクトール。
 後者がルドアニア皇国、白騎士団団長、リチャードである。

レイアードが彼らに会うのは初めてではない。
青春時代の三年間リドゥレラ中立国の魔法学園で共に勉学に励んだ、所謂同級生だ。

「俺はそんなヤワではない、」
「またぁ!とかいってると風邪ひくんですよ!それに公爵家の侍女達に人気だしてどーするんです?僕が乾かしますからっ」

 リチャードは風魔法に火魔法を併せて熱風に変えるとそれをヴィクトールの髪に当てはじめた。
 侍女が黄色い声を出しているのは多分二人共になんだろうが、それについてはレイアードは何も言わないでおく。

 そんな中、髪を乾かされながら微動だにしなかったヴィクトールが唐突にレイアードに話を振った。

「あぁ、レイアード。皇国に着いたら、先ずは我が国に二つある騎士団のうち白騎士団に所属して貰おうと考えている。その後、黒騎士団に異動して経験を積めばいいだろう」

「よろしくね、レイアード君♪」
「陛下、こいつ年齢は俺より下ですよね?」

 軽いノリのそれに、少しむっとするレイアードを、全く気にしない様子でリチャードは頷く。

「うんうん!僕はリチャード・ランブルグ、ルドアニアにある三つの公爵家のうちの一つランブルグ公爵家の次男で十九歳だよ!学園には飛び級制度で入ったからね♪」

「白騎士団の団長だからこれから共にいる事が多いだろう」
「げっ」

 レイアードは補足で呟いたヴィクトールに向かってあからさまに嫌な顔をした。
 確かに、学園にいた時に小さな子供みたいな奴だったな、とレイアードは思い出す。
 聞いてはいたが、こんな奴が騎士団の団長か。

「ルドアニア皇国にはこんな奴らがごろごろいるのですか?俺が知ってる、学園在籍者は五人だったような」
 
「あぁ。俺、リチャード、それから今宰相をやっているセドリック、そしてヴァルツナー公爵家嫡男のオリリアスと白騎士団副団長のシャルロッテか?」

「えっ!シャルロッテ?シャル、とは女性だったのですか?」

「そうだよっ?まあリドゥレラでは性別を隠していたからね♪そういえばシャルももう二十四歳ですねっ」
「女性の年齢を晒すのは良くないぞ、」
「でも陛下が結婚しないからみんな結婚できないんですよ?きっと。でも、これからはみんな結婚ラッシュかなぁ?」

「へえ、あいつ、女だったのですね」

 レイアードはリドゥレラの学園でルドアニア皇国勢の中にいた少し華奢でクリクリとした大きな蒼色の瞳に同色短髪の男子が実は女だったという事実に衝撃を受けた。

 確かにルドアニア皇国勢でもあいつだけにしか勝てなかったな。そうか、女だったのか。
悔しいが、きっと魔法の才能は互角位だろう。

「そうだ、リチャード。今後はレイアードと共に行動してくれ。色々教えてやるといい。転移はせず、三泊四日の行程でリドゥレラ経由で皇国に帰る。その頃にはセドリックが民に俺の婚儀について広めているだろうしな」

 レイアードは目の前に座るリチャードに目を向ける。確かに子供だったが魔法も魔力量も別格だった。剣術や武術のセンスも人並み以上にはある。
 リチャードにしろ、シャルにしろ本当にまだまだ自分の知らない事が皇国には沢山あるのだろうな。

 そう考えながら、置かれたまま手をつけていなかった酒を飲み干し、目を閉じて今後のルドアニア皇国での人生について思った。


『ヴィクトール陛下の元で自分の力を推し量ってみたいと考えてしまったのだから、どのみち頑張るしかないだろうな。まあ、こんなに早く人生が変わるとは思ってもなかったが』
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