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第一章 王国、離縁篇

36. ヴィクトールの、今後の展望

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 ルーカスとリチャードの進言により、リリアーナはヴィクトールと二人きりになった。とはいっても、ひらけたサロンから他の面々が出ていっただけなので密室ではない。

「········」
「リリアーナ、先ずは、私の妻となる決心をしてくれたこと礼をいう」

「貴方は、ルドルフ様で合っているのですか?見た目も全く違うようですが」
「あぁ、ルドルフは中立国の冒険者になるために作った名前だ。見た目は魔法で変えていたが同一人物だ。貴女も、見た目はリリア嬢とは違うようだが中身は変わらないのだろう?同じことだ」

 彼に対する不満から少し嫌味をいれてみたのだが、流石は皇国の皇帝だろうか。そのまま嫌味で返されて、リリアーナは頬を膨らませる。

「(確かに、私もお兄様の魔法で見た目を変えていたわね)·······」
「不満そうな顔をしても貴女は美しいな」
「っ、」

「俺のことを色々と聞きたいのだろう?俺も貴女のことをもっと知りたい。だが、それはこれから時間をかけてお互いに知っていくというので良いだろうか?今は今後の方針を話さなければいけないんだ」
「はい·······、」

「だが····ただ一つ、これは忘れないでくれ。俺は、貴女を愛している。ずっと妻にと望んでいた」
「あ、あ、、あいし········」

 その言葉で顔から火がでるように熱くなる。
 “自分も。自分も貴方に恋をしていた······。”
 そう言うと決めていたのに。言いたいのに、その言葉が思うように出てこない。

 そんなリリアーナの気持ちを知りもせず、ヴィクトールは直ぐに立ち上がってパンッと手を叩いた。
 それを合図に先程の面々がサロンへと戻ってくる。

 恥じらいから言葉を伝える事ができなかったリリアーナは大人しく椅子に座って話を聞くに呈した。
 その隣に腰を下ろしたヴィクトールは周りを見渡してから沈黙を破る。


「先ず、こちらの紹介がまだだったな。
リチャード、俺の側近の一人だ。そしてルーカス、今後リリアーナの専属護衛となる予定だ」

 視線のみで二人の紹介をした後、ヴィクトールは先を急ぐように話を続ける。

「先程は、レベロン王国国王とシャルロン公爵立会いのもと話し合いをしてきた。結論からいうと、魔法師団(こうしゃくぐん)は王国騎士団と統合する。シャルロン公爵が騎士団の全体指揮という事にはなるが、あまり期待は持てないだろうな。リリアーナを俺が娶ることについても、色々と条件をつけてきた位だ」

「父上が自軍を失うことは公爵家が力を削がれたも同然ですね。それにリリアーナの件、国外追放といっておきながら条件を付けてくるとは強欲な········」

「リリアーナの名を出して、我が国とレベロン王国の同盟を求められたのだが、それは断った。そこまでする義理はない。レイアードの言う通り、リリアーナを追放したのは王国だ。だが、一先ず友好国ということで一方的な侵略はしないと誓った。
────────と、ここまでが表面的な話だ」

 一度話を区切ったヴィクトールは怪しい笑みを浮かべている。まるで、楽しそうなオモチャを手に入れたかのように黄金の瞳が不敵に鋭く光ったのを見て、レイアードは息を飲んだ。

「────では、我々皇国の今後の展望といこう。
 今後、皇国に害があった際はこれを放棄し全面戦争とする。一切の手は抜かない。そしてそうなれば、シャルロン公爵は皇国にてシャルロン侯爵とし、皇国の騎士団の指揮を担ってもらう。
また、今回のレベロン王国国王の采配で、王国直轄になる魔法師団こうしゃくぐんの連中で希望者がいれば皇国にて引き取ろう。
最後に、これは先程公爵から頼まれたのだが。レイアードは皇国に留学生として受け入れる。以上だ」

「え、はっ?! ちょ、父上どういうことですか!」


 黙って聞いていたレイアードが大きな音を立てて立ち上がる。それを横目で見た公爵はゆっくりと口を開いた。


「そのままだ、レイアード。お前もいった通り今回の王の采配で我が家はほぼ力を削がれた。これも子爵の思惑なのだろうな。そして今後の王国に未来はない。ヴィクトール陛下があそこまで仰っているということは、皇国側からするともう王国ここを滅ぼす目処はついているんだろう。お前がすべきことは、いち早くルドアニア皇国にて繋がりを増やし侯爵となった際にすぐにそれを役立てることだ」

「······分かりました。確かに、友好国となったのですし、妹の嫁ぎ先に魔法を学びに行くという名目なら怪しまれませんし、ね」

 レイアードは少し考え、頷いた。
 父の言う事は筋が通っているからだ。
 “シャルロン侯爵”として皇国に移住する際にスムーズに仕事が回せるようにレイアードが繋がりを作って信頼を得ておく事は必須なのだろうから。


「心配するな、リリアーナ、レイアード。死ぬわけではないのだよ、また会える。」 


 公爵はリリアーナとレイアードに微笑んだ。
 とても温かみのある優しい父親の笑顔で。

 そしてこの笑顔がリリアーナとレイアードの見た父親の最後の笑顔となるのだが。
 それを知るのはまだずっと、先の話。

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